第6話「選択」
4機はフレアⅢへと集結した。
改めて内部構造を確認する。
動力部はいずれもフレアⅢ内部の深層に位置している。
「4人で手分けだな」
烈が言う。
動力部は4ヶ所——この時点で、全員が同じ結論に至っていた。
怜がバックスとの戦闘を切り上げてフレアⅢへ向かったのも、そのためである。
Pジャマーの影響も今では大きく低下していた。
多少のノイズは残っているものの、通信に支障はない。
4つの動力部をそれぞれA、B、C、Dと仮称し、担当を決める。
「俺はA、怜はB、烈はC、音はDを頼む」
閃が指示を出した。
「了解!」
3人が即座に応じる。
そして——
4機はそれぞれの担当区画へ向け、一斉にフレアⅢ内部へ突入した。
◆
フレアⅢそのものにも防衛システムが備わっているはずだった。
当然、幾重もの防衛シャッターに行く手を阻まれ、その突破には相応の時間を要する。
加えて、後方からはバックスの追撃も予想される。
4人はそう考えていた。
しかし——
「な、なんだぁ……?」
烈は思わず戸惑いの声を漏らした。
防衛シャッターは閉鎖されるどころか、すべて開放されていた。
まるで、自分たちを奥へと招き入れるかのように。
(あのSDたちの追撃も来ない……?)
怜は眉をひそめる。
これほどの戦力を投入しておきながら、ここへ来て追撃がない。
その状況に強い違和感を覚えた。
「これって……」
音が不安そうに呟く。
「……罠の可能性が高い」
閃は冷静に答えた。
あまりにも都合が良すぎる。
敵が何らかの意図を持って、自分たちを誘導していると考える方が自然だった。
「どのみち行かなきゃなんねーんだ!むしろ手間が省けたぜ!」
烈が勢いよく言い放つ。
その言葉に、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ。
「確かに」
「そうね」
「うん!」
閃、そして怜と音も応じた。
4機は警戒を強めながらも、それぞれの動力部を目指してフレアⅢの深部へと進んでいった。
◆
4機は、それぞれの動力部へと驚くほどあっさり到達した。
防衛システムによる妨害もなければ、待ち伏せもない。
今のところ、罠らしい罠は何一つ存在しなかった。
だが、それが逆に不気味だった。
4人は警戒を一切解かない。
それでも、目の前にあるのは間違いなくフレアⅢの動力部。
これを破壊すれば、作戦は成功だ。
4機はそれぞれ武器を構えた。
その時——
突如として、巨大なホロモニターが各所に展開された。
青白い光が空間を照らし出し、初老の男性の姿が映し出される。
『初めまして』
男性は静かに口を開いた。
「誰だ!?」
烈が声を上げる。
「……イカロス・マーベウス」
答えたのは怜だった。
『その通り。お嬢さん』
モニターの男性——イカロスは穏やかに頷く。
その名を知らない者は少ない。
テレビやネットニュース、多くの書籍でその顔は広く知られている。
“天才マーベウス家”。
そう呼ばれる一族の一員である。
祖父のエイジス・マーベウスは、現在の世界インフラの礎を築いた人物の1人として知られ、その名は歴史に刻まれている。
父のニコラス・マーベウスもまた、現代社会に不可欠となったUBの開発者として名を残した。
そして、イカロス・マーベウス。
彼はスペリオル計画をはじめとする宇宙進出事業に人生を捧げた男だった。
その功績は計り知れない。
だが同時に、アメリカを離れ、天華連盟と同盟を結んだことから、祖国では裏切り者として扱われていた。
“マーベウスの歴史に泥を塗った男”——それが、現在のアメリカにおけるイカロスへの評価だった。
◆
「イカロスって……たしか、もう——」
『20年前に死んでいる』
音の言葉を引き継ぐように、イカロスは静かに答えた。
(なら、モニターに映っているのはホログラムか?)
