第14話「模擬戦①」
閃と別れたあと、ハーリーは残っていた仕事を手際よく片づけると、マークに連絡を入れた。
『博士、ちょうどよかった』
「どうされました?」
ハーリーが尋ねる。
『先ほどまで、トーマス総帥と連絡を取っていたんだが——』
マークは、先ほど共有された情報について話し始めた。
天華天明による襲撃。
実は、イギリス本部が襲撃を受けたのとほぼ同時刻に、日本支部も攻撃を受けていたという。
そして——
日本支部を襲撃した部隊には、例の紫色のレギオン——ワイバーンレギオンの姿があった。
さらに、搭乗していたのがΩクラス強化兵であることも確定した。
「やはり、そうでしたか……」
ハーリーは表情を曇らせる。
『ああ。ただ——』
マークは少し間を置いた。
『どうやら、我々が考えていたより複雑な事情があるらしい』
「複雑な事情……?」
ハーリーは聞き返した。
ワイバーンレギオンのサキ。
彼女は、自らの意思だけで天華天明に協力しているわけではない。
日本支部での戦闘によって、その事実も明らかになっていた。
◆
「なるほど……」
ハーリーは、静かに頷いた。
『それはそうと——』
『博士の方は、何かあったのかね?』
「あぁ、そうでした」
ハーリーは思い出したように言った。
「マーク本部長に、ご相談がありまして——」
先ほど閃から聞いた提案について話した。
ミラを一時的に日本支部へ派遣し、ファクターズと共に訓練や任務を経験させること。
その間、本部の戦力を補うため、他支部からファクターを派遣してもらうこと。
『ふむ……』
一通り話を聞いたマークは、少し考え込んだ。
「それに、“新型”も近々ロールアウト予定ですし、タイミングとしてもちょうどいいかと……」
ハーリーは言った。
マークは厳格な人物ではある。
しかし、決して頭の固い人間ではない。
必要性と合理性があれば、新しい提案にも柔軟に耳を傾ける。
それはハーリーをはじめ、長く彼と仕事をしてきた者なら誰もが知っていた。
『……わかった』
しばらく考えた後、マークは答えた。
『まずは他支部と連絡を取ってみよう』
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
ハーリーは笑顔で言った。
◆
一方——
地下にあるED訓練所には、5機のトルーパーが並んでいた。
そのうち4機に乗っているのは、ユイン、エミリー、ソフィー、アリシア。
そして、残る1機には——
(久しぶりだなー、この感覚)
閃が乗っていた。
機体は、元々ミラが使用していたトルーパーだ。
EDのコクピットは基本的に共通規格となっている。
そのため、操作そのものに戸惑うことはない。
しかし——
(やっぱ、バサラヲとは全然違うな)
バサラヲは閃専用に開発された機体。
対して、今乗っているトルーパーは量産型。
同じEDとはいえ、実際に動かした時の感覚には明確な違いがあった。
今回、閃がトルーパーに乗っているのは、ユインたち4人が普段どのような訓練を行っているのか、実際に間近で確認するためだ。
訓練所の観測室には、他の職員たちに混じって烈の姿もあった。
『まずは、普段通りトレーニングしてみて』
閃は通信で4人に言った。
『はい、先生!』
ユインとエミリーが元気よく答える。
『よろしくお願いします……』
ソフィーは相変わらず、消え入りそうな声だ。
『はぁーい♪』
アリシアは、いつもの調子で緩い返事をした。
そして——
4機のトルーパーは、それぞれ普段行っている訓練を開始した。
◆
(……ん?)
4人のトレーニングを見ていた閃は、少し意外に思った。
実戦経験はほとんどないと聞いていた。
しかし、実際に目の前で見るトルーパーの動きは、まったく悪くない。
それどころか、個々の技量だけで見れば、日本支部の訓練生と同等——部分的にはそれ以上かもしれない。
もっとも、日本支部では個々の能力を伸ばすだけでなく、チームとして連携して動くことを前提に訓練している。
単純に比較できるものではない。
それを踏まえても、4人には閃が予想していた以上の実力があるように思えた。
そして——
同じ光景を観測室から見ていた烈も、同じことを感じていた。
◆
30分ほど経ったあと。
「よし、みんな。15分休んで」
閃の指示で、4人はトレーニングを中断した。
それぞれトルーパーから降り、小休憩に入る。
閃もトルーパーから降りると、4人のもとへ向かった。
「4人とも、体は温まった?」
「うん!」
ユインが元気よく答える。
「ちょうどいいよ!」
エミリーも笑顔で言った。
「……はい」
ソフィーは小さな声で答える。
「ええ」
アリシアも頷いた。
「よし」
4人の様子を確認し、閃は頷く。
「じゃあ、休憩が終わったら、俺と模擬戦しよう」
「え、本当に!?」
ユインの目が一気に輝いた。
「うん。4人とも、動きよかったよ」
閃は素直に評価した。
「そーかなぁ」
エミリーは嬉しそうに笑う。
「あとは、模擬戦で、みんなの動きの癖を見たい」
トレーニングだけでは見えない部分もある。
相手がいる状況でどう動き、どう判断するのか。
それを確かめるには、実際に戦ってみるのが一番だった。




