第2話「新型」
天華天明・仮設本部。
その一室には、代表であるフェンの姿があった。
そこへ、側近の1人が入ってくる。
フェンは静かに視線を向けた。
「フェン様、準備は万全です」
その報告を聞き、フェンはゆっくりと立ち上がる。
「うむ……」
そして、わずかに目を細めた。
「“新型”の性能——」
「とくと見せてもらおう……」
フェンは静かに言った。
◆
オルフェ研究機関・イギリス本部。
突如、施設内にけたたましい警報が鳴り響いた。
『敵襲です!敵勢力は——天華です!!』
オーキュラムが捉えた反応を確認したオペレーターの声が、司令室に響き渡る。
「天華天明……!」
本部長のマークは、険しい表情を浮かべた。
(ついに来たな……!)
マークは足早に司令室へ向かう。
その間にも、施設内では次々と防衛態勢が整えられていた。
『防衛部隊、戦闘配置完了!』
『Pジャマー、展開!』
『各区画、隔壁閉鎖!』
慌ただしく職員たちが動く中、マークが司令室へ到着する。
「マーク本部長!」
オペレーターの1人が振り向いた。
「トルーパーはどうしますか?」
現在、イギリス本部には1人のファクターと、4人の訓練生が滞在している。
しかし、4人の訓練生には実戦経験がない。
マークは迷うことなく指示を出した。
「訓練生はトルーパー内で待機させろ」
「了解!」
オペレーターはすぐに指示を伝える。
もっとも、それは訓練生を戦わせるためではない。
万が一、本部の防衛線が突破された場合——
すぐに彼らを脱出させるためだった。
オルフェ研究機関にとって、最優先すべきはエーテルコードの保護。
その原則は、どのような状況でも変わらない。
そして、有事の際には施設内に留まるより、いつでも移動できるトルーパーの中にいた方が安全だった。
◆
「ミラ、準備はできてるか?」
マークは通信を繋いだ。
『はい!いつでもいけます!』
ミラ・ヴェネット——
現在、イギリス本部に所属する唯一のエーテルファクター。
属性は“風”。
そして今、彼女は自身のED“エウリューラ”のコクピットにいた。
「よし。発進準備!」
マークの指示とともに、エウリューラの発進シークエンスが開始される。
「ミラ」
マークは改めて呼びかけた。
『はい』
「分かっていると思うが——」
「自分の身を最優先に守るんだ。いいな?」
ミラは一瞬だけ沈黙した。
『……了解』
マークは小さく頷く。
「よし、発進!!」
エウリューラが発進態勢に入る。
『エウリューラ!出ます!』
次の瞬間——
エウリューラは勢いよく飛び出し、風を切りながら、一気に大空へと舞い上がった。
◆
天華のキャリアから、次々と機体が発進していく。
新型レギオン——“レギオンⅡ”。
複数のレギオンⅡがDキャリアーに乗り込み、次々と戦場へ向かっていく。
その光景を、キャリア内部から眺めている男がいた。
「よし、そろそろ俺も出るか」
γクラス強化兵——ゴズマン。
今回、彼が出撃する目的の一つは、レギオンⅡの実戦データを収集することだった。
レギオンⅡは、それまでのレギオンシリーズとは大きく異なる。
最大の違いは、完全無人機であること。
これまで蓄積されてきたレギオンシリーズの膨大な戦闘データをもとに開発され、搭乗する強化兵を必要としない。
それは、最高司令官であるフェンの意向でもあった。
強化兵の育成や維持に必要となる、莫大な人的・金銭的コスト。
それらを削減し、より効率的な軍事体制へ移行する。
レギオンⅡは、その新たな方針を象徴する機体でもあった。
(やれやれ……つまらん仕事だ)
ゴズマンは内心でぼやきながら、自身のレギオンγに乗り込んだ。
「——“鳥”の準備はできてるか?」
『もう少しで完了します』
オペレーターから返答が入る。
「準備でき次第、発進させろ」
『了解』
通信が切れる。
ゴズマンのレギオンγはDフライヤーに乗り、出撃準備に入った。
ふと、ゴズマンはキャリア内部の一角へ視線を向ける。
そこには、ある機体があった。
(せいぜい役に立てよ?)
