第7話「シスターズ」
「おっ、噂をすればだね」
ハーリーが声を上げた。
その視線の先を見ると、5人の女性がこちらへ向かって歩いてきていた。
すると——
その中にいた青髪に褐色肌の少女が、閃と烈の姿を見つけた瞬間、真っ先に駆け出した。
エミリーだった。
「わぁぁ!本物のファクターズだー!」
エミリーは目を輝かせながら、2人のもとへ駆け寄ってきた。
「あっ!博士、こんにちはっ!」
途中でハーリーに気づき、元気よく挨拶する。
「はい、こんにちは」
ハーリーも笑みを浮かべて答えた。
エミリーは改めて閃と烈を見る。
「あたし、エミリー!」
満面の笑みを浮かべ、自己紹介した。
「上矢 閃だよ。よろしくね、エミリー」
閃も笑顔で答え、エミリーと握手を交わした。
「新井 烈だ。よろしくな」
烈も続いてエミリーと握手する。
「よろしくねっ!」
エミリーは嬉しそうに、2人の手を握り返した。
◆
「ちょっとエミリー!抜け駆けしないでよー!」
後ろから声が飛んできた。
閃と烈がエミリーの後ろを見る。
声の主は、ユインだった。
そして、その後ろには残る3人の姿もある。
「シスターズが揃ったね」
ハーリーは笑いながら言った。
シスターズ——
ミラ、ユイン、エミリー、ソフィー、アリシア。
イギリス本部に所属する5人のファクターたちの愛称である。
ファクターズのような正式なチーム名ではないが、普段から仲が良く、その姿がまるで姉妹のように見えることから、周囲のスタッフたちに“シスターズ”と呼ばれていた。
ミラが一歩前へ出る。
「初めまして。私はミラ・ヴェネット。エウリューラのEDファクターです」
ミラは丁寧にお辞儀をした。
しかし、その姿は痛々しい。
頭には包帯が巻かれ、骨折した右腕も固定されていた。
「ミラさん、ケガは大丈夫ですか?」
閃が心配そうに尋ねた。
先ほどハーリーから、比較的軽傷だったとは聞いている。
それでも、本人の姿を目の前にすると、やはり気になった。
「ええ、大丈夫よ」
ミラは微笑んで答えた。
そして、少し目を伏せる。
「……こんな情けない姿で、恥ずかしいわ」
どこか申し訳なさそうに、ミラは言った。
◆
「私は李 雨音——ユインです!」
続いて、ユインが元気よく自己紹介した。
「あ、あのっ!」
「ん?」
突然声を上げたユインに、烈が反応する。
ユインは烈の方を向くと、その姿をまじまじと見つめた。
そして——
「烈さん!……いや、“烈師匠”!!」
「し、師匠!?」
あまりにも突然の呼び方に、烈は目を丸くした。
「私の師匠になってください!!」
ユインは真っ直ぐな目で烈を見つめながら、勢いよく頭を下げた。
「師匠って……」
烈は完全に困惑していた。
「弟子ができたね」
その隣では、閃がニヤニヤしながら烈を見ていた。
アホ毛がクルンッとカールする。
(えっ……!?)
ミラは目を見開いた。
(今、髪の毛変化した……?)
