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エーテルコード:ヴァリアスワールド  作者: エトコッコ
天華天明篇

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第3話「翼竜」


エウリューラは、高速で接近してくる紫色の機体へ両手を向けた。


フィンガーファランクスから、無数のエーテル弾が一斉に放たれる。


しかし、紫色の機体は、一切速度を落とさない。


機体をわずかに左右へ振りながら、弾と弾のわずかな隙間を縫うように突き進んでくる。


まるで、弾幕の間をすり抜けているかのようだった。


「——!!」


ミラは思わず息を飲んだ。


その動きを司令室のモニターで見ていたマークも、思わず声を上げる。


「やはり、間違いない……!」


「アレに乗っているのはΩクラスだ!!」


その言葉を聞いたオペレーターは、すぐさまミラへ通信を繋いだ。


『ミラ!相手はΩクラスよ!』


『接近戦は避けて!!』


「了解です!」


ミラは即座に射撃を中断。


機体を反転させ、一気に距離を取った。



紫色のレギオンに乗っていたのは——やはり、サキだった。


そして、彼女が乗っている機体。


それは、かつてサキが使用していた専用のレギオンΩ。


それを天華天明が回収し、独自の改良を施した機体「レギオンΩ改 ワイバーン」——通称「ワイバーンレギオン」と呼ばれるものだった。


ワイバーンレギオンは、レギオンΩに搭載されていたベルセルク・ギアを撤去し、ヴァルキリー・ギアに特化した機体となっている。


外観も、かつてのレギオンΩから大きく変化していた。


機体は以前と比べてかなり細身になっており、徹底的な軽量化が施されている。


さらに、背部には新たにウィングを追加。


空中での機動力を大幅に高めた、まさに完全なサキ仕様とも呼べる機体へと進化していた。


サキは、距離を取っていくエウリューラの動きを冷静に分析する。


(機動力は、あちらの方が上か)


ワイバーンレギオンは、以前のレギオンΩと比較しても、その空戦能力は圧倒的に向上している。


それでもなお、エウリューラの機動力は、それを上回っていた。


空中特化型EDであるエウリューラの性能に、ミラが持つ風のエーテル。


それらが合わさることで生み出される空中機動力は、ワイバーンレギオンすら凌駕していた。


(追いつくのは不可能)


