暗殺依頼
「……ふう。」
俺は宿のベッドで起きる。そして、何故か俺のベッドに侵入しているウェルをどかして立つ。
他の奴等はまだ眠ってる。
あの後、空気になって適当に過ごした後宿に戻って疲れからか眠ってしまった。
全く……あの程度の決闘で疲れるものかな……?これも勇者たちの力なのか?……どうでもいいけど。
「やあ。喋ったのは初めてかな。」
「……『海洋船長』のネモか。」
「そうだよ。そっちは『黒風』のルーナかい?」
「どっちも最低限の情報を持っているようだな。」
「そっちもね。」
食事を取ろうと下に降りるとエメラルドブルーの髪を伸ばし、深い青の瞳をした小柄な先客がいた。
宿で何度か見かけた少女であり、『ダルヤ・ジャミール』のパーティーのリーダーである『ネモ』。パーティ単位の戦術を得意とするヒューマンの策士だ。
「座りなよ。女将さん、ボクと同じのを一つ。」
「分かったさ!」
奥にいた婦人に声をかけた後、席についた俺の方を向く。
……こいつ、俺らと同じように修羅場を何度も潜り抜けてきた歴戦の猛者だ。感覚的にわかる。あのへっぽこ勇者や理想家とは一線を引いている。
「ふふっ、やっぱりボクが見込んだ通りの男だ。意図的に自分の情報を隠している。」
「そっちこそ。感覚的にしかわからない程自分の情報を隠している。」
俺らは傍目から見たら穏やかに笑いながら互いに警戒する。
こいつは最低でもジャスミン、最高でアルンレベルの実力者、しかも得意とする戦術は集団戦術。厄介としか言えない。
「ルーナには聞きたいことがあってね。」
「……内容によっては……消すぞ。」
「分かってるよ。ただでは消させないけどね。……『天廻り』についてどう思う?」
……やはり、そうきたか。
「理想家で幾ら実力があっても冒険者には向いていない。正直に言ってあの場で殺してもよかった。」
「奇遇だね。ボクもそう思うよ。」
俺の辛辣な言葉にネモは肯定する。
こいつ、仲間である筈の『天廻り』の死を肯定しやがった。冷酷な性格をしているな。
「幾らAランクの実力があったとしても人が良すぎるから権力者に利用されて消される……いや、なまじ見た目も体つきもいいから最高でも貴族お抱えの性奴隷、最低なら娼館に売り飛ばされる落ちだね。」
「……まぁ、その可能性は高確率である未来だ。そこら辺は今は置いておこう。……それで、いい加減本題に入れ。」
俺は先ほどのよりも濃い殺気を放つ。
この数日、幾度と俺を呼び止めるチャンスがあったにも関わらず、今、俺を呼び止めたのには何かしらの理由があるのだろう。
それも、二人しかいない状態で。
「実はね……『天廻り』とその父親である『フェアリーガーデン』の首相ティルミスト・アバロンを確実に、各国の上位貴族をなるべく多く暗殺してくれないか?」
「(おいおい、俺ら冒険者に何のメリットがある。)」
とんでもない爆弾発言をするネモに俺は小声で抗議する。
俺ら冒険者は『ギルド』が管理していて各国はどれだけの実力者であろうと『ギルド』から冒険者の借りれるが抱え込むことは出来ないようになっている。
つまり、どのような国であろうと俺ら冒険者には手出し出来ないのだ。それなのに、何故国賓の暗殺をしなければならないのだ。
つーか、『天廻り』の親は『フェアリーガーデン』の首相なのか。確かに「王族に顔が利く」と言っていたが理由はこれか。
「メリットか……君は『ウッド』を知っているかい?」
「勿論だ。出所も掴んだ。この大会が終わり次第向かうつもりだ。」
「その『ウッド』の原材料は『フェアリーガーデン』・『ダルヤ・ジャミール』・『アースガイア帝国』・『フェンリル獣国』・『ティステーア王国』のみでしか取れない素材で出来ていることが分かった。そして、各国のトップど上流階級の一部が『ダンタロッサ商会』に格安で密輸していることも、ね。」
「……!」
俺は突拍子もない言葉を言っているネモの言葉に心当たりがあった。
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「……ふーむ、なんだこれは。」
交易場の裏帳簿を手に入れた次の日、俺は唸り声を上げて頭を悩ませていた。
裏帳簿には各国の上位貴族や首相、王族が書かれていたが、異様なまでに『フェアリーガーデン』・『ダルヤ・ジャミール』・『アースガイア帝国』・『フェンリル獣国』、そして『ティステーア王国』が異様なまでに多いのだ。
確かに、隣国である『アースガイア帝国』やフェンリル獣国』だから貿易が盛んになるのは分かるがこの国から幾つかの国を挟む『ダルヤ・ジャミール』や『フェアリーガーデン』がここまで多いとおかしいと言えるだろう。
いくら幾つもの国に支店を開いてるダンタロッサ商会でもこれは異常だ。
「おーい、マスター。オレらの朝食が出来たから食べようぜ。」
「……分かった。」
俺はウェルに下から呼ばれて部屋を出る。
取りあえず、偶然として片付けておこうか。
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確かに、隣国でもない国でここまで違法奴隷の販売が広く流れていることには違和感があった。
その理由は……これだったのか……!
「そして、その全員がこの大会に国賓として来るらしい。もし、全員が殺されれば……。」
「ダンタロッサ商会は『ウッド』が作れなくなる、か。」
正確には『ウッド』の製作元が、だがな。
あの慎重派であるダンタロッサが自分たちで麻薬を作り出すことなんてあり得ない。やるのだとしたら製作元に素材を流して製作元が作り、それをダンタロッサ商会が買い取って販売、その利益をダンタロッサ商会が入れる方が効率的でありダンタロッサ商会の負担が少ない。
「だが、幾ら俺でも判別は出来ないぞ。」
「そこはボクが協力者に頼んで判別できる使い捨ての魔道具『テキワカール』で何とかする。」
「……ネーミングセンスが無さすぎるだろ。」
「お待ちどうさん!剣魔祭に向けていっぱい食べな!」
あまりにも残念な魔道具名に呆れていると婦人が大盛りのパスタのような物が入った皿を二つ程持ってきて机に置いて豪快な笑みを浮かべて去っていった。
「まぁ、それは分かった。だが、何故『天廻り』を殺す必要がある。」
「単純な話だよ。ほぼ確実に人以下にされるのなら人であった時に殺しておくのが仲間としての筋だろ?」
「……なるほどな。その依頼、受諾しよう。報酬は『ダンタロッサ商会』の消滅だ。」
「くくっ、本当にボクとルーナは気が合うね。」
「ははっ!確かにな!」
狂気的な笑みを浮かべるネモに向けて俺も狂気的な笑みを浮かべながら依頼を受諾する。
成る程、確かに単純な話だ。『人が人である内に殺す』。俺の『死を望む人の尊厳を二度と汚されないように殺す』のとは違うが似た狂気だ。
本質的には俺とネモは似た存在なのかもな。
「さて、冷えないうちにパスタを食べるか。」
「おお、そうだな。」
機嫌が良い俺らはパスタを口に入れる。
普通に美味い。飽きのこない味だ。




