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エーテルコード:ヴァリアスワールド  作者: エトコッコ
天華天明篇

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第8話「烈師匠①」


夕方。


烈は個室へ戻ると、風呂に入ることにした。


浴室へ入った烈は、浴槽を見て思わず目を止める。


(風呂もでけーな……)


ここでも、日本支部との違いを感じる。


烈はスイッチを入れ、浴槽にお湯を溜めた。


3分ほどすると、お湯が溜まったことを知らせるベルが鳴る。


烈は身体を洗ったあと、ゆっくりと湯船に浸かった。


(ふぅ〜……)


全身から力が抜けていく。


そのまま湯船でくつろいでいると、ふと先ほどのハーリーの言葉を思い出した。


(ミラさん……今、かなりつれーだろうな……)


ミラの気持ちは、烈にもよく分かった。


もし自分が同じ立場だったら——


きっと、同じことをする。


ケガが治ったのなら、すぐにでも訓練を再開する。


負けた相手がいるのなら、なおさらじっとしてはいられないだろう。


だからこそ、ハーリーたちがミラを休ませようとしている理由も理解できた。


焦りや不安といった精神的な負荷は、エーテルの乱れにもつながる。


いくら身体だけを治したところで、精神が乱れたままでは意味がない。


(……本部の判断は、間違ってねーけどよ……)


烈はそう思いながら、静かに湯船へ身体を沈めた。



烈は風呂から上がると、タオルで身体を拭きながら、部屋に備え付けられた冷蔵庫を開けた。


中には、様々な飲み物が並んでいる。


(これ、取っていいんだよな?)


少し戸惑いつつ、烈はその中から1本の瓶牛乳を手に取った。


ラベルには、“シャトー・レ・ブラン”と書かれている。


普段飲んでいるものより、明らかに高級そうだった。


烈は瓶の蓋を開け、一口飲む。


「!!」


濃厚なのに飲みやすく、驚くほど新鮮な味わいだった。


(うっま……!)


今まで飲んだ牛乳の中で、一番美味しいかもしれない。


烈はもう一口飲むと、瓶をまじまじと眺めた。


そして、ふとテツの顔が頭に浮かぶ。


(これ……ペット用とかねーかな?)


(テツにも飲ませてやりてぇな……)


烈はそんなことを考えながら、もう一口、瓶牛乳を口にした。



烈は寝巻きに着替えると、大きなベッドに横になった。


スマカを手に取り、保存してあるテツの写真を眺める。


しばらく写真を眺めていると、ふと閃のことが頭に浮かんだ。


(閃は何してっかな?)


(……多分、ゲームだろうけど)