サキはそう判断すると、無理に追撃することなく、一旦接近をやめた。



一方、イギリス本部の防衛部隊とレギオンⅡ部隊も、すでに交戦を開始していた。


激しい戦闘が繰り広げられる中、少し離れた上空から、ゴズマンのレギオンγがその様子を見つめていた。


イギリス本部——ここは、オルフェの中で最も高い防衛戦力を有している。


一方、日本支部はファクターズそのものが強大な防衛戦力として機能しているため、本来の防衛部隊としての戦力は、各拠点の中でも低い部類に入る。


それだけ、日本支部の立ち位置がオルフェの中でも特殊ということだった。


「こちらは大丈夫そうですね」


男性オペレーターがモニターを確認しながら冷静に言った。


イギリス本部の防衛隊とレギオンⅡ部隊。


両者の戦況を見れば、どちらが優勢かは明らかだった。


「ああ」


マークは頷いた。


しかし、その表情に安堵の色はない。


「……ここを狙ったのも、恐らくあの新型のデータ取りが目的だろうな」


マークは冷静に戦況を見ながら言った。


実際、その読みは当たっていた。


天華天明が最初の攻撃目標としてイギリス本部を選んだ理由。


それは、オルフェでも最高の防衛戦力を相手に、レギオンⅡの実戦データを収集するため。


新型機の性能を測る相手として、これほど都合のいい場所もない。


「問題は……」


マークの視線が、別のモニターへ移る。


そこには、上空を飛行する紫色の機体。


「……あの紫のレギオンだ」


マークは、ワイバーンレギオンを睨むように見つめた。



エウリューラとワイバーンレギオンは、激しい空中戦を繰り広げていた。


ミラは一定の距離を保ちながら、フィンガーファランクスを放ち続ける。


対するサキも、無理に距離を詰めようとはしない。


両腰にマウントされていたサブマシンガンを抜き、両手に構えると、エウリューラへ向けて射撃を続けていた。


ミラの放つ弾幕を、サキは最小限の動きで次々とかわしていく。


一発もかすりもしない。


一方、サキの射撃は違った。


高速で飛び回るエウリューラの動きを正確に捉え、少しずつ弾丸を命中させていた。


もっとも、サブマシンガン程度の火力では、エウリューラにほとんどダメージは入らない。


しかし——


サキの狙いは、最初からそこではなかった。


(ダメだ……完全に動きを読まれてる……!!)


ミラは歯を食いしばる。


少しずつ、ミラの動きに焦りが見え始めていた。


思考によって機体を操るEDは、操縦者の精神状態が機体の挙動に反映されやすい。


そうした僅かな感情の乱れさえ、機体の動きにダイレクトに現れる。


そして、サキほどの手練れが、その変化を見逃すはずがなかった。


機体性能で及ばなくとも、操縦者としての技量と精神力で上回れば、十分に勝機はある。


サキがサブマシンガンを使い続けているのも、そのためだった。


エウリューラにダメージを与えるためではない。


攻撃を当て続けることで、ミラに精神的な圧力をかける。


焦らせ、判断を乱す。


そして——


決定的な隙を作らせる。


それこそが、サキの狙いだった。



エウリューラとの同調率が、わずかではあるが低下していた。


「ミラ!落ち着いて!」


オペレーターが呼びかける。


一方、サキは戦いの中で、少しずつ距離を詰めていた。


悟られないよう、慎重に。


しかし、焦り始めているミラは、その変化に気づいていない。


それどころか、攻撃が一向に当たらないことに焦り、無意識のうちに自ら距離を詰め始めていた。


その時——


『ミラっ!ちょい近づきすぎ!』


突然の声に、ミラはハッとする。


その一言で我に返り、すぐさまワイバーンレギオンとの距離を取った。


声の主は、格納庫で待機しているプレントルーパー02から通信を入れていた。


エミリー・オーブ。

イギリス本部所属のハーフファクター。

青い髪と褐色の肌が特徴的な、元気いっぱいの少女である。


「ありがとう、エミリー!」


ミラは言った。


再びワイバーンレギオンへ意識を集中させる。


しかし——


不利な状況そのものが変わったわけではない。


その頃、同じく格納庫で待機していたプレントルーパー01から、司令室へ通信が入った。


『やっぱ援護だけでも行かせてよ!お願いだよぉ!マークのおっちゃん!!』


リー 雨音ユイン

イギリス本部所属のハーフファクター。

左右非対称に整えられた黒髪を、後ろで団子状にまとめた、つり目が特徴の少女である。


「ダメだ」


マークは即答した。


『ちぇっ!わからず屋!!』


ユインは不満そうに頬を膨らませた。


そして、その近く。


プレントルーパー03のコクピットでは——


(あぁ……!ミラ……!)


(もう、怖くて見てらんない……!)


1人の女性が、両手で顔を覆っていた。


しかし、完全に目を逸らしているわけではない。


指の隙間から、モニターに映るミラの戦闘をしっかり覗いている。


ソフィー・ジャッジ。

イギリス本部所属のハーフファクター。

茶色のセミロングヘアに、いつも困っているように下がった眉が特徴の女性である。


そんな三者三様の反応を見せる中——プレントルーパー04のコクピットで、静かに目を閉じている少女がいた。


アリシア・デル・メール。

カールした赤毛をサイドで結び、美しいグリーンの瞳を持つ少女。


4人のハーフファクターの中で、唯一この状況でも冷静さを失っていなかった。


「……スヤスヤ」


ただ、寝ているだけだった。



(……そろそろ引き上げるか)


