第6話「本部へ②」
閃と烈は、食事に向かうことにした。
日本支部の食堂は、一般的な企業と同じようなバイキング形式になっている。
しかし、イギリス本部は、まるで違った。
「…………」
閃と烈は、目の前に広がる光景を見て、再び立ち尽くす。
広大なフロアには、様々な飲食店が軒を連ねていた。
しかも、その多くが有名店と提携し、実際の店舗として出店している。
ファーストフードから本格的なレストラン、カフェ。
種類も、和食から洋食まで様々なものが揃っていた。
「大型デパートの飲食フロアやん……」
閃が呟いた。
「いくらなんでも、すごすぎんだろ……」
烈も呆気に取られながら言った。
本部に到着してからというもの、2人は驚きっぱなしだった。
そして今度は、店が多すぎて、食事処を選ぶだけでも一苦労だった。
「烈、心を読んでやろうか」
閃が不意に言った。
「おう」
烈は即答する。
「“和食食いてぇ、味噌汁飲みてぇ”」
「大正解」
烈は真顔で答えた。
「……和食行こ」
「おう」
結局、2人は迷うことなく和食店へ向かった。
◆
2人は「和食処・魚拓」という店に入った。
名前からして、どうやら魚料理が中心の店らしい。
席に着くと、すぐにUBが注文を取りに来た。
2人は、とりあえず日替わり定食を頼むことにした。
「なんか、違う意味でどっと疲れとる……」
烈はため息混じりに言った。
「俺らって、改めて田舎出身なんだなって思い知らされたな〜」
閃も頬杖をつきながら言う。
「やっぱ田舎が性に合うわ」
2人がそんな雑談をしているうちに、先ほどのUBが日替わり定食を運んできた。
2人の前に、焼き魚を中心とした料理が並べられていく。
「うぉ!本格的な魚料理だな!」
烈が目を輝かせる。
「うまそう!」
閃も身を乗り出した。
「コチラノ料理ハ、スベテ天然物ヲ使用シテオリマス」
UBが説明する。
「え!?」
その言葉を聞いた瞬間、2人は同時にUBを振り向いた。
「そ、そういや値段見てなかった……」
閃の表情が僅かに引きつる。
「閃サマト烈サマノオ食事代ハ、スベテコチラデ負担サセテイタダキマス」
「え……いいんですか?」
閃が聞き返す。
「ハイ。マーク本部長ノ意向デゴザイマス」
「マジか……」
閃は少し驚いたように料理を見る。
「至れり尽くせりだな……」
烈はしみじみと呟いた。
◆
2人は日替わり定食を食べ終え、店を出た。
「美味しかったぁー……」
閃は満足そうに言った。
料理はどれも想像以上に美味しく、2人とも大満足だった。
「まさか、普段からこんな天然物食べられるとはなぁ……」
烈も感心したように言った。
日本では、天然物は特別な日などに食べるのが一般的だった。
それを普段の食事として出しているあたりも、2人にとっては驚きだった。
「EDエリア行かない?」
閃が言った。
「そうだな。行ってみるか」
烈も頷く。
食事を終えた2人は、そのままEDエリアへ向かうことにした。
◆
「うお……広っ」
やはりというべきか、ここも日本支部とは比べものにならないほど広い。
そんな中でも2人が真っ先に目を奪われたのは——エウリューラだった。
ワイバーンレギオンとの戦闘ログで、その存在自体はすでに知っている。
しかし、そのログは、あくまでエウリューラのコクピット視点から記録されたもの。
そのため、機体の外観まではほとんど分からなかった。
閃と烈にとって、トルーパーやファクターズの専用機以外のEDを実際に見るのは、これが初めてだった。
2人はエウリューラの前まで行き、機体を見上げる。
「すげー細いな」
烈が言った。
「いかにも空戦特化って感じ」
閃も興味深そうに機体を眺める。
「たしか、ファクターは風だっけか?」
「うん。音と同じ」
風のファクターが操るED。
しかし、音のツムギとは、そのフォルムも設計思想もまるで違っていた。
「同じ属性でも、こんなに違うもんなんだな」
烈はエウリューラを見上げながら言った。
初めて目にするEDに、2人は新鮮な気持ちで機体を眺めていた。
◆
バサラヲとレンゴクも、同じフロアに格納されていた。
その2機の周囲には、人だかりができていた。
閃と烈がエウリューラを珍しがったように、本部の人々からすれば、バサラヲとレンゴクもまた珍しいのだろう。
しかし——
珍しがられているのは、機体だけではなかった。
(わぁ〜めっちゃ見られてる……)
閃は周囲の視線を感じながら思った。
2人の姿に気づいたスタッフたちが、明らかにざわついている。
どうやら、閃と烈自身もかなり注目を集めているようだ。
そんな中——
1人の男性が2人のもとへやってきた。
「あっ、君たちが閃くんと烈くんだよね?」
丸メガネをかけた、気の優しそうな男性だった。
「はい」
2人は頷く。
「初めまして。ボクはハーリー。ハーリー・カーター」
男性は笑顔で名乗った。
「ここのエーテル開発の主任をさせてもらってるんだ。よろしくね」
「ハーリー博士、よろしくお願いします」
閃が言った。
烈も挨拶し、2人はハーリーと握手を交わした。
「黒須博士は元気にしてるかい?」
ハーリーが尋ねる。
「元気……というか、いつも通りですね」
閃は少し考えながら答えた。
そもそも、黒須に“元気”というイメージがあまりない。
いつも眠たそうにしているか、タバコを吸っているか。
閃の中では、そんな印象だった。
「あはは、なら良かったよ」
ハーリーは笑った。
「日本に行った時は、よく黒須博士と居酒屋に行ってるんだ」
「そうなんすね」
烈が言った。
「そういえば——」
閃はエウリューラへ視線を向ける。
「あのEDは、ハーリー博士が開発したんですか?」
「そうだよ」
ハーリーもエウリューラを見上げた。
「君たちのEDと同じように、ファクターに合わせて設計しているんだ」
「エウリューラのファクター、大丈夫ですか?」
閃が尋ねた。
「うん。幸い、比較的軽傷で済んだよ」
その言葉に、閃と烈は安心した。
「そういえば、まだうちのファクターたちには会ってないよね?」
ハーリーが尋ねる。
「はい、まだです」
2人は頷いた。
「ふふっ」
ハーリーはどこか楽しそうに笑う。
「君たちに、すごく会いたがってるよ」
「うちの“シスターズ”がね」
「“シスターズ”……?」
閃は首を傾げた。
「会ったら分かるよ」
ハーリーは笑顔で答えた。




