第15話「模擬戦②」
休憩が終わり、それぞれが再びトルーパーへ乗り込んだ。
4人は各々、模擬戦用の武器を選んでいく。
一方——閃機は丸腰だった。
今回、閃は武器もスキルも一切使用しない。
訓練所の内部も、市街地を模したフィールドへと切り替わっている。
建物や障害物が立ち並び、視界も開けた場所ばかりではない。
「じゃあ、今から模擬戦始めるよー」
閃は4人に告げた。
そして——模擬戦が始まった。
開始と同時に、4機のトルーパーがそれぞれ動き出す。
「おりゃぁぁぁっ!!」
真っ先に仕掛けてきたのはユイン。
両手にサブマシンガンを構え、猛烈な勢いで射撃しながら突進してくる。
一方、閃機はその場からほとんど動いていない。
次々と放たれる模擬弾が、閃機の周囲を通過していく。
走りながらの射撃では銃身が大きくブレるため、どうしても狙いが定まりにくい。
エーテル推力によるスライド移動であれば、移動しながらでも安定した射撃は可能だ。
もっとも、閃にはユインの意図がわかっていた。
次の瞬間——
ユインは両手のサブマシンガンを投げ捨てた。
そのまま一気に距離を詰める。
「とりゃあ!!」
鋭い拳が閃機へ迫る。
しかし、わずかに身体をずらし、それをかわした。
ユインは獣砕拳の使い手。
当然、その技術はトルーパーの操縦にも反映されている。
拳、蹴り、さらに踏み込んでの連撃。
ユインは間髪入れず、次々と鋭い攻撃を繰り出していく。
閃は回避しながら、その動きを冷静に観察していた。
(確かにすごい攻撃だ)
(喰らったらヤバいな……)
速さも、威力も、正確さも申し分ない。
格闘技術だけでいえば、かなり高い水準にある。
(でも——)
閃は、ユインの拳を紙一重でかわす。
攻撃が直線的——それゆえに次の動きを読みやすい。
◆
「でりゃあっ!!」
ユイン機が鋭い蹴りを繰り出す。
それをかわすと同時にユイン機の軸足を軽く蹴った。
「わっ!?」
バランスを崩し、ユイン機の体勢が大きく傾く。
その瞬間——
「隙ありっ!!」
いつの間にか閃機の背後へ回り込んでいたエミリー機が、ENブレードを振り抜いた。
「おっと」
閃機は身体をひねり、迫る刃を軽々とかわす。
「え、ウソ!」
エミリーが驚きの声を上げた。
その隙を閃は逃さない。
間髪入れず、閃機の掌底がエミリー機を突き飛ばした。
「うわぁっ!」
大きく押し飛ばされたエミリー機。
しかし——
地面に片腕をつくと、その勢いを利用して身体を回転させ、そのまま着地した。
一方、体勢を崩されていたユインも受け身を取り、すぐさま立て直している。
「ちぇい!!」
再びユインの拳が迫った。
(2人とも、受け身上手いな)
閃はそう思いながら、ユイン機の拳に手を添える。
受け止めるのではない。
その勢いを殺さず、軌道だけを逸らした。
「んぎゃ!!」
行き場を変えられた拳は、そのまま閃機の背後にいたエミリー機へ直撃した。
「あっ!!」
ユインが一瞬、動揺する。
「それ!」
閃機は左右の掌を同時に突き出した。
ユイン機とエミリー機へ、それぞれ掌底を叩き込む。
2機が同時に吹き飛ばされた。
その瞬間——
閃機に向かって、模擬弾が飛んできた。
◆
「うおっ!」
閃は間一髪で模擬弾をかわした。
すると続けて一発。
わずかに間を置いて、もう一発。
時間差をつけた二発の模擬弾が飛んでくる。
閃はそれらをかわしながら、弾丸が飛んできた方向へ視線を向けた。
そこにいたのは、ハンドガンを構えたソフィー機だった。
ソフィー機は閃に姿を確認されると、すぐさまビルの陰へと隠れる。
しかし、閃は気づいていた。
最初の一発と、その後の二発では、弾丸が飛んできた角度がまるで違う。
最初の一発は上方から。
対して、その後の二発はほぼ水平に飛んできていた。
そして何より、射撃の精度が違う。
(最初以外の弾丸は、さっきのソフィーか)
(ってことは、最初のはアリシア……)
閃は周囲のビルへ視線を走らせる。
(厄介だな……)
閃の予想は当たっていた。
少し離れたビルの屋上。
そこでは、アリシア機がスナイパーライフルを構え、閃機を狙っていた。
そしてソフィーは、アリシアの存在を悟らせないための囮役を担っている。
ビルの隙間から、再びソフィー機が姿を見せた。
その手に握られたハンドガンが閃機へ向けられる。
閃はアリシアの正確な位置を割り出すため、あえてソフィー機へ向かって走り出した。
(き、きたっ!)
