夜の一時
「奴隷紋と本体の価格で金貨十枚ですよ。ほっほう。」
「へいへい。」
ピエロのような奇妙な動きをしながら金貨の請求してくるバージに、俺は辟易と見ながら言われた金額どうりの金貨を渡した。
奴隷紋とは奴隷たちの全員の首に付けられている首輪のことをさす。
昔は奴隷に焼き印を押し、奴隷と言う身分であることを第三者に知らせる事が目的だったが、今では『隸属の首輪』と言う魔道具が焼き印の代用となっている。
奴隷紋と言う言葉は昔の名残である。
「行くぞ、アースリア。」
「分かりました、ご主人様。」
「ああ、ご主人様とかそう言った口調はいいよ。俺、そういうの苦手だし。」
アースリアを買い、奴隷商の店から出た俺はアースリアの口調を真剣な顔で注意する。
俺自身、基本的には平等な性格をしており、身分とかを気にしないため目上の人に話すような口調は余り好まないのだ。
「………分かりましたルーナ様。」
「…………結局様付けかよ……。まあいっか。さて、取り敢えず今は夜だし家に帰るか。」
今の時間帯はとっくに深夜に差し掛かっており、ほとんどの人は寝付いてる時間だ。
冒険者にとってこの時間帯は魔物の奇襲や盗賊の奇襲を最も警戒する時間だからか周りを見渡しつつ周囲の気配の探っていた。
「私はルーナ様の奴隷です。ルーナ様の言葉は何ごとよりも優先されるべき事柄なのです。私はあなた様に従います。」
「そんな事は良いのに。俺らは一応共犯者なんだ
「それに……よ、夜伽をするにはちょうど良い時間だと聞いていますし……。」
「まてまてまてぃ!」
真面目な顔をしながら俺に受け答えした後、俺の言葉を遮って頬を赤めらせながら卑猥な言葉を紡いだアースリアに、俺はその言葉を停止させる。
「何でそんな思考になる!?」
「い、いえ、私の教育係の人がそのようなことを口にしていましたので……つい……。」
(そいつ、どこのどいつだ?見つけてとっちめてやる。)
「うわぁうわぁうわぁ!?」
余りにも突拍子も無い考えに驚きながらそんなことを教えた教育係を抹殺リストに加えつつアースリアの両肩に手を置き彼女の体を揺らす。
俺は前世で貞操観念がしっかりとした国で生活をしてきた為、この世界の人の中ではかなりウブな性格をしているのだ。
「て、早く行かないとジジイが寝ちゃうな。」
「え、ええっ!?」
アースリアの体を揺らすのを止めた俺は星と空の明るさで大体の時間を把握して居住している家に向かって走りはじめ、それに合わせてアースリアも走り始める。
「じ……ご老体とは一体誰ですか?」
「俺が住んでいるところの大家さんだよ。」
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「さて、ついたぞ。」
「はぁ…はぁ…。こ、ここですか。」
走り初めて約十分、いつも道理の口調でしゃべる俺と息を荒げて主を追ってきたアースリアが着いたのは『ギーン鍛治屋』と言う木の看板が立てられた一件の鍛治屋だった。
二階だての木造建築で一階は販売場となっており
二階は居住スペースとなっている、良くも悪くも極々普通な鍛治屋の家である。
「よし、ジジイは起きているな。ただいまー。」
「ちょっ!?返事が無いのに入っていいのですか!?」
屋根に付いた煙突から煙が出ているのを確認した俺は挨拶をしながら扉を開けて室内に入っていき、その光景を見たアースリアが俺を注意する。
魔族では一般的に返事をしない時は家の中には入らないというマナーがあるためである。
「ま、そこら辺は別にいいよ。それにジジイは聞こえて無いだろうし。」
「そ、そうですか……。し、失礼します。」
俺のあっさりとした返答に驚きながらもアースリアは室内に入った。
室内の至るところに剣や槍、盾などのポピュラーな武器の他に苦無やモーニングスター、ブーメランなどの一風変わった武器も置かれている。
「す、凄いです量ですね……。」
「そうか?まあいっか。取り敢えずジジイを紹介しに行くか。」
「へ、あ、ひゃあ!!」
