第12話「無火」
ミラとソフィーは、2人で朝食を食べていた。
「はい、あ〜ん♡」
ソフィーはスプーンでスープをすくうと、ミラの口元へ運んだ。
「あ、あ〜ん……」
ミラは少し恥ずかしそうに口を開ける。
現在、ミラは利き腕を負傷している。
そのため、ソフィーが代わりに食事の世話をしていた。
ソフィーにとっては、ミラの支えになれることが嬉しかった。
食事だけではない。
着替えを手伝ったり、必要な物を取ってきたりと、生活面でも自ら進んでミラをサポートしている。
もっとも——
少々、行き過ぎているところもあるようだが。
「ソフィー、自分で食べられるものは大丈夫よ?」
「だ、ダメ……!安静にしてないと……!」
「左手は使えるんだけど……」
「安静にしてないと……!」
「そ、そう……」
ミラは苦笑いした。
そんな甲斐甲斐しい世話をしながらも——
ソフィーの頭の中には、昨夜見た光景がずっと残っていた。
(昨日の夜……上矢さんと何話してたんだろう……)
スープをすくいながら、ちらりとミラを見る。
ミラはいつも通り、優しい表情を浮かべている。
(気になる……)
(でも、聞いちゃダメだよね……)
ソフィーは再びスープをすくう。
(……でも、気になる)
昨夜からずっと、同じことを考えているソフィーだった。
◆
その日の深夜。
突如、イギリス本部に警報が鳴り響いた。
『敵襲です!各員、戦闘配置についてください!』
どうやら敵襲のようだ。
警報を聞いた閃と烈は、すぐさまEDエリアへと向かった。
すでに格納庫では、多くのスタッフが慌ただしく動き回り、出撃準備を進めている。
2人はそれぞれのEDへ乗り込んだ。
「こちらバサラヲ、発進準備完了」
「レンゴク、発進準備完了!」
2人の報告に、オペレーターが応答する。
『了解です!』
『バサラヲ、レンゴク、カタパルトへ!』
2機は格納庫内を移動し、それぞれカタパルトに接続された。
『進路クリア!発進どうぞ!』
そして——
バサラヲとレンゴクは、カタパルトから飛び出した。
◆
相手は前回と同じ、天華のレギオンⅡ部隊。
オペレーターからの報告によると、今回は陸上部隊に加え、Dフライヤーに搭乗した部隊が上空から接近している。
陸と空、二方向からの同時攻撃。
さらに、その数は前回よりも多い。
しかし——
ワイバーンレギオンの姿はなかった。
それらの情報はオーキュラムを通じ、バサラヲとレンゴクにもリアルタイムで共有されていた。
「空は俺がやる」
閃は烈に通信を飛ばした。
『じゃ、俺は陸だな』
烈が答える。
短いやり取りだった。
それだけで、互いが何をすべきかは十分に伝わっている。
2機はすぐさま別れた。
バサラヲはエーテル推力を一気に高め、上空へと飛翔する。
一方、レンゴクは地上へ降り立つと、スラスターを吹かし、一気に加速した。
それぞれの敵部隊を迎え撃つため、2機は別々の戦場へと向かった。
◆
ゴズマンのレギオンγは、今回も戦闘データを収集するため、Dフライヤーに乗って後方に待機していた。
(ん?)
ゴズマンはレーダーに目を向ける。
2つの反応が、それぞれ別方向から凄まじい速度で接近していた。
(これは……!)
モニター上には、2機の識別信号が表示される。
“ED-01”
“ED-03”
ゴズマンは目を見開いた。
バサラヲとレンゴクだった。
(オイオイ!ファクターズかよ!)
思わぬ相手の登場に、ゴズマンは表情を引きつらせる。
前回とは、明らかに状況が違う。
(冗談じゃねぇ……!)
レギオンγを乗せたDフライヤーを、さらに後方へ移動させた。
◆
シスターズは今回はEDに乗らず、本部内に設置された大型モニターで2機の戦いを見守っていた。
そこに集まっているのは、シスターズだけではない。
多くの職員たちが足を止め、大型モニターの前に集まっていた。
その光景は、まるで大画面でスポーツ観戦をしているかのようだった。
それだけ、ファクターズの戦いに注目が集まっているのだ。
◆
上空を飛行するバサラヲは、Dフライヤーに乗ったレギオンⅡ部隊との迎撃ポイントに到達した。
「迎撃に移ります」
閃は言った。
バサラヲは背中の刀を抜き、《帯電》によって刀身に電気を纏わせる。
そして、次の瞬間——
バサラヲの姿が消えた。
「えっ……?」
あまりにも突然の出来事に、シスターズや職員たちは目を疑った。
閃は《刻式》を発動していた。
閃以外の人間からすれば、その姿は突然消えたようにしか見えない。
時間が極端に引き延ばされたような世界の中——
バサラヲはレギオンⅡ部隊との距離を一気に詰めた。
(6……7……8……)
《刻式》の持続時間は、約10秒。
閃は次々とレギオンⅡを斬り伏せながら、冷静に残り時間を数えていた。
(ん、ここまでか)
《刻式》が解除される直前、バサラヲはさらに上空へと飛び上がる。
再びバサラヲが姿を現した、その瞬間——
先ほどまで何事もなかったかのように飛行していたレギオンⅡが、Dフライヤーごと次々と爆散していった。
(空中じゃ、こんなもんか)
(陸地だったら、あと3機くらいいけたんだけど)
バサラヲはエーテル推力を利用することで、擬似的な飛行を可能としている。
しかし、ツムギのような空中特化型ではない。
そのため、地上と比較すると空中での細かな動きには若干のムラが生じる。
それでも、通常のSDを相手にするには、十分すぎる機動力だった。
バサラヲは上空から刀を振り抜く。
「《雷刃波斬》」
放たれた雷の斬撃が空を走り、3機のレギオンⅡをまとめて斬り裂いた。
残ったレギオンⅡ部隊は、即座に反撃へ移る。
アサルトライフル、バズーカ、ミサイルランチャー。
無数の攻撃が一斉にバサラヲへと殺到する。
しかし——
そのすべてを、バサラヲは次々とかわしていく。
「《雷散》」
バサラヲを中心に電撃が広範囲へと拡散した。
複数のレギオンⅡに命中し、その動きが一斉に止まる。
閃はその一瞬を逃さない。
バサラヲが一気に距離を詰め、1機を刀で斬り裂く。
同時に——
空いた片手から放たれた《雷撃》が、別のレギオンⅡを撃ち抜いた。
その後も、バサラヲの勢いが止まることはなかった。
そして——
戦闘開始から、わずかな時間。
上空に展開していたレギオンⅡ部隊は、バサラヲによってすべて殲滅された。
◆
一方——レンゴク。
(相手は無人機——)
烈は迫り来るレギオンⅡ部隊を見据える。
(なら、“新スキル”の実験台にちょうどいいぜ!)
