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3 探偵カメリア

「まるで俺だけ置いて行かれたようです。」


カメリアの前に座る若者は、ひどく憔悴した声でそう言う。


「俺を置いて、みんな消え去ってしまった。

友人も家族も、あたりまえにあった日常でさえ…。」


傷ついた彼は、その年代の若者が持つはずの瑞々しい希望を失ってしまっていた。


話に耳を傾けていたカメリアは、紅茶を運んできた私に「ありがとう、ヒルダ。」と微笑んだ。

カメリアは少女らしい薔薇色の頬とは裏腹に知性あふれる声で語りかける。


「ご安心ください。

ご依頼いただければ、私が真相を明らかにしてご覧にいれますわ。」


私が仕えるシュテルンベルク公爵家の令嬢カメリアは、探偵である。

彼女はこれまで、数多くの殺人事件の真相を暴いてきた。

彼女を快く思わない者は、カメリアを血を好む悪女と呼ぶ。

しかし彼女を近くで見ている私は、カメリアが殺人事件を面白がったりはしないと知っている。

カメリアは、人の命を奪う事件が起こってしまったその理由を探さずにはいられないのだ。


そんな探偵カメリアに助けを求める人々は後をたたない。

カメリアの向かいに座る男、ベンヤミンもその1人だ。


ベンヤミンは、「本来なら探偵に依頼するような事件ではないとも思ったのですが…。」と話す。


「犯人もその動機も明白なのですから。」


ベンヤミンが語ったのは、彼の従兄弟ランドルフと1人の女性ハリエットの物語だ。

ランドルフとハリエットは一目で恋に落ちた。

しかしその青春の物語は、一瞬にして凄惨な事件へと変わってしまう。

2人の仲に反対したハリエットの従兄弟テオとランドルフが乱闘になったのだ。

その場にいたベンヤミンと友人マルセルが止めに入った。

その結果、マルセルがテオに刺されてしまった。


「マルセルはその場で息を引き取りました。

それで、ランドルフはテオに復讐したんです。」


友人を殺されたランドルフはテオに襲いかかった。

戦いの末にランドルフはテオからナイフを奪い、テオを刺したのだと言う。


「テオが動かなくなると、ランドルフはその場から逃走しました。

今もまだランドルフは見つかっていません。」


そう話したベンヤミンに、カメリアは「では、ランドルフ様を探して欲しいというご依頼ですの?」と問う。

けれどベンヤミンは「そうではありません。」と首を振る。


「馬鹿げてるかもしれませんが、俺はこの事件には裏があると思ってるんです。

ランドルフとハリエットの仲を引き裂くために事件が起こされたんじゃないかって…。」


ベンヤミンは、2人の人間が命を落としたこの出来事の裏に糸を引く人物がいたと言うのか。


カメリアは「どうしてそう思いますの。」と聞く。 


「テオは、モンターン家とウェーバー家の間には因縁があると言ったんです。

ランドルフがハリエットと隠れて式を挙げたのも、その因縁のせいらしいのです。

でも、俺は両家の間にそんな因縁があるなんて知らなかった。」


ベンヤミンは、「ランドルフとハリエットの恋を邪魔するためにでっち上げられたんじゃないかと思うんです。」と言う。


「第三者が、ランドルフとハリエット、そしてテオに嘘を吹き込んだと貴方は疑っていらっしゃるのですわね。」


「はい…。

それに、ランドルフとハリエットが誓いを立てたことをテオに漏らしたのも、その人物なんじゃないかと。」


ランドルフとハリエットが結婚式をしたのは、2人だけの秘密だったはず。

けれどもテオがその秘密を知ってしまったために、乱闘は起こったのだ。


「秘密をテオに密告した人物が、テオがランドルフに殺意を向けると予想していた可能性は大いにありますわね。」


ベンヤミンは、「俺が不審に思う点は、もう一つあるんです。」と言う。


「テオのナイフは、マルセルの腹に刺さった。

倒れるマルセルをランドルフが抱えて、それで…。」


ベンヤミンの淡い瞳が揺れ動く。

浅く息をする彼の目には、その惨状が焼き付いて離れない。


「マルセルは、ランドルフの腕の中で自らナイフを抜き取ったんです…。」


深く突き刺さったナイフ。

抜き取るその瞬間、ぶわりと巻き上がる血潮。

ベンヤミンの目の前で起きたのは、そんな光景だろうか。


「刃物で刺された場合、それを抜いてはいけないといいますわね。

刺さったままの刃物によって血が堰き止められている場合があるからだそうですわ。」


刺さった刃物を下手に抜いて仕舞えば、大量の出血により命を落とす危険がある。

私は、「マルセル様はその事を知らなかったのでしょうか。」と聞いてみた。


「あるいは、突然の出来事と痛みに混乱し、冷静さを失っていたとか。」


ベンヤミンは「いえ、あの時のマルセルは落ち着いていました。」と否定する。


「マルセルの最期は、笑っていました。

悲しむでも怒るでもなく、満ちたりた顔だった。」


『ランドルフ、俺のことを忘れるなよ。』


それがランドルフの最期の言葉なのだという。

そして彼は、ナイフを引き抜いた。


「マルセルは俺の大切な友でした。

だけど俺は、どうしても考えてしまうんです…。」


ベンヤミンは視線を落とし、葛藤の末に言う。


「マルセルは、自殺だったんじゃないかって…。

ランドルフとハリエットを引き裂くために、わざと殺されたんじゃないかって…。」



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