第5話「本部へ①」
翌日。
「閃くん、烈くん。頼んだよ」
トーマスは、出発を控えた2人に声をかけた。
用意されたキャリアには、すでにバサラヲとレンゴクが積み込まれている。
「はい、行ってきます!」
閃は元気よく答えた。
「行ってきます」
烈も続いて言った。
「気をつけて」
トーマスは笑みを浮かべ、2人を送り出す。
閃と烈はキャリアへ乗り込んだ。
やがて、発進準備が整う。
そして、2人を乗せたキャリアは、イギリス本部へ向けて飛び立っていった。
◆
キャリア内。
「俺らってさ」
不意に、閃が口を開いた。
「ん?」
烈が閃を見る。
「オルフェに来て、もうすぐ3年くらいだよな」
「もうそんなに経つんか?」
烈は少し驚いたように言った。
「でもさ、他のオルフェに行くのって、今回が初めてだなーって思って」
閃は座席にもたれながら続ける。
「あぁ……確かにそうだな」
烈も頷いた。
現在、オルフェ研究機関の研究施設は、日本、イギリス、アメリカ、イタリアの4ヶ国に存在している。
日本とイタリアには、それぞれ1つ。
イギリスには本部のほか、第1支部と第2支部。
アメリカには第1支部から第4支部まで存在していた。
しかし、アメリカ第4支部はファイによって消滅。
そのため現在、オルフェが有する研究施設は全部で8ヶ所となっている。
もっとも、閃と烈が知っているのは、日本支部だけだった。
それは怜と音も同じである。
「他の施設にも、ファクターっているんだよなー」
「俺ら含めて、何人くらいいるんだろうな?」
烈が言った。
「かなり前に黒須博士に聞いた時は、22人って言ってた」
「今は30人くらいはいるんじゃない?多分」
もちろん、この30人という数には、ハーフファクターも含まれている。
そして、これから2人が向かうイギリス本部には、ファクターが5人いると聞いていた。
その5人がどんな人物なのか、2人は何も知らない。
何より、同じオルフェに所属しながら、日本支部以外のファクターと会うのは、今回が初めてだった。
◆
やがて、キャリアはイギリス本部へ到着した。
「うおー!でけー!」
キャリアから見えるイギリス本部の姿に、閃は思わず声を上げた。
「さすが本部……」
烈も、その巨大な施設を見上げながら言った。
日本支部と比べても、明らかに規模が違う。
日本支部が地下を中心とした構造になっているのに対し、イギリス本部は巨大なビルを中心に構成されている。
さらに、地上部分だけではなく地下にも広大な施設が存在している。
ぱっと見ただけでも、その規模は日本支部の4倍以上は優にある。
やがてキャリアが着陸する。
閃と烈が外へ降りると、そこには数人のスタッフと、1人の男性が待っていた。
「初めまして」
男性が2人の前へ歩み出る。
「私は本部長のマーク・コールだ」
「日本からの支援、誠に感謝する」
「上矢 閃です。よろしくお願いします」
閃は挨拶をする。
「新井 烈です。お願いします」
烈も続いた。
2人は、マークとそれぞれ握手を交わした。
「キャリアと君たちのEDはこちらで移動させてもらうが、いいか?」
マークが尋ねる。
「ええ。構いません」
閃は答えた。
マークは頷くと、施設の方へ身体を向けた。
「では、案内しよう」
「はい」
閃と烈は、マークの後についてイギリス本部へと入っていった。
◆
本部内。
中へ入ると、日本支部との規模の違いはさらに明らかになった。
広大なフロアを、大勢のスタッフやUBが行き交っている。
しかも、ここはまだ施設に入ってすぐのフロアに過ぎない。
「…………」
閃と烈は、その光景を前にぽかんとしていた。
そんな2人の様子に気づき、マークが口を開く。
「君たちは、本部に来るのは初めてか?」
「初めてです。日本支部しか知らなかったので、びっくりしてます」
閃は素直に答えた。
「そうか」
その反応に、マークは少し口元を緩める。
「所詮、“名ばかり本部”だがね……」
マークは自嘲気味に呟いた。
かつて発生した、オルフェ襲撃事件。
オルフェ各地の施設が襲撃され、その被害は甚大なものだった。
当然、イギリス本部も例外ではない。
そんな中、唯一ほぼ無傷だったのが日本支部。
事件後、当時の総帥エドワードと、副総帥であり現在の総帥であるトーマスは日本支部へ移り、そこを実質的な活動拠点として使用するようになった。
当初は、あくまで一時的な措置だった。
しかし、その後——
ファクターズの存在、それに伴う専用EDの開発。
日本という国そのものの安全性。
様々な要因が重なり、現在に至るまで日本支部がオルフェの“実質的な本部”として機能している。
そのため、正式な本部であるイギリス本部は、“名ばかり本部”と揶揄されることも少なくなかった。
それでも、オルフェ全体で見ても、ここが重要拠点であることに変わりはない。
施設の規模も、所属する人員も最大級。
そして、それだけ重要な場所だからこそ、オルフェでも最大級の防衛戦力が備えられていた。
◆
しばらく、閃と烈はマークと話をしていた。
「では、私はそろそろ仕事に戻るよ」
「この後の案内は、係の者に任せてある」
そう言うと、1人の女性スタッフがやってきた。
「お2人のお部屋まで、私がご案内させていただきます」
案内係の女性は丁寧に頭を下げた。
「何か困ったことがあれば、遠慮なく頼ってくれ」
「では、私はここで失礼するよ」
閃と烈は揃って頭を下げた。
マークは軽く手を上げて応えると、その場を後にした。
「それでは、こちらへどうぞ」
閃と烈は、案内係の女性について歩き出した。
◆
「こちらでございます」
案内係の女性に連れられ、閃と烈は用意された部屋へと案内された。
部屋は、それぞれに個室が用意されている。
「では、ごゆっくりお過ごしください」
案内係が扉を開ける。
部屋に入った閃は、思わず目を丸くした。
かなり広い。
内装も豪華で、まるで高級ホテルの一室だった。
(え、個室でこれ?)
1人で使うには、明らかに持て余す広さ。
なんなら2人で使っても、まだ持て余しそうだ。
ふと隣を見ると、烈も同じような顔で部屋を見渡している。
(多分、考えてること同じだな……)
閃は思った。
2人は案内係に礼を言うと、それぞれの部屋に荷物を置いた。
そして、一旦閃の部屋に集まることにした。
「高級ホテルじゃねーか」
部屋に入って早々、烈が言った。
「ルームサービスまである……」
閃は案内表を見ながら言った。
「逆に落ち着かねーわ……」
「わかる」
閃も頷いた。
2人とも、これまでこういった豪華な場所で過ごした経験はほとんどない。
広すぎる部屋の中で、なんとなく所在なさげに立ち尽くす。
「これが“カルチャーショック”ってやつか……」
烈が真顔で言った。
(それはちょっと意味が違うような……)
閃は内心でツッコんだ。