レギオンⅡ部隊から放たれる弾幕を次々とかわしながら、レンゴクはビーストスタイルへと変形した。
四肢を地面につけ、そのまま一気に加速する。
そして、レンゴクは地面を強く蹴り、勢いよく跳躍。
敵部隊の頭上を越え、そのど真ん中へと着地する。
レギオンⅡ部隊は即座にレンゴクへ照準を合わせた。
その中心で、烈は静かに目を閉じる。
意識を研ぎ澄ませ、自身のエーテルを周囲へと広げていく。
そして、次の瞬間——
レンゴクへ銃口を向けていた5機のレギオンⅡが、ほぼ同時に爆発した。
「な、何が起きたんだ!?」
「故障……?」
大型モニターで戦闘を見ていた職員たちがざわめく。
攻撃を放ったようには見えなかった。
レンゴクは動いてすらいない。
にもかかわらず、周囲のレギオンⅡが突然爆発したのだ。
シスターズも驚いた様子でモニターを見つめていた。
その中で——
ユインは、食い入るようにレンゴクを見ていた。
(いや……違う!)
ユインの目が輝く。
(あれは……!烈師匠のエーテルスキルだ……!!)
誰よりも烈の戦いに注目していたユインは、直感的にそう確信していた。
◆
属性へ変換する前のエーテルを飛ばし、対象を捉える。
そして、捉えた対象の位置で一気に炎へと変換し、爆発させる。
烈が編み出した新スキル——《無火》。
水中や宇宙空間など、本来なら炎の力が十分に発揮できない環境でも高火力のスキルを使用するため、怜の協力のもと、編み出した技だった。
(まだまだ荒削りだが……)
烈は周囲の状況を確認する。
(とりあえず、形にはなってるな)
確かな手応えがあった。
(よし……!)
しかし——
まだ戦闘は終わっていない。
レンゴクの四方には、依然として大量のレギオンⅡが展開している。
烈はゆっくりと呼吸を整えた。
次の瞬間——
レンゴクの全身から炎のエーテルが溢れ出し、機体が赤く発光する。
周囲の空気が一気に熱を帯びた。
そして——
「《炎滅却》!!」
レンゴクを中心に、巨大なドーム状の炎が一気に広がった。
灼熱の炎は周囲に展開していたレギオンⅡを、逃げる間もなく次々と飲み込んでいく。
深夜の闇を塗り潰すように、巨大な炎のドームが、夜空を真っ赤に照らした。
やがて炎が収まる。
先ほどまでレンゴクを取り囲んでいた大量のレギオンⅡは、まるで最初からそこに存在していなかったかのように、跡形もなく消え去っていた。
◆
「あ、圧倒的じゃないか……!」
「これが、ファクターズ……!」
大型モニターで戦いを見ていた職員たちは、興奮を隠せない様子だった。
それは、シスターズも同じだった。
バサラヲとレンゴク。
たった2機で、前回を上回る数のレギオンⅡ部隊を圧倒した。
その戦いぶりには、危なげな様子すらほとんどない。
圧倒的な実力——
そして、おそらく今の戦いですら、2人にとって全力ではない。
「……すごい」
ミラは呟いた。
大型モニターに映るバサラヲとレンゴクを、じっと見つめる。
昨夜、閃と話したことを思い出していた。
ファクターズと共に訓練し、様々な任務を経験する。
もし、それが実現したなら——
自分も、もっと強くなれるかもしれない。
エウリューラの力を、もっと引き出せるようになるかもしれない。
ミラは無意識に拳を握った。
(私も——)
(いつか、あのくらい強くなりたい……!!)
その瞳には、昨夜までの迷いとは違う——
強い憧れと、確かな決意が宿っていた。
◆
(やはり、さすがだな……)
司令室。
マークは大型モニターに映るバサラヲとレンゴクの姿を見つめていた。
(イシュタールのDD)
(天華のΩチーム)
(そして——ファイ)
(それらと戦い、生き残ってきたチームだ……)
(あれくらいの力を持っていても、何ら不思議ではないか……)
しかし——
実際にその力を目の当たりにすると、話で聞くのとはまるで違った。
(改めて目の前にすると……)
(頼もしくもあるが——)
(同時に、恐ろしくもあるな……)
味方であれば、これほど心強い存在はいない。
しかし——
もし、この力が敵のものだったなら——
そう考えずにはいられないほど、2人の力は圧倒的だった。