そんなことをぼんやり考えていた、その時——


タイミングよく、閃から着信が入った。


烈はそのまま通話に出る。


『んねぇぇ烈ちゃん?コッチ来ない〜♡?』


「キショいわ」


突然のブリブリな声に、烈は即座にツッコミを入れた。


「まぁいいや。今行く」


呆れながらも、烈もちょうど暇を持て余していた。


烈は通話を切ると、ベッドから起き上がった。


そして、そのまま閃の部屋へ向かうことにした。



「よぉ」


烈が閃の部屋に入ると、閃もすでに寝巻きに着替えていた。


どうやら、閃も風呂を済ませた後らしい。


閃はベッドの上に座り、両手を前に出していた。


そのひとつひとつの指先から《電縛》を伸ばし、複数枚のトランプを空中に浮かせている。


これは閃自身が考案した、手遊びも兼ねたスキルコントロールの訓練だった。


「お、烈」


トランプを浮かせたまま、閃が言った。


よく見ると、テーブルの上にはちゃっかりルームサービスの料理まで並んでいた。


「満喫してんなぁ」


烈は呆れ半分に言った。


「食う?」


閃はその場から動くことなく、1本の《電縛》をトランプから離す。


その《電縛》を伸ばし、皿の上にあったウインナーを掴むと、そのまま自分の口元まで運び、パクッと食べた。


「器用なことしてんな」


烈は笑いながら言うと、自分もテーブルのポテトをつまみ、口に放り込んだ。



「シスターズ、可愛かったねー」


閃はトランプを浮かせたまま言った。


「お前、そればっかりだな」


烈は呆れたように返す。


「烈は誰がタイプ?」


烈は少し考える。


「……うーん、やっぱミラさんかな……」


「やっぱり」


閃は納得したように頷いた。


「烈って、お姉さん系好きだよね」


「そうなのか?」


烈自身には、まったく自覚がないようだった。


そんな烈を見て、閃はニヤッと笑う。


「クレアに言っとこ……」


「バッ……!やめろ!!」


烈は顔を赤くして、思わず声を上げた。


「冗談だって。そんなムキになんなよー」


閃は楽しそうに笑った。


そして、その反応を見て、閃はふと気づく。


前の烈なら、ここでクレアの名前を出したところで、“なんでクレアなんだ?”と、ポカンとしていただろう。


それが今では、顔を赤くしてムキになっている。


どうやらクレアとの仲は少なからず進展しているらしい。



「そういう閃は?」


今度は烈が聞いた。


「誰だと思う?」


閃は聞き返す。


「どうせ全員とかだろ」


烈は即答した。


「さすが烈ちゃん」


どうやら正解らしい。


「オメーは本当に昔から、可愛い子に目がねーよな」


「オスとしての本能だから仕方ない」


閃は悪びれる様子もなく答える。


「開き直んな」


烈は笑いながら言った。


閃が昔からそういう男だということをよく知っている。


可愛い女の子がいれば素直に可愛いと言う。


好意も隠そうとしない。


それでいて、中性的なルックスも相まってか、そんな閃自身も女性からよくモテる。


昔、たんぽぽ荘にいた頃——


結菜が笑いながら言ったことがある。


“ありゃタチが悪い”