自分の目がおかしくなったのかと疑うように、閃の頭を二度見する。
「ユイン、いきなり烈くんを困らせちゃダメだよ?」
ハーリーが苦笑しながら言った。
「う……」
ユインは我に返ったように烈を見る。
「ご、ごめんなさい……」
ペコッと頭を下げた。
◆
閃は、さっきからユインの背後に隠れている人物が気になっていた。
もっとも——
ユイン自身が小柄なため、全く隠れきれていない。
身体の大半が普通に見えていた。
「ほら、ソフィー。挨拶は?」
ユインが後ろを振り返って言った。
「…………」
ソフィーは、ユインの背後から恐る恐る顔を覗かせる。
閃と烈を見ると——
「…………ソフィーです」
今にも消え入りそうな声で、それだけ言った。
そして、すぐにユインの後ろへ顔を隠してしまう。
すると、エミリーがソフィーの頭を優しくポンポンと撫でた。
「ソフィーはね、極度の人見知りなの」
「そっか……」
閃は頷いた。
見れば分かる。
閃は心の中でそう思った。
◆
最後は、アリシアだった。
「わたくしはアリシア・デル・メール。よろしくお願いしますわ」
アリシアはスカートの両端を軽くつまみ、優雅に広げながら挨拶した。
その仕草は、いかにも良家の娘といった丁寧な所作だった。
これで、シスターズ全員との挨拶を終えた。
(なるほどな……)
閃は改めて5人を見る。
ミラ、ユイン、エミリー、ソフィー、アリシア。
5人ともタイプはまるで違うが、全員が目を引くほど可愛らしい。
本部へ向かう前、なぜかクレアがやたらとそわそわしていたのを見て、閃は不思議に思っていた。
その理由が、今になって何となくわかった。
「ねぇ、ここにはどれくらいいるの?」
エミリーが尋ねる。
「まだ未定だよ」
閃が答えた。
「じゃあ、ここにいる間、私たちを鍛えてください!」
ユインがすかさず言った。
「ユイン……」
ハーリーは苦笑いする。
「まだ2人はここに来て間もないんだから……」
「……あの」
それまで静かにしていたソフィーが、小さな声で口を開いた。
「……そろそろ任務の時間だよ?」
「あ!本当だ!」
エミリーが慌てて時間を確認する。
「それでは、また後で」
ミラが2人に微笑みかけた。
そして、シスターズは揃ってその場を後にした。
◆
「みんな、個性的だろ?」
去っていく5人の後ろ姿を見ながら、ハーリーは笑って言った。
その表情は、まるで娘たちを見守る父親のようだった。
「皆さん、可愛いですね」
閃が言った。
「あはは。あの子たち、他支部でも評判なんだ」
ハーリーは楽しそうに笑う。
「烈ちゃんなんて、鼻の下伸ばしちゃって……」
閃がニヤニヤしながら烈を見る。
「伸ばしてねぇよ!!!」
烈は即座に否定した。
そんな2人のやり取りを、ハーリーは笑いながら見ていた。
◆
「あの……ハーリー博士」
ふと、閃が声をかける。
「ん?なんだい?」
閃には、少し疑問に思っていたことがあった。
「ファクターズに、音って女の子がいるんですけど」
「もちろん知ってるよ。ミラと同じ、風のファクターの子でしょ?」
「そうです」
閃は頷いた。
「君たちファクターズは有名も有名。オルフェで知らない人なんていないよ」
「あはは……そうなんですね」
閃は少し照れくさそうに頭を掻いた。
「それで、音のエーテルスキルを使えば……ミラさんのケガも、すぐに治せるんじゃないかなって思って」
今回の派遣が決まった時から、それが少し気になっていた。
音の《治癒のウィンド》があれば、ミラのケガを治し、すぐに戦力へ復帰させることもできるはず。
それは閃だけではなく、他のメンバーも同じように考えていた。
しかし——
それを踏まえた上で、今回の人選には何か理由があるのだろう。
そう考え、その場ではあえて尋ねなかったのだ。
◆
閃から一通り話を聞いたハーリーは、少し間を置いてから口を開いた。
「実はね……確かに、その話もあったんだよ」
「でも——あえてそうしなかったんだ」
ハーリーは少し複雑そうな表情を浮かべた。
「あえて、ミラのケガをすぐに治さないためにね」
「……?」
閃と烈がハーリーを見る。
「ミラはね、自分自身にすごく厳しい子なんだ」
ハーリーは、先ほどミラたちが去っていった方へ目を向ける。
「シスターズの中では、一番早くファクターに覚醒したこともあってね……ずっと頑張りすぎてたんだ」
「その中で、今回の敗北……」
ハーリーは少し間を置いた。
「今のミラを完全に回復させたら、きっとすぐに訓練を始める。そして、また戦おうとするだろう」
閃と烈は黙って聞いていた。
「だから、今回はあえてケガを治さず、自然に回復するまで休ませることにしたんだ」
「身体を休ませるのはもちろんだけど——」
「今のミラには、心を休ませる時間も必要だからね」
「……そういった事情があったんですね」
閃と烈は納得したように頷いた。
2人はようやく、今回の人選の理由を理解した。