(いや、それだけじゃない……明らかにこちらを認識しているし、会話も成立している)
閃は冷静に思考を巡らせる。
『不思議そうな顔をしているね?』
モニター越しのイカロスが穏やかに言った。
「イカロス本人の記憶を読み込ませたAI?」
閃は問い返す。
『半分正解だ』
イカロスは答えた。
その声音は終始落ち着いており、不思議な威圧感を持っていた。
『まぁ、それはひとまず置いておこう』
イカロスは微笑む。
『そこにいるということは……君たちも、フレアⅢが目的のようだね?』
『——彼らのように』
その言葉と同時に、ホロモニターの映像が切り替わった。
そこに映し出されたのは、拘束され、目と口を塞がれた5人の兵士だった。
4人の表情が変わる。
それはアメリカ軍のハート部隊だった。
『その反応を見る限り、人質の存在は知らなかったようだね?』
イカロスが尋ねる。
「聞いていませんね」
閃は動揺を表に出さず、淡々と答えた。
実際、今回の作戦立案に関わったトーマスでさえ、その事実は知らされていなかった。
『君たちの目的は、フレアⅢの奪取か?』
「破壊です」
閃は即答した。
迷いはない。
人質の存在は予想外だった。
しかし、4人の目的は変わらない。
フレアⅢを止めること——それが、最も優先すべき任務だった。
◆
モニターの映像は再びイカロスへと切り替わった。
『正直だね』
イカロスは穏やかな表情のまま続ける。
『取引をしないか?』
その口調は変わらず落ち着いていた。
「人質を解放する代わりに、フレアⅢから手を引け——ということですよね?」
閃もまた、冷静に答える。
『その通り。どうする?』
「断ります」
即答だった。
一切の迷いもない。
『ほぅ……』
イカロスはわずかに目を細める。
『君は迷いがないね。冷酷とも言えるし——』
『指導者向きとも言える』
その言葉にも、閃は何も答えなかった。
『では——これを見てもらおう』
イカロスがそう言うと、モニターは再び人質たちの映像へと切り替わった。
拘束されたハート部隊。
そして、その傍らには本来禁止されている“武装をしたUB”が立っていた。
次の瞬間——
乾いた銃声が響く。
1人の兵士の頭部が撃ち抜かれた。
「なっ……テメェ!!」
烈が激昂する。
だが、モニターの向こうのUBは何の反応も示さない。
続いて、残る4人の目隠しと口を塞いでいたテープが剥がされた。
『命乞いをしろ。助かるかもしれんぞ?』
低い声が響く。
その音声はファクターズには聞こえず、現地のハート部隊にのみ届けられているようだった。
1人の兵士がモニターへ向かって叫んだ。
『追加部隊か!?俺たちのことはいい!!こんなモンぶっ壊しちまえ!!』
続いて別の兵士が叫ぶ。
『俺たちゃ兵士だ!!いつでも覚悟してらぁ!!』
さらに別の兵士。
『へっ!ハートをなめんなよ!』
そして、もう1人。
『ジェイソンだけを行かせはしないさ』
ジェイソン——先ほど銃殺された仲間の名だった。
その声は確かにモニター越しに届いている。
恐怖はあるはずだ。
それでも誰一人として命乞いはしない。
その姿は、兵士としての覚悟そのものだった。
◆
『……さて、どうする? 5秒あげよう』
イカロスは静かに言った。
だが、その答えは一瞬で出た。
「ごめんなさい!!」
閃は覚悟を決め、叫んだ。
そして——
「みんな、ぶっ壊せ!!」
その声と同時に、4人は一斉に攻撃を放った。
4つの動力部が同時に破壊される。
轟音と共に火花が散り、フレアⅢの内部が激しく揺れた。
数秒の沈黙。
やがて、モニターの向こうから深いため息が聞こえた。
イカロスは肩を落とす。
そして、人質の4人を見た。
『さすがアメリカの犬だな。まるで知性を感じない』
『用済みだ。やれ』
その命令が下された瞬間、モニターの向こうでUBが銃を構える。
「ハハハ!!よくやった!!ザマァみや——」
兵士の言葉が最後まで続くことはなかった。
乾いた銃声が連続して響く。
残りのハート部隊は、1人残らず頭部を撃ち抜かれた。
その一部始終はホロモニターを通じて映し出されていた。
「テメェだけは……マジで許せねぇ……!!」
烈の声には怒りが滲む。
それは彼だけではない。
怜も、音も、そして閃も。
胸の奥に燃え上がる感情は同じだった。
◆
『これが、選択というものの重みだよ』
『さて。当然だが——』
『君たちにも制裁を受けてもらう』
その言葉と同時に、後方の防衛シャッターが一斉に閉鎖された。
重厚な金属音が内部に響き渡る。
(なるほど……閉じ込めるためか)
閃は即座に理解する。
シャッターは、確認できるだけでも10枚。
十分突破は可能だ。
だが——
『フレアⅢが誰かの手に渡るくらいなら——』
イカロスがそう口にした瞬間、甲高い警報音が施設全体に鳴り響く。
『自爆させる。君たちごと、な』
その言葉に、空気が凍り付いた。
『もう一度言おう』
『これが選択というものの重みだ』
イカロスはそう言い残し、ホロモニターは暗転する。
「自爆だと!?」
烈が叫ぶ。
「早くシャッターを……!!」
音は即座にガンブレードのエーテル弾をシャッターへ撃ち込んだ。
激しい爆発が起こる。
だが、1枚目のシャッターすら完全には破壊できない。
そして——
警報ブザーから無機質な音声が流れた。
『自爆シークエンス作動』
『爆発まで——15秒』
残された時間は、あまりにも短かった。




