第4話「鳥籠」
戦闘を終えたレギオンⅡ部隊は、次々とキャリアへ帰還していた。
ゴズマンのレギオンγも、それに続いてキャリア内へ戻る。
格納庫には、すでに帰還したワイバーンレギオンの姿があった。
サキはコクピットから降り、機体のそばで技術スタッフと何やら話している。
その様子を、ゴズマンはレギオンγのコクピット内から眺めていた。
◆
ゴズマンがコクピットから降りると、整備スタッフの1人が近づいてきた。
「おつかれっス、隊長」
そう言いながら、ゴズマンにドリンクを手渡す。
「おう」
ゴズマンはそれを受け取ると、喉を潤すように一気に飲んだ。
「レギオンⅡ、実際どうっすか?」
整備スタッフが尋ねる。
「可もなく不可もなく、ってとこだな。今んとこ」
ゴズマンはあっさりと答えた。
「それより……」
ゴズマンは、少し離れた場所にいるサキへ視線を向ける。
「“鳥”は?」
「あぁ、Ω……やっぱ、さすがっすよ」
整備スタッフもサキの方を見る。
「イギリスのED、撃墜してました」
「ほぉ……」
ゴズマンは少し感心したように眉を上げる。
「で、トドメは?」
「刺してないみたいっすね」
「チッ……」
その答えを聞いた瞬間、ゴズマンは露骨に舌打ちした。
撃墜しておきながら、仕留めなかった。
どうやら、それが気に入らないらしい。
ゴズマンはドリンクをもう一口飲みながら、サキをじっと見つめていた。
◆
サキが廊下を歩き、自室へ戻ろうとしていた時だった。
「小鳥ちゃんよォ」
背後から、ゴズマンの声がした。
しかし、サキは振り返らない。
そのまま無視して歩き続ける。
「おい」
ゴズマンは歩み寄ると、サキの肩を掴んだ。
そして、強引に振り向かせ、その顎を掴む。
「無視すんなよォ……」
顔を近づけ、威圧するように凄むゴズマン。
だが、サキに怯えた様子はない。
鋭い目で、真っ直ぐゴズマンを睨み返した。
「お前、トドメ刺さなかったらしいな?」
ゴズマンが言った。
「……任務はあくまで足止め」
サキは淡々と答える。
「目的は十分に果たしたはずだが?」
実際、サキの言う通りだった。
今回の目的は、エウリューラの撃破ではない。
レギオンⅡ部隊が戦闘データを収集する間、その介入を防ぐこと。
つまり、足止め。
それどころか、サキはエウリューラを撃墜している。
任務として見れば、十分すぎるほどの戦果を上げていた。
「そんなにトドメを刺したいなら、お前がやれ」
サキは冷たい目でゴズマンを見る。
「できるものならな……」
サキはゴズマンの手を払いのけた。
そして、それ以上何も言わず、その場を立ち去っていく。
ゴズマンは追いかけようとはしなかった。
ただ、その後ろ姿を睨みつける。
(調子に乗るなよ……サキ)
◆
天華天明によるイギリス本部への襲撃は、即座にオルフェの全拠点へ通達された。
新型のレギオンⅡ。
そして、ワイバーンレギオン。
総帥のトーマス、副総帥の松永、イギリス本部長のマーク、そして各支部の代表による緊急リモート会議が開かれた。
会議では、当時の戦闘状況を交えながら、マークが襲撃の詳細を説明していく。
そして——
やはり議題の中心となったのは、エウリューラを撃墜した紫色のレギオンだった。
◆
会議終了後。
トーマスはファクターズ、そしてメルを司令室に呼び出した。
本部で起きた襲撃について一通り説明した後、エウリューラに記録されていた戦闘ログを見せる。
映像には、空中を高速で飛び回るワイバーンレギオンの姿が映っていた。
メルは、その動きを眺める。
「うん。間違いなくサキだ」
迷いのない答えだった。
「んで、この機体……サキのやつの改修機かな?」
メルは映像を見ながら続ける。
「メル達が使ってたレギオンΩって、ヴァルキリー・ギアとベルセルク・ギアって2つあってさ」
「前、せっちゃん達と戦った時に、メルがベルセルク・ギア使ったの覚えてる?」
「あの、見た目が変わったやつ?」
閃が言った。
「そうそう」
メルは頷く。
「多分だけど、この機体はそのベルセルク・ギアを外して、ヴァルキリー・ギア特化にしてると思う」
メルは画面に映るワイバーンレギオンを指さした。
「だから、あんなにダイエットしたみたいに細くなってる」
「なるほど……」
「レギオンΩを、完全な空中戦仕様にしたというわけか」
トーマスは改めて映像を見る。
「そゆこと」
メルは頷いた。
◆
「しっかし——」
メルは戦闘ログを眺めながら、腕を組んだ。
「あの“痩せレギオン”に、よりによってあのサキが乗ってるなら……」
「こりゃ、簡単にはいかないよ?」
「だろうな……」
烈が低い声で呟いた。
かつて、唯一サキと1対1で戦った経験がある烈は、その恐ろしさをよく分かっている。
「それにさ」
メルは映像を見ながら続ける。
「これ、結構手加減してるし」
「……!」
その言葉に、トーマスは息を飲んだ。
ファクターズも口にこそ出さなかったが、そのことには気づいていた。
つまり——
サキの実力は、この戦闘ログで見せたものが全てではない。
実際は、さらに強いということだった。
「でも——」
「手加減してるってことは、サキさん……何か事情がありそう……」
音はメルを見る。
「あー……そうかも」
メルも否定しなかった。
◆
「イギリス本部のことだが——」
全員の視線がトーマスへ向く。
「現在、4人の訓練生がいる。しかし、いずれも実戦経験はない」
「そして、唯一いるファクターも、先ほどの戦闘で負傷している」
トーマスの表情が険しくなる。
「つまり——今のイギリス本部には、戦えるファクターがいないんだ」
閃たちは黙って話を聞く。
「天華が次にどこを攻撃してくるのか、それは分からない」
「それに——攻めてくるのが天華だけとも限らない」
「もし、この状況で再び本部が襲撃を受ければ……非常にまずい」
ファクターズは頷いた。
「そこで——」
「日本支部から2名、イギリス本部へ一時的に派遣することになった」
「行ってもらうのは、閃くん、烈くん」
「お願いできるかな?」
「もちろんです」
閃はすぐに答えた。
「了解です」
烈も頷く。
「ありがとう、2人とも」
トーマスは2人を見て言った。
「色々と急で申し訳ないが、明日の朝8時に出発してもらう」
「了解!」
閃と烈は揃って返事をした。
続いて、トーマスは残る3人を見る。
「怜くん、音くん、メルくんは日本支部で待機」
「もし天華がここへ来た場合、3人には防衛を頼む」
「了解」
「はいっ!」
「はいよ〜」
怜、音、メルがそれぞれ返事をする。
こうして話はまとまり、5人は司令室を後にした。




