「烈の修行」
閃がエジプトにいる頃。
烈と怜は、トレーニングルームにいた。
「怜、頼む」
烈が静かに言う。
怜は小さく頷くと、《アイスフィールド》を発動する。
トレーニングルームの空気が一気に冷え込む。
床には薄く氷が広がり、周囲の温度は急激に低下した。
続いて、怜は複数の《氷弾》を生み出す。
「今日はどれくらいにする?」
怜が尋ねる。
「“レベル5”で頼む」
烈は迷いなく答えた。
「分かった」
怜は小さく頷く。
《氷弾》は烈を取り囲むように配置される。
そして、一斉に高速で動き始めた。
烈は静かに目を閉じる。
視覚を完全に捨て、意識を極限まで研ぎ澄ませる。
《氷弾》は烈の周囲を高速で旋回し、不規則な軌道を描く。
次の瞬間、1つの《氷弾》が、烈の死角から一気に襲いかかった。
だが、烈は微動だにしない。
《氷弾》は一瞬で蒸発した。
さらに前方、側面、斜め後方。
変則的なタイミングで次々と襲い掛かる。
それでも烈は目を閉じたまま、一切迷うことなく迎撃していく。
やがて最後の《氷弾》も蒸発、トレーニングルームに静寂が戻った。
烈はゆっくりと目を開く。
「終わったか?」
怜は小さく微笑みながら頷いた。
◆
「レベル5は、もう余裕じゃない?」
怜は言った。
「そうだな」
烈は静かに頷く。
烈が今行っているのは、単なる反射神経を鍛える訓練ではない。
エーテルそのもののコントロールの精度を高めるための訓練だった。
通常、エーテルスキルは、ファクターの体内にあるエーテルを属性へ変換し、具現化・放出する。
つまり、体内エーテル → 属性変換 → エーテルスキルという流れになる。
そして、一度体外へ放出された属性エーテルは、周囲の環境の影響を受ける。
それは自然界の炎や氷などと同じだった。
烈の炎属性で例えるなら、水中や真空空間のように、本来なら炎が存在できない環境では、スキル自体は発動できても威力や精度が大きく低下してしまう。
烈は、以前のフレアⅢでの戦いを思い返していた。
(もし、あの時……いつもどおりスキルを扱えていたら……)
もちろん、レンゴクには高火力兵装であるビーストキャノンが搭載されている。
だが、烈が求めているのはそれではなかった。
あの時のように、仲間全員が追い詰められた状況。
そんな極限状態でこそ、自分自身の力でビーストキャノンを超える威力のスキルを放てるようになりたい。
その想いが、烈をさらに鍛錬へと駆り立てていた。
◆
烈は、ある仮説へたどり着く。
(属性に変換する前のエーテルを、そのまま広げられたら……)
通常、ファクターが扱うのは、属性へ変換された後のエーテルだ。
だが、その前段階——
体内を巡る純粋なエーテルそのものを操作できれば、属性エーテルが環境の影響を受ける前に対象を捉えられるかもしれない。
理論上は可能。
しかし、誰も試したことはない。
誰もが、属性へ変換した後のエーテルだけを操作してきた。
体内エーテルを直接扱うという発想そのものが存在しなかった。
烈は、その考えを怜へ相談した。
怜も興味を示し、訓練へ協力することになる。
まず最初は、静止した《氷弾》を目視しながら、エーテルだけを飛ばして捉える訓練。
次に、その飛ばしたエーテルを炎へ変換する。
さらに、今度は動いている《氷弾》をエーテルで捉える。
そして、そのエーテルを炎へ変換し、《氷弾》を消滅させる。
最後は、それらすべてを、目を閉じた状態で行う。
段階を踏みながら、少しずつ難易度を上げていった。
もちろん、最初から上手くいくはずもない。
烈は何度も失敗し、そのたびに怜の《氷弾》が容赦なく命中した。
「いてっ!」
「また外した」
怜は淡々と次の《氷弾》を作り出す。
烈は苦笑しながらも立ち上がる。
怜もまた、烈の頑丈さを理解している。
それは、2人の間にある信頼の証でもあった。
◆
そして、現在。
烈は、エーテルのコントロールをかなり掴み始めていた。
まだ完全ではない。
それでも、以前とは比べものにならないほど精度は向上している。
もっとも、この訓練には大きな欠点があった。
体内エーテルを直接制御する行為は、通常のスキル発動よりも遥かに神経を消耗する。
短時間の訓練だけでも、烈はすぐに疲労してしまうのだ。
だが、その弱点を補えるだけの回復力を、烈は持っていた。
少し休めば再び訓練を続けられる。
その身体能力もまた、烈の強みだった。
烈は腕を組みながら、小さく呟く。
「あとは……」
「エーテルで捉えた瞬間に、一気に火力を最大まで引き上げられれば」
「一応、形にはなる」
その言葉を聞いた怜は静かに頷く。
まだ理論段階だが、烈の頭の中には新たなスキルの姿が、少しずつ形になり始めていた。




