第11話「提案」
天華が日本支部を襲撃する、1日前の深夜。
ミラは、格納庫にいた。
目の前には、エウリューラが格納されている。
ミラはしばらく黙ったまま、その機体を見上げていた。
すると——
「ミラさん」
後ろから声をかけられた。
ミラが振り返る。
「あら、閃くん」
そこにいたのは閃だった。
「どうしたんですか?こんな夜中に」
閃が尋ねる。
「ちょっと気分転換してたの」
「閃くんは?」
「僕は散歩してました」
「そうなのね」
ミラは笑顔で返した。
◆
「閃くんって——」
ミラがふと口を開いた。
「ファクターズのリーダーでいること、プレッシャーに感じたことある?」
閃は少し考えてから答える。
「最初の頃は多少ありました」
「でも、リーダーだからって、何でも1人でやるわけじゃないし」
「むしろ、仲間に頼りっぱなしですよ」
閃は笑顔で言った。
「そっか……」
ミラは小さく呟く。
そして、閃の顔を見つめた。
「本当にすごいよ、閃くん」
「て、照れますなぁ……」
閃は顔を赤くしながら、照れくさそうに目を逸らした。
その頭の上では、アホ毛が左右にふりふりと揺れている。
(あ、また動いてる……)
ミラは思わず、揺れるアホ毛に目を奪われ、その動きを目で追っていた。
◆
「エウリューラは——」
ミラは目の前のエウリューラを見上げながら、静かに口を開いた。
「本来、もっと力のある機体なの」
閃もエウリューラを見上げる。
「でも、ファクターである私が……その力を引き出せてないの……」
ミラは俯いた。
「あの時、あのレギオンが見逃してくれなかったら……私は間違いなく死んでた」
「そしたら、この場所も……ここの人たちも——」
ミラは少し言葉を詰まらせる。
「あの子たちも、守れなかった……」
「ミラさん……」
閃は小さく呟いた。
「……ごめんなさい。こんな暗い話」
ミラは申し訳なさそうに微笑んだ。
「いえ……」
閃は首を横に振る。
「ミラさんの気持ち、すごくわかります」
それは慰めるためだけの言葉ではなかった。
閃自身——そしてファクターズも、これまで幾度となく九死に一生を得るような経験をしてきた。
「俺たちも、何度もあったんです」
閃は自分たちの経験をミラに話し始めた。
宇宙でのフレアⅢ攻略戦。
あの時、もし運よく《刻式》が発動していなければ、ファクターズは全滅していた可能性が高い。
そして、エジプトでの人造魔獣との戦い。
あの時も、G.H.O.S.T.の2人が駆けつけてくれなければ、自分は死んでいたかもしれない。
「だから僕も、後から色々考えることありますよ」
閃は言った。
ミラは、静かに閃の話を聞いていた。
◆
「そんなに色んな経験をしてきたのね……」
ミラは感慨深そうに言った。
目の前にいる可愛らしい少年からは、とても想像できないような経験ばかりだった。
「ありがとう。閃くんの話を聞いてたら、何だか勇気が湧いてきちゃった」
ミラは柔らかく微笑んだ。
「よかったです」
閃も笑顔で答える。
「……もう一つ、相談してもいい?」
「いいですよ」
閃はすぐに答えた。
「ありがとう」
ミラは少し考えてから、口を開く。
「ケガが治って復帰しても……これからどうやって訓練していけばいいのか分からなくて……」
ミラは言った。
本部には4人のハーフファクターがいる。
しかし、エーテルファクターはミラだけ。
そのため、どうしてもできることには限界がある。
それは今に始まったことではない。
ミラはこれまでも、試行錯誤しながら訓練を続けてきた。
だが——
ワイバーンレギオンとの敗北を経験した今、これまでと同じ訓練を続けるだけではいけない。
もっと強くなりたい。
エウリューラの力を、もっと引き出せるようになりたい。
そう思う一方で、具体的に何をすればいいのかが分からなかった。
「だから……」
「これから私ひとりで、どうやってレベルアップしていけばいいのかなって……」
ミラは少し困ったように笑った。
閃は腕を組み、少し考え込んだ。
◆
「うーん。確かに……」
閃は腕を組み、しばらく考えた。
「一番いいのは——」
「ミラさんが一時的に日本支部に来て、僕たちと一緒に行動するってのが理想ですね」
「え?私がファクターズと一緒に?」
ミラは目を丸くした。
そんな選択肢は考えたこともなかった。
「日本支部には、ミラさんと同じ風のファクターもいるし」
「ファクターズと一緒に色んな任務に参加してたら、嫌でもレベルアップするかなーって」
閃は笑いながら言った。
ミラの表情が、ぱっと明るくなる。
確かに——
今のミラにとって、それはかなり理想的な環境だった。
同じ風属性の音から学べることも多いはずだ。
そして何より、数々の実戦を経験してきたファクターズと共に行動できる。
「ミラさんがいない間は、アメリカかイタリアからファクターを派遣してもらって、本部をカバーするとか」
閃は続けた。
「それなら……」
ミラの目がさらに輝く。
しかし——
すぐに不安そうな表情になった。
「でも、本部が許してくれるかな……?」
「うーん……」
閃は少し考える。
「ダメ元で相談しときましょうか?」
「いいの?」
「もちろん」
閃は笑顔で答えた。
「ありがとう、閃くん!」
ミラも嬉しそうに笑った。
「その代わり——」
閃はミラの右腕に巻かれた包帯を見る。
「今は治療に専念してくださいね」
「うん!」
ミラは笑顔で頷いた。
そんな2人のやり取りを、少し離れた場所から、不安そうに覗いている人影があった。
(……2人とも、何話してるんだろう)
ソフィーだった。
(なんか、すごくいい雰囲気……)
(ミラも、すごく笑顔だし……)
ソフィーはじーっと2人を見つめる。
そして、胸の奥がそわそわしていた。