ゴズマンは頭の後ろで腕を組み、あくびをしながら戦況を眺めていた。


(最初はこんなもんか……)


(ま、αの連中よりは、使い物にはなる)


ゴズマンはそう判断すると、全機に撤退信号を送った。


戦闘を続けていたレギオンⅡが一斉に攻撃を停止。


次々と戦線を離脱し、撤退行動へ移っていく。


「新型レギオン部隊、撤退を開始しました」


オペレーターが報告する。


「ああ」


マークは頷いた。


その情報は、交戦中のミラにも伝えられた。


『ミラ、敵部隊が撤退を開始した!』


「了解!」


その瞬間——


ほんの一瞬だけ、ミラの緊張が緩んだ。


サキは、その一瞬を見逃さなかった。


ワイバーンレギオンは両手のサブマシンガンを投げ捨てつつ、一気に加速した。


「——!!!」


ミラが気づいた時には、すでに遅かった。


(しまっ——)


ワイバーンレギオンの蹴りが、エウリューラにまともに叩き込まれた。


激しい衝撃に、エウリューラの体勢が大きく崩れる。


その隙を逃さず、ワイバーンレギオンはさらに追撃の蹴りを叩き込んだ。


そして、背後からエウリューラを羽交い締めにする。


次の瞬間——


2機はそのまま、真っ逆さまに急降下を始めた。


「キャァァァァァ!!」


高度が一気に失われ、猛烈な速度で海面が迫る。


そして、海面への激突寸前、ワイバーンレギオンがエウリューラから手を離した。


解放されたエウリューラは、その勢いを殺すことができない。


凄まじい水柱を上げながら、海面へ叩きつけられた。


ワイバーンレギオンは、その様子を確認することすらせず、そのまま戦場を飛び去っていった。



「ミラ!!無事なのか!?」


マークは思わず叫んだ。


オペレーターが急いでモニターを確認する。


「……!!反応あります!」


「気を失っていますが、無事です!」


「回収、急げ!!」


マークは叫んだ。


海中では、エウリューラがゆっくりと海の底へ沈んでいく。


『ミラ!!』

『起きろ!!ミラ!!』


格納庫から、エミリーとユインが必死に呼びかける。


『お願い、ミラ!!目を覚まして!!』


ソフィーも涙を流しながら叫んでいた。


しかし、ミラは依然として意識を失ったまま、呼びかけに反応する様子はない。


やがて、イギリス本部から1機の小型エレファイターが発進した。


OPAオパ」——オルフェが開発した小型エレファイターであり、偵察、哨戒、情報収集、さらには機体や人員の回収など、多岐にわたる任務に対応する。


OPAは、オーキュラムから送られてくるエウリューラの正確な位置情報をもとに、現場へ急行した。


(間に合ってくれ……!)


マークはモニターを見つめる。



現場へ到着したOPAは、海面すれすれでホバリングする。


そして、機体下部から、アンカービームを照射、光が海中へ伸びていく。


その先には、今もなお沈み続けるエウリューラの姿。


アンカービームはエウリューラを捉えた。


そのままビームを収縮させ、機体を一気に引き上げていく。


やがて——


大量の海水を滴らせながら、エウリューラが海面へ姿を現した。


「回収成功です!」


オペレーターの声が司令室に響く。


「……よし!」


マークは大きく息を吐いた。


OPAは、本部へ帰還していった。


司令室にいた誰もが、ようやく安堵の表情を浮かべる。


一方、格納庫では——


「よしっ!」


ユインが拳を握る。


「やった!」


エミリーも笑顔を浮かべた。


「良かったぁ……」


ソフィーは涙を拭いながら、胸を撫で下ろしていた。


そして——


「……スヤスヤ」


アリシアは、相変わらず寝ていた。

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