第7話「新たな力」
残り時間——15秒。
その短時間で10枚もの防衛シャッターを突破するのは不可能だった。
さらに、烈と音はスキルを使用できない。
(クソォ……!!完全同調さえできれば……!!)
烈は歯を食いしばる。
だが、個人での完全同調は自在に引き出せるものではない。
極限状態だからといって、都合よく発動してくれるものでもなかった。
(残り12秒……!)
怜も焦りを隠せない。
冷静な彼女ですら、この状況の危険性を理解していた。
(このままじゃ……!)
音の鼓動も速くなる。
誰もが脱出方法を模索する。
その時——
「シャッターは無視しろ!!」
閃の声が通信に響いた。
「ここは最深部だ!!壁をぶち破った方が早い!!」
その言葉を聞いた瞬間、3人はハッとする。
確かに、閉ざされた通路を無理やり突破するより、外壁を直接破壊した方が遥かに早い。
3人は即座に行動へ移った。
怜は《氷塊》で生成した巨大な氷の大剣を振るう。
烈はキャノンの出力を限界まで引き上げる。
音もガンブレードとビットで、一点への攻撃を開始した。
外壁が悲鳴を上げるように軋んだ。
だが、まだ足りない。
警報音は無情にも時を刻み続ける。
爆発まで——残り8秒。
残された時間は、あとわずかだった。
◆
閃は《雷鳴落赫》を発動し、フレアⅢの外壁を蹴り破って真っ先に脱出していた。
しかし——
(まずい!!このままじゃ間に合わない!!)
閃は悟った。
怜も、烈も、音も、まだ脱出できていない。
(どうする!!)
ここで戻れば、自分も爆発に巻き込まれるかもしれない。
最悪の場合、ファクターズ全員が死ぬ。
自分1人が確実に生き残るか、それとも——
“これが、選択というものの重みだよ”。
先ほどのイカロスの言葉が脳裏をよぎる。
(俺は……)
閃は拳を握り締めた。
(俺は!!)
次の瞬間、バサラヲは反転する。
向かう先は——フレアⅢ。
「全員、助ける!!」
迷いはなかった。
その瞬間——
閃の身体の奥底から、これまで感じたことのない“違うエーテル”が湧き上がった。
◆
一瞬、閃の脳裏にイノの後ろ姿がよぎった。
(なんだ、これ……)
突然の変化に閃自身も困惑する。
だが、考えている時間はない。
閃は即座にモニターを確認し、怜、烈、音の位置を把握した。
そして3機の位置に合わせ、フレアⅢの外壁を再び《雷鳴落赫》で破壊しようとする。
しかし、発動しない。
(!?)
閃は再び試みる。
だが、何も起こらない。
エーテル切れではない。
(なんで!?クソッ!!)
閃は、咄嗟にアサルトライフルを構えて引き金を引いた。
そして、発射された弾丸は——驚くほどゆっくりだった。
まるで空間に張り付いているかのように。
(……え?)
閃は目を見開く。
そこで初めて、自分の周囲に異変が起きていることに気づいた。
(これ……もしかして)
周囲を見回す。
フレアⅢの破片、飛び散る火花、宇宙空間を漂う残骸。
その全てが、異様なほどゆっくりと動いていた。
まるで世界そのものがスローモーションになったかのように。
(時間の流れが……!?)