ソフィーは緊張しながらも、迫る閃機へ向けてハンドガンを撃つ。
閃機は左右へ身体を振りながら、それらをかわしていく。
一方——
高所にいるアリシアは、そんな閃機を冷静にスコープ越しに追っていた。
じっと狙いを定め、確実に当てられる瞬間を待っている。
そして閃は、ソフィーの射撃をかわしながら、次第にその距離を詰めていった。
◆
その瞬間——
アリシア機のスナイパーライフルから放たれた弾丸が、正確に閃機へと迫る。
しかし——
瞬時に軌道を見切り、身体をひねって弾丸をかわした。
(あら?)
アリシアはわずかに目を丸くする。
(避けられちゃいましたわ)
だが、動揺はしない。
すぐにスナイパーライフルのスコープから目を離すと、狙撃地点を悟られる前にその場から移動を開始した。
(アリシアの射撃を避けたの!?)
ソフィーは驚いていた。
もっとも——
閃が狙撃を回避できたのには理由があった。
閃が見ていたのは、アリシアではない。
目の前にいるソフィーだった。
先ほどまでハンドガンを撃ち続けていたソフィーが、ほんの一瞬、射撃を止めた。
そのわずかな変化を、閃は見逃さなかった。
アリシアの射線を邪魔しないため、一時的に攻撃を止める。
その連携を見抜いたことで、閃はアリシアの姿を直接確認せずとも、狙撃のタイミングを予測できたのだ。
(いいコンビネーションだ)
閃はソフィー機との距離を詰めながら思う。
(アリシアも、ちゃんと撃ったらすぐ移動してる)
(位置取りもいい)
2人の連携は、閃が思っていた以上に完成度が高かった。
◆
模擬戦開始から、30分近くが経ったころ。
「よし、今日はここまで!」
閃の声とともに、模擬戦は終了した。
5人はそれぞれトルーパーから降り、休憩スペースへと集まる。
「4人とも、お疲れ様」
閃は笑顔で声をかけた。
「ち、ちかれた……」
ユインはその場にぺたんと座り込んだ。
「あたしも〜……もう無理ぃ……」
エミリーもユインの隣に座り込む。
「…………」
そしてソフィーに至っては、言葉を発する気力すら残っていないのか、エミリーに完全にもたれかかっていた。
3人とも、完全に疲労困憊だった。
まだエーテルの扱いに慣れておらず、戦闘中の配分がうまくできていない。
例えるなら、フルマラソンを、スタート直後から全力疾走しているようなものだった。
「ところで、アリシア」
閃はふと、少し離れた場所にいるアリシアへ目を向けた。
もちろん、アリシアも疲れてはいる。
だが、地面に座り込んでいる3人と比べれば、明らかに余裕があった。
「はい?」
アリシアはベンチに腰掛け、ドリンクを飲みながら閃を見る。
「前世、スナイパーだった?」
アリシアは飲んでいたドリンクを勢いよく吹き出した。




