奴隷の少女
「さて、ここか。」
ギルドから出て数時間、時間帯的には夕方ぐらいになった。
ラルが紙に書いて教えてくれた場所は街の中心部よりも東側に存在する貧民街と平民街の中間辺りにあるサーカスのテントみたいな建物だった。
(本当にここか……?)
ラルが性格は変わっているけど優秀な人物だということを知っている俺ですら疑ってしまうほど奴隷商の市場とはかけ離れているのだ。
俺が今までに行った奴隷商は無駄に高価な装飾品が飾られているのに奴隷の生活環境は劣悪で病気にかかっている奴隷も多い。簡単に言えば嫌な気配がするのだ
それに対してこの建物は無駄な装飾品は飾られておらず、嫌な気配もしない。
「おやぁー?あなたは『黒風』のルーナ殿でございませんか?」
「……!?」
突如、後ろからサーカスのピエロのような姿をした仮面をつけた小柄な男が俺に話しかけ、他の事に集中していたとはいえ背後を取られた俺は驚きながらも前に跳びはねつつ反転して攻撃の体勢を整えた。
(なんだこいつは……!?)
この男は目の前にいるのにその気配が限りなく薄い。 その上、こちらが攻撃の体勢を見て男も右手を上にあげ魔法をいつでも撃てる体勢をしていた。
間違いなく、こちら側……冒険者だ。
「……何者だ?」
「あぁ、すみません。私の名前は元Aランク冒険者のバージと申します。今は奴隷商として前の建物を管理しています。それで、私の店に何の御用でしょうか?」
攻撃する体勢を解いた俺と同じようにバージと言う男も攻撃できる体勢を解いた。
……それでもいつでも『夜風』を撃てる準備をしているのだが。
「奴隷が買いたい。なるべく戦闘技術が高く、魔法の適性があって何よりも礼儀作法ができる奴。そして最低でも銀だ。」
「ほっほう!中々シビアな条件ですね!少々中に入って待っていて下さいな。数十分ほどで適性のある奴隷を見繕って来ます。」
「わかった。じゃあ俺は他の奴隷を見させてもらうぞ。」
「ほほう?いったい何故?」
「奴隷でも病気になった奴を買いたくない。それに掘り出し物もあるかも知れないしな。」
「ほっほほ!中々賢いですね!さすがはAランク冒険者様でしょうか。」
「お世辞はいい。」
俺とバージは軽い口調で話しながらテントの中に入った。
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「ふむ……。中々良い奴隷商だったんだな、あいつ。」
俺は見繕いに行ったバージを尻目に素直な賞賛をバージに贈った。
テントの中を一通り見渡したが奴隷たちは余り悲観的な顔をしておらず、貧相な肉体をしていたり病気になっている奴隷はほとんどいない。
ふざけた格好をしていたのにも関わらず商売道具はしっかりと管理しているようだ。
「確かにラルがお薦めするぐらいには優秀な商人だったな。取り敢えずバージのところに戻っておこう。」
バージの下に戻ろうと彼のいるであろう方向に足を進めた。
数分後
「道に迷った…。」
俺は道に完全に迷子になった。
このバージの店は牢屋の上に牢屋があると言う特殊な形状をしており、それが一応道になる程度にしか幅がないためいりくんでいるのだ。
「う……あ……。」
「……ん?」
しかたし、と諦めてまた歩きだしたルーナは一人の呻き声をあげた少女の奴隷の前で足を止めた。
その奴隷はくすんだ灰色の髪に紅い両目、何よりも驚くのは頭には二本は白い角、背中には蝙蝠のような翼、腰には蜥蜴のような尻尾が生えていた。
「……竜の魔族か。」
(な、何でこんな種族が存在するんだ!?)
俺は内心非常に驚きながらも顔にはださす、冷静な口調で少女の種族を言った。
竜の魔族。あの糞勇者御一行が戦った魔族の種族の一つだ。
エルフのと同じように長命種の一つで高い魔力量と獣人よりも高い身体能力、そのうえ翼で空を飛ぶ事ができる魔族の代表的な種族の一つである。
その代わり、先の戦争でドラゴニアスの国は勇者たちに滅ぼされ多くドラゴニアスが帰るべき国を失ったらしい。
「……何のようですか、人間。」
ルーナに気付いたらしく、敵意を持った口調でルーナに話しかけてきた。
自分たちの国を滅ぼした人間が目の前に存在するのだから敵意を持つのも当たり前だ、と俺は心の中で自己完結させた。
「……どうやら、今まで買っていった人間とは違うようですね。私と同じ……復讐心を持っている目をしている。」
「……よくわかったな。」
「私も同じだからです。でも、私の復讐相手は……勇者たちだけれど。」
「………!」
ドラゴニアスの少女は凄まじい怒気と共に自らの復讐相手を話し、その言葉を聞いた俺は今度は隠しきれずに驚いた表情をしていた。
「私のお父様の国はあの勇者たちに滅ぼされました。私は何とか逃げれたけど……国を滅ぼした人間を許せなかったから武器を持ってあいつらに奇襲を仕掛けたのですが……結果はこのとうり、奴隷に堕ちて七年間も過ごしました。」
「…………。」
「同情なんかいらない。あいつらを……あいつらが積み上げてきた名誉も、権力も、財も、何もかもを奪った果てに残酷に殺したいです……!。」
ドラゴニアスの少女の勇者たちに対する敵意を言葉にして、俺はその言葉を黙って聞いた。
「ほっほほ!どうですかな。良い奴隷は見つかりましたか?」
「………!」
またしてもバージに背後を取られた俺は驚きながら振り返った。
「ああ。この奴隷を買いたい。」
「ああ、これですか。確かこの奴隷は魔族の国の一つ『ドラゴニア・リーン王国』の第一王女アースリア・リーン。もちろん金であり、礼儀作法はしっかりとできますし戦う力も強いです。ただ、余り買い手の命令に従わないのですが……。」
「かまわない。」
「ほっほい!分かりました。では、奴隷紋を書く準備をしますのでしばらくお待ち下さい。」
アースリアと呼ばれたドラゴニアスの少女の説明右から左に流した俺は、準備の為に去っていったバージを尻目に見た。
「何故?どうして私を買ったの?」
「お前、言っただろ?同じだと。」
「……!」
「俺も勇者たちに全てを奪われた存在さ。俺は共犯者を探す為に奴隷を探していたんだ。……協力するか?」
「ふっ、ふふふ………ははははははははははははははははははは!」
同類だと言外に口にした俺を見て、アースリアは涙目ながら大きな声で笑った。
それは自分たちの境遇に対する嘲笑か、復讐者二人に狙われた勇者たちに対する嘲笑か。それはルーナにはわからなかった。
「良いですね、本当に良いですね。分かりました、私もあなたの復讐の共犯者になりましょう。そうすれば私も復讐できる……!」
「こっちとしても協力してくれて何よりだ。」
俺の提案を飲んだアースリアは笑いながら俺の手を握った。
こうして、俺は復讐するための共犯者を手に入れる事ができた。