ゴズマンはニヤリと笑う。
(——“小鳥ちゃん”よォ)
◆
「新型ですね」
モニターを確認しながら、オペレーターが言った。
画面には、Dフライヤーに乗って接近してくる複数の機体が映し出されている。
「新たなレギオンか……」
マークは険しい表情で呟いた。
「エウリューラ、新型との接触まで、約2分!」
オペレーターの声が司令室に響く。
ミラのエウリューラは、上空を飛行していた。
エウリューラは、空中戦に特化したEDである。
同じ空中特化型である音のツムギと分類上は同じだが、その外見は大きく異なる。
白を基調とした細身の機体。
そして、全体のバランスから見ても長い両腕。
独特なシルエットを持っていた。
『敵機、捕捉!』
ミラは正面から迫るレギオンⅡの部隊を捉える。
『迎撃します!』
エウリューラが両腕を前へ突き出した。
指先に内蔵された兵装——“フィンガーファランクス”。
小型の砲身から無数のエーテル弾がマシンガンのように連射された。
迫る弾幕に、Dフライヤーに乗ったレギオンⅡたちは即座に散開する。
次々とエーテル弾をかわしていくが、1機が避けきれなかった。
エーテル弾が機体へ立て続けに直撃する。
Dフライヤーもろとも制御を失ったレギオンⅡは、そのまま真っ逆さまに墜落していった。
その下に広がるのは海。
レギオンⅡは激しい水しぶきを上げ、海面へ叩きつけられた。
その様子を、部隊後方からゴズマンが眺めていた。
(おっとォ~……)
(あんまりソイツら壊されたら困るんだよなァ)
今回、レギオンⅡに与えられている目標はエウリューラではない。
狙いは、イギリス本部のSD部隊。
レギオンⅡの性能を実戦で測るには、そちらの方が都合がいい。
(そろそろ来いよ……)
(小鳥ちゃんよォ……)
その瞬間——
後方から、凄まじい速度で接近する機影をレーダーが捉えた。
「やっと来やがったか……」
遥か後方から、“何か”が猛烈な速度で戦場へ迫っていた。
◆
「これは……こいつも新型!?」
凄まじい速度で接近してくる機影を見て、オペレーターが声を上げた。
「この反応……!」
「レギオンΩに近い……!?」
別のオペレーターがモニターを凝視する。
「レギオンΩだと……!?」
マークの表情が険しくなる。
マーク自身、レギオンΩを直接目にしたことはない。
見たことがあるのは、記録映像やデータだけ。
しかし、その脅威については、嫌というほど聞かされていた。
天華連盟が誇った最高戦力。
Ωクラス強化兵によって構成された、Ωチーム。
だが、トーマスからの報告によれば、Ωチームはすでに解散している。
その後、Ωチームの1人は、ファイとの戦闘に敗れて死亡。
そして、もう1人は現在、日本支部の防衛隊として正式に所属している。
(新しいΩクラスを造ったのか……?)
(それとも——)
マークの脳裏に、ある人物が浮かんだ。
Ωチームには、もう1人いる。
その消息は、未だ完全には掴めていない。
麗鳥——サキ。
(もし、そうだとしたら……!!)
マークの額に、冷たい汗が滲んだ。
モニター上の機影は、なおも凄まじい速度でエウリューラへと接近していた。
◆
エウリューラのモニターにも、超高速で接近する機影が映し出されていた。
(このスピード……!新手ね!?)
ミラは即座に標的を切り替える。
「あれは……?」
モニターに映し出されたのは、こちらへ単独で飛行してくる“紫色”の機体だった。
その姿に、ミラは見覚えがあった。
かつて、日本支部のファクターズと戦っていたレギオンΩの戦闘データ。
その中に、よく似た紫色の機体が存在していた。
しかし——
(違う……?)
ミラの記憶にあるレギオンΩは、ブロックスのような重厚な外見をしていた。
だが、今こちらへ迫っている機体は明らかに違う。
全体的に細身で、鋭いシルエット。
さらに背部には、大きなウイングまで備わっている。
同じ紫色。
そして、レギオンΩを思わせる反応。
それでも、外見はまるで別物だった。
(似てるだけ……?)
一瞬、そんな考えが頭をよぎる。
だが——
(いや、今はそんなことどうでもいい!!)
敵であることに変わりはない。
ミラは思考を切り替えた。
エウリューラの両腕を前方へ向ける。
照準が紫色の機体を追う。
ミラは、迫り来る機体へ狙いを定めた。




