買い出し 四件目
「ふぅ……これで全部だな。」
「はい……。」
俺とアースリアは疲れながら石段に腰を掛けた。
実は、奴隷であるアースリアを見た貴族が「その奴隷を売れ。」としつこく迫ってきてそれに怒ったルーナが無詠唱で『ウィンド・ショット』を放ち、文字通りの意味で貴族が空を飛び、それを見た衛兵たちが来たため、二人揃って逃げていたのである。
「まぁ、買いたい物は買えたから、次は闇市場に向かうとするか。」
「分かりました。……ですが、危険は無いのですか?」
俺とアースリアが立ち上がり、歩き始める前にアースリアが俺に質問を投げ掛けた。
「……大丈夫だと思う。」
少し考えた後、俺は笑顔でアースリアに答えた。
実際、ブラックマーケットは合法、非合法問わずに販売しているが基本的に弱い奴が喰われていくだけで強い奴はしっかりと生き残れる場所。つまり、弱肉強食が掟という場所だ。
その点、ルーナの悪名はブラックマーケットにも広く知られているためルーナの配偶者や本人に手を出す奴は少ない、と俺は考えたからだ。
「では、そこに向かいましょう。」
「あぁ、そうだな。」
満面の笑みで歩き始めたアースリアの後ろから俺が歩いて行った。
「それで、ブラックマーケットはどこにあるのですか?」
「……こっちだ。」
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「ここだ。」
「ここですか?」
俺とアースリアがたどり着いたところは市場の脇にある行き止まりだった。
「どこにもありませんよ?」
「アースリア、ちょっと壁を押してくれ。」
「……?分かりました。」
俺と言葉に従いアースリアは壁を押して
「うわぁ!?」
そのまま倒れた。
「ルーナ様!?これは一体なんですか!?」
「これは無属性魔法の一つ、いわゆる『幻術』ってやつだよ。」
飛び上がったアースリアの質問に俺は簡単に答える。
幻術とは、その名前の通り幻を見せる魔法である。ただ幻を見せるだけの魔法のため、ほとんどの使われていないが、物を隠すのには非常に重宝されている魔法である。今回の場合は壁の幻を見せる魔道具を置いて置くことで壁の幻を見せているのだ。
「さっさと行くぞ。」
「はっ、はい!」
そのまま、二人はブラックマーケットの中に入っていった。
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「凄いですね。」
アースリアは感嘆の声を上げた。
ブラックマーケットの中は全体的に薄暗く、多くのランプが置かれており露店の店員はローブを羽織っていてフードで顔がよく見えない人が多い。また、一部の場所では賭博が行われていて大きな声があがっていた。
「まぁ、そうだな。……にしても、やっぱり見つからないな。」
(やはり無いか……。)
アースリアの言葉を肯定しつつ、俺は心の中で落胆していた。
ルーナたちが探している呪詛道具は非常に希少で見てきた露店のどこにも存在していないのだ。
(仕方ない、今日は帰るか)
「そこのお兄さん。ちょっとよっていかない?」
諦めて帰ろうとしていた俺に一人の女性が話しかけて来た。
その女性は、アラビアの踊り子風の扇情的な服を着て浅黒い肌と豊満な胸が多く露出し、銀色の髪と翡翠色の瞳をしており、何より尖った耳をしていた。
(珍しい、ダークエルフか。)
俺は女性をまじまじと見つつ、内心、興味がわいてきていた。
ダークエルフとは遥か昔のエルフが突然変異して生まれた種族である。エルフよりも筋肉質で白兵戦ではエルフよりも強く、魔力量も一般的なエルフよりも多い。その為、奴隷商に狙われたり迫害されたり半端者であるルーナと似たような立場である。
「それで、何のようだ?」
「ちょっと見てきなよ。」
俺の質問に答えずに女性は俺に自分の商品売り付けてきた。
(……なかなか良い魔道具が多いな。…?これは?)
売られていた魔道具を称賛しながら見ていた俺は一つの本の手にとった。
その本は黒を基調とし、鎖が表紙絵を飾っており、まるで呪われた本という雰囲気を醸し出していた。
「それは古い遺跡からこっちに流れてきた骨董品だよ。」
「…………そうか。なら、これを買おう。いくらだ?」
「タダでいいよ。骨董品だし。その代わり、名前を教えてくれない?」
「……ルーナだ。」
「……!(えっ……?)」
俺がタダで本を貰う為に女性の条件を飲み、名前を言い、名前を聞いた女性が驚いた顔をした。それは本来ここに来ることがない者が来たような顔だった。
「どうかしたのか?」
「い、いえ、何も無いわ、それじゃあ私の名前も教えるわね。私の名前はレティーナ、ブラックマーケットで魔道具商を営むダークエルフよ。」
(どうして、どうしてどうしてどうして!?)
驚いたことを尋ねた俺に対して、レティーナと名乗った女性は本を渡した。
レティーナはこの動揺を押さえる為に一刻も早くルーナを引き離したかったのだ。
「じゃあな、レティーナ。」
「ええ。」
「行きましょう、ルーナ様。」
「あぁ、わかった。」
レティーナと別れた俺とアースリアはブラックマーケットから出ていった。
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「何で……、何であなたの息子がいるの……?」
ルーナたちが離れていった露店の陰でレティーナは一人、泣いていた。
「セレナお姉ちゃん……。」