さらに閃は気づく。
先ほどから明らかに時間が経過しているはずなのに、爆発が起きていない。
何もかもが停止したように遅い。
閃がその異変に気づけなかったのは、バサラヲを含め自分だけが普段と変わらず動いていたからだった。
◆
今、彼が無意識に行っていることは、かつてイノがファイとの戦いで使用したスキル、《カオス・ディメンション》と同質のものだった。
時空へ干渉し、周囲の時間の流れを極端に遅らせる。
その中で、自分だけが通常通り活動できる能力。
閃は当然、その事実を知らない。
なぜこんな現象が起きているのか。
なぜ自分だけが動けるのか。
疑問は次々と浮かんでくる。
しかし、今はそれどころではない。
この空間の中で、自分だけは自由に動ける。
ならば、やるべきことは一つ。
閃は真っ先にツムギのいる区画へ向かった。
バサラヲを加速させ、外壁へ接近する。
そして——
刀を振るった。
分厚い外壁が切り裂かれる。
飛び散った壁の破片も、時間の流れに縛られているかのようにゆっくりと漂っていた。
閃はそれらを手で払い除けながら進む。
やがて、その先にツムギの姿を見つけた。
内側からも十分に破壊が進んでいたため、外壁にはすぐに脱出口が開いた。
しかし、その時——動力部の連鎖爆発が始まった。
閃の視界ではスローモーションだった。
それでも、このままでは間に合わない。
1秒の猶予もない。
バサラヲはほとんど停止しているように見えるツムギを抱きかかえる。
そして即座に離脱。
外壁の穴から宇宙空間へ飛び出すと、十分な距離を取った場所へツムギを運び、そのまま静かに機体を離した。
◆
続いて向かったのはシラユキ。
ツムギの時と同じ要領で、反対側の外壁へと接近する。
そして、分厚い外壁を切り裂いた。
その頃には爆発がさらに広がっていた。
炎はゆっくりとした動きでありながら、確実にシラユキを飲み込もうとしている。
バサラヲは迷わず突入すると、シラユキを掴み、そのまま外壁の裂け目から脱出。
そして、先に救出したツムギの隣へと機体を運んだ。
最後はレンゴクだった。
閃がレンゴクを最後に回したのには理由がある。
烈の属性と、レンゴクの高い耐久性。
多少爆発に巻き込まれたとしても、最も生存の可能性が高いのは彼だった。
バサラヲは急旋回し、レンゴクのいる区画へ向かう。
すると、外壁からレンゴクのクローが突き出ているのが見えた。
だが、あと一歩届かない。
爆発はすでにレンゴクの機体半分を飲み込んでいた。
(間に合え……!!)
閃は加速する。
そして、外壁を破壊。
開いた穴へ飛び込むと、レンゴクを掴んだ。
(よし!!)
そのまま全力で離脱する。
レンゴクと共にフレアⅢから離れた、その瞬間だった。
後方で大爆発が発生した。
同時に、スローモーションとなっていた世界が元に戻る。
圧縮されていた爆炎と衝撃波が一気に解放される。
「うおおおおっ!!」
烈の叫びが響く。
バサラヲとレンゴクは爆発の余波に飲み込まれ、大きく吹き飛ばされた。
◆
「えっ……?」
「あれ……?」
怜と音は困惑していた。
つい先ほどまで、自分たちはフレアⅢの内部にいたはずだった。
それなのに今は、それから十分に離れた宇宙空間にいる。
フレアⅢは大爆発を起こしている。
「きっと、閃くんだよ!」
音が声を上げる。
「完全同調したバサラヲの《雷化瞬来》で、一瞬で外まで逃がしてくれたんだと思う!」
その言葉に、怜も納得した。
実際、閃ならそれくらいやってのけても不思議ではなかった。
「……閃と烈は?」
怜はすぐにモニターへ視線を移した。
「いた」
2機の反応は消えていない。
どうやら自分たちより少し離れた宙域にいるようだった。
「行こう」
「うん!」
シラユキとツムギは、閃と烈のいる場所へ向かって加速した。
◆
「危ねぇ!!ギリギリだった!!閃、大丈夫か!?」
烈が叫んだ。
「あぁ。怜と音も無事だ」
閃の声が返ってくる。
「そうか……!よかった……」
烈は心の底から安堵した。
全員生きている。
その事実だけで十分だった。
◆
そこへ、シラユキとツムギも合流してきた。
「2人ともー!」
音の嬉しそうな声が聞こえた。
「閃くん!完全同調したんだよね!」
「いや、完全同調はしてない……」
閃は困ったように答える。
「えっ?……じゃあ、どうやってわたし達を……?」
音は首を傾げた。
「そういやそうだな……」
烈も今になって同じ疑問を抱く。
「……とりあえず、帰還しましょう」
怜が冷静に言った。
「そうだな」
烈も同意する。
閃は雷のエーテルを少し発生させた。
(さっきはスキルが使えなかったけど)
(今は使える……)
(さっきの、謎の現象と関係あるのか?)
だが、今は考えても答えは出そうになかった。
疑問を抱えたまま、《ソウル・テザリング》を発動。
4機は光に包まれ——日本支部へ帰還した。




