9 残された謎
柔らかな午後の光に包まれた礼拝堂に、1人の修道女が足を踏み入れた。
カメリアは振り返り、「貴方がロザライン様ですね。」と修道女に微笑みかけた。
「お呼び出ししてすみません。
私はシュテルンベルク公爵家の娘、カメリアでございますわ。」
赤毛の修道女、ロザラインは「お会いできて光栄です、カメリア様。」と礼をした。
「カメリア嬢は探偵だとお聞きしました。
わたくしに会いに来たのは、やはりウェーバー家とモンターン家の間に起きた悲しい出来事について話すためですよね。」
カメリアは「おっしゃるとおりです。」と答える。
「でも、事件はもう解決したのではないのですか。
弟のテオを殺して逃げていたランドルフは死にました。
従姉妹のハリエットを殺した犯人も自らの罪を告白したのでしょう。」
「まだすべての謎は明らかになっていませんわ。
残された謎から、私は確信しましたの。」
礼拝堂にカメリアのまっすぐな声が響く。
「若者たちの狂気を巧みに操り、破滅に追い込んだ人物がいるのですわ。」
ロザラインは「まさかそんな…!」と息をのんだ。
カメリアは「残された謎は3つですわ。」と言う。
「ひとつめは、最初の街頭での事件でテオにランドルフとハリエットの結婚を告げ口したのは誰か、ということです。」
この秘密の密告により、テオはランドルフに殺意を向けることになった。
「そしてもう一つは、ハリエットとルイス、ベンヤミンにランドルフの居場所を伝えたのは誰か、ということ。」
ベンヤミンは差出人不明の手紙により教会に逃亡中のランドルフがいると知った。
そしてハリエットとルイスも同様の手紙を持っていたと、レストレード警部の調べでわかったのだ。
ランドルフの居場所を知らされなければ、彼らが明け方の教会の裏庭で鉢合わせ殺し合うことはなかったはずだ。
「みっつめは、誰がランドルフとルイスに銃を渡したのか、ということですわ。」
ベンヤミンの話では、ルイスは現場に現れてすぐランドルフに銃を向けた。
ハリエットが使った銃は、もともとランドルフが持っていた。
同一の型の二丁の銃は、どうやって彼らの手に渡ったのか。
ロザラインは、「その残された謎を解くために、わたくしに聞きたいことがあるのですね。」と頷く。
しかしカメリアは、「いいえ。」と首を振るのだった。
「私にはもう謎は解けておりましてよ。」
カメリアは冷静な声で言葉を紡ぎはじめた。
「ランドルフとハリエットは両家の家族に内緒で結婚の誓いを立てました。
神に誓うには聖職者の立ち会いが必要ですから、教会に2人の協力者がいたのは明白です。
ランドルフが教会に身を隠していたことからも、協力者が教会の関係者だとわかりますわ。」
カメリアは、「この人物は、2人の結婚とランドルフの居場所という2つの秘密を知っていた唯一の人物ですわ。」と言う。
その人物はランドルフとハリエットにとってたった1人の協力者でありながら、彼らの秘密を密告し惨劇を引き起こそうとしたのだろうか。
「それに、教会の裏庭での事件で使われた二丁の銃は教会で保管されていたものでしたわ。」
レストレード警部によれば、二丁の銃はある神父が個人的に保管していたものだという。
神父は銃を部外者が立ち入りできない場所に隠していた。
持ち出したのは、銃の存在とありかを知っていた人物だ。
「銃を持ち出すことのできる人物が、彼らに殺し合いをさせるためにランドルフとルイスにそれぞれ銃を渡したのですわ。」
ロザラインは「教会に潜伏していたランドルフが銃を盗んだのではないですか。」と反論する。
「それではルイスが銃を持っていたことが説明できませんわ。
ルイスは裏庭に着いたとき、銃をランドルフに向けていましたの。
ランドルフから奪ったのではありませんわ。」
カメリアはロザラインに一歩近づく。
「修道院長から、この教会の修道者でウェーバー家とモンターン家の関係者は貴方だけと聞きましたわ。」
カメリアのブラウンの瞳がロザラインをまっすぐに見つめた。
「惨劇の筋書きは貴方が描いたのでしょう、ロザライン様。」
ロザラインはニタリと口角を釣り上げた。