烈も、その言葉には妙に納得したものだった。


もっとも——


それが嫌味にならないのは、閃の人間性によるところが大きい。


誰かを弄ぶために近づいたり、好意を利用したりするような人間では決してない。


ただ、素直なだけ。


それを烈は、昔からよく知っていた。



烈と雑談していると、不意に閃の部屋のコールが鳴った。


「ん?」


閃はそのままコールに出る。


『エミリーです』


聞こえてきたのは、エミリーの声だった。


「おー、エミリー。どした?」


閃も気さくに答える。


『今、何してるのかなー?って思って』


「烈と部屋でだべってた」


『そうなんだ!』


少し間を置いて、エミリーが続ける。


『ねぇ、よかったらさ、あたしとユインでそっちに遊びに行ってもいい?』


「ちょっと待ってて?」


閃は一旦受話器から顔を離し、烈を見る。


「エミリーとユイン、こっち遊びに来ていい?って」


「俺はいいぜ」


烈はあっさり了承した。


閃は再び受話器に戻る。


「いいよー」


『やったぁ♡』


エミリーの嬉しそうな声が返ってきた。


『10分くらいで着くね!』


そう言うと、エミリーは通話を切った。



10分後。


部屋の呼び出しベルが鳴った。


閃が扉を開けると、そこにはエミリーとユインが立っていた。


「さ、入って入って」


「お邪魔しまーす!」


2人は元気よく言うと、閃の部屋へ入っていった。


「あっ、烈さん!」


エミリーが烈を見つける。


「師匠!」


ユインもすかさず呼んだ。


「お、おぅ……」


烈はまだその呼び方に慣れない様子で返した。


エミリーとユインは、そのままソファにボフッと腰を下ろす。


「2人の部屋も、ここと同じなの?」


閃が聞いた。


それは烈も気になっていた。


「そだよー」


エミリーはあっけらかんと答えた。


「すげーな……」


烈は改めて部屋を見渡す。


「私とエミリーは同室なんだ」


ユインが言った。


つまり、エミリーとユインは普段から、この部屋と同じ広さの部屋を2人で使っているということだ。


「そうなんだ。他の3人は?」


閃が聞いた。


「ソフィーとアリシアも、あたしたちと同じダブルタイプで同室」


「ミラはシングルタイプで1人だよ」


エミリーが答えた。


どうやら、この部屋はダブルタイプと呼ばれているらしい。


ならば、シングルタイプもかなり広いことは容易に想像できた。


「普段から高級ホテルみたいな生活してんだな」


烈が言った。


「確かにねー」


エミリーは笑う。


「私たちも最初はびっくりしたんだ!」


ユインは言った。


「2人がオルフェに来たのって、どれくらい前?」


閃が尋ねた。


「うーんと……5年前くらいかな?」


「あたしとユインは、同じ時期にここに来たの」


エミリーは答える。


「その前は、それぞれ違う“オルフェ保護施設”にいたんだ」


ユインが続けた。


オルフェ保護施設——


オルフェ研究機関が運営する、エーテルコード専用の保護施設である。


オルフェによって保護されたエーテルコードは、基本的にこうした施設で受け入れられる。


ただし、エーテルファクターやハーフファクター、あるいはオーキュラムによって覚醒値が高いと判断された一部のエーテルコードは、本人の意思を確認したうえで、保護施設ではなく研究機関で生活する場合もある。


閃と烈も、その存在自体は知っているが、実際に保護施設を見たことはない。


エミリーとユインは、それぞれ別の保護施設で暮らした後、5年前にイギリス本部へ移ってきたらしい。


一方、ミラ、ソフィー、アリシアの3人は、閃たちと同じように以前から研究機関で生活していたという。


「5年前ってことは、俺らより先輩やな」


閃が言った。


烈も頷く。


2人がオルフェに来て、もうすぐ3年。


所属する場所こそ違うが、オルフェで過ごした年数だけで見れば、エミリーとユインの方が先輩ということになる。


「えっ!そうなの?意外だなぁー」


エミリーは目を丸くした。


どうやら、閃たちファクターズの方が自分たちより長くオルフェにいると思っていたらしい。


「エミリー先輩、ユイン師匠……」


閃は、不意にボソッと呟く。


「ぶっ!」


「きゃはははっ!何それー!」


エミリーとユインは顔を見合わせると、揃って爆笑した。


「お前がユインの弟子になるのかよ」


烈も思わず笑った。



「てか、何で俺が師匠なんだ?」


烈は改めてユインに尋ねた。


「烈師匠は、私の憧れ!!」


ユインはハッキリと言い切った。


「炎を纏った、あの力強い戦い方!」


「そして、あの“獣王”レンゴク!」


ユインは身を乗り出し、目をキラキラと輝かせる。


「全部かっこいい!!」


「そ、そっか……ありがと……」


烈は、その勢いに若干押されていた。


とはいえ、これほど真っ直ぐな瞳で褒められて、悪い気はしない。


烈は少し照れくさそうに頭を掻いた。


「でも俺、師匠ってガラじゃねーよ……?」


「誰かに何か教えたりするの、苦手だし……」


それは謙遜でもなんでもない。


実際、烈は誰かに何かを教えるということが致命的に苦手だった。


感覚で覚え、感覚で動くタイプなので、それを言葉にして説明するのが苦手なのだ。


しかし——


「教えてくれなんて、とんでもない!」


ユインは烈の言葉を遮るように、手をビシッと突き出した。


「え?」


「技術は盗むもの!」


ユインは自信満々に言い切った。


「あー……」


烈は返す言葉が見つからなかった。


その隣では、閃が2人のやり取りを眺めている。


(烈、完全に押されてんなぁ〜)


出会って間もない女の子に、終始圧倒されっぱなしの烈だった。

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