部屋に出されている武器の量に驚いているアースリアの手を繋ぎ、ルーナは部屋の中にある扉に向かって歩いた。
「おい、ジジイ!こんな時間まで起きているのか!」
「うっさいわい!」
「うわっ!?」
「えっ?ひぃゃあ!」
扉を蹴り破り部屋の中に入る初老のドワーフに話しかけた瞬間、ドワーフは持っていたハンマーを俺に向けて投げてきた為、俺とアースリアは頭を引っ込めて避けた。
品物が置かれている場所に当たり、ガジャン!という音と共に幾つかの武器が床に落ちた。
「なんじや、ルーナじゃったか。」
「たく……いきなり投げてくんなよジジイ。」
「まあよいわい。」
つまらなさそうな顔をしつつ話しかけてくるドワーフに呆れながら俺はドワーフに注意する。
「それで、そちらのドラゴニアスの少女はどこのどいつじゃ?」
「わ、私の名前はアースリア・リーンと言います。ルーナ様の奴隷でしゅ!」
「なんじゃ、奴隷か。まあよいわい。儂の名はゴーレンス・ギーンじや。」
アースリアは舌を噛みながら自己紹介をし、ゴーレンスは興味なさげにアースリアに自己紹介をした。
「それで整備を頼んでいた物は?」
「そうじゃった。ほれ、これじゃ。」
ルーナが真剣な顔でゴーレンスに話しかけ、何かに気付いたかのようにゴーレンスは部屋の中に入り一本のレイピアよりも少し太い片手剣を取り出してきた。
「お、ありがとな。」
「いや、別に構わん。そうじゃ、その少女にも武器の少女を作ろうかの。ついでに戦闘衣もあやつに作らせておこう。」
「え、いいのですか!?ではまずはー」
ゴーレンスに礼をした俺はすぐさま剣を振り、その剣が自分の体にあっているか確かめ、その間にゴーレンスはとある人物に手紙を書き、アースリアは自らの戦闘服に関してのオーダーをゴーレンスに伝えた。
「よし、いい調整だ。」
「ー本当にいいのかい?」
「はい!」
ルーナが素振りが終わったのと同時にゴーレンスとアースリアの武器と戦闘服のオーダーが終わった。
「んじゃ、俺は寝るで。」
「あ、はい!」
「おう、しっかりと寝るんじゃぞ。」
部屋の中にあった階段を登り、二人は二階のルーナの部屋の方に向かった。
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「さて、ここが俺の部屋だ。」
「は、はい。」
俺は二階にある部屋の一つを開けてアースリアを中にいれる。
中には、簡単な武器の整備用品と携帯食料、更にベッドとタンスが置かれているだけでとてもシンプルな部屋だった。
「それじゃ、俺は床に寝るでアースリアはベッドで寝てくれ。」
「普通逆では!?」
俺の発言に対して、アースリアはストレートに反論した。
何せアースリアの身分は奴隷であり、俺にはその上に立っている存在。そんな人が床で寝るなんてあってはならないのだ。
「じゃっ、お休みー!」
「ちょっ!?ルーナ様ァ!?」
そんなことも露知らず、俺はタンスの中から毛布を出して床に横たわり眠ってしまった。
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「はぁ……。本当に変わった人です……。」
ルーナ様の寝顔をみながらアースリアは頬を赤く染めながら見ていた。
「こんな人、私は初めて会ったなぁ…。」
アースリアは天井を見上げながらぽつりと言葉をこぼした。
城での生活、奴隷としての生活、買い手先での生活、様々な場所で生活してきたアースリアでも、ここまで自由な性格をしている存在はいない。
「でも、ここで引き下がってはダメですよね。」
アースリアはルーナの体を持ち上げ、ベッドの上に横たわらせた。
「……いくらなんでもこの格好ではいけませんよね。」
ベッドに入る直前、自分が今着ている服が非常に汚れている事を見たアースリアは服を脱ぎ、買い手先で見たことのある洗浄の魔道具で服を洗い、外に掛けて、ベッドの中に潜りこんだ。
「ふふふ………。」
少し顔に笑みを浮かべながらルーナと同じようにアースリアはすぐに眠ってしまいました。




