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エーテルコード:ヴァリアスワールド  作者: エトコッコ
エピソードEX.2

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「星痕教団②」


トーマスからの報告を聞き終えた4人は、司令室を後にした。


廊下を歩き始める。


その時、怜が静かに音へ声をかけた。


「……音、大丈夫?」


音の表情はどこか曇っていた。


「……うん、大丈夫!」


音は笑顔を作って答える。


閃も烈も、心配そうに音を見つめる。


「……何かあったら、遠慮しないで言ってね」


怜は優しく言った。


「……ありがと、怜」


音は小さく頷いた。


しばらく沈黙が流れる。


やがて、音は意を決したように顔を上げた。


「……ねぇ、みんな」


その声に、3人は足を止める。


「ちょっと……話したいことがあるの……」


音は少し俯きながら言った。


「いいよ」


閃はすぐに笑顔で答えた。


怜も頷く。


「俺たち、まだ時間あるしな」


烈も静かに微笑む。


1時間後には、怜と烈はパトロールへ向かわなければならない。


それでも、今は音の話を聞くことを優先した。



4人は談話室へ移動した。


ソファへ腰を下ろすと、音は静かに息を整える。


そして、ゆっくりと口を開いた。


「あのね……今から話すことは……」


「いつか、みんなに話そうってずっと思ってたの」


「でも、なかなかタイミングがなくて……」


「隠してたわけでも……秘密にしたかったわけでもないの」


そう言って、小さく笑った。


「……わたしの、昔のこと……」


閃たちは何も言わず、音の言葉を待っていた。



音の母親は、17歳という若さで音を身ごもった。


父は、音が生まれる前に、母親の元を去った。


つまり、母子家庭だった。


しかし、母親にとって、音の存在は邪魔だった。


音は、望まれない子だった。


母親は、典型的なネグレクトだった。


また、精神病も抱えており、定期的に暴れては、そのたびに病院に入院していた。


その間、音は市が運営してる託児所に預けられており、彼女にとって、それが当たり前の日常だった。



音が5歳の頃のことだった。


ある日、託児所の職員が母親に迎えの連絡を入れた。


しかし、何度電話をかけても繋がらない。


不審に思った職員は、関係機関へ連絡を取った。


音の母親は、自宅マンションの浴室で亡くなっていた。


死因は——自殺。


その事実を音が知るのは、ずっと後になってからのことだった。


当時の音は、母親の死を知っても、不思議と涙は流れなかったという。


その後、音を引き取ることになったのは、祖母だった。


しかし、母親と祖母は絶縁状態。


身寄りを失った音の引き取り先を探す中で、行政が祖母に連絡を取った。


その時の返事は、拒否だった。


しかし、音がエーテルコードと知った途端、急に引き取られることになった。


まるで手のひらを返すような態度だったという。


ここまでの経緯は、すでに閃たちも知っている話だった。



「でね……ここからなんだけど……」


音は小さく息を吸い、続きを話し始めた。


ここから先の話は、3人も初めて聞く内容だった。


「おばあちゃん……」


音は少し俯く。


「シア教なの……」


その一言に、3人の表情が一瞬で固まった。


部屋の空気が張り詰める。


最初に口を開いたのは怜だった。


「……だから、急に音を引き取ることにしたのね?」


静かな声だった。


「うん……」


音は小さく頷く。


やがて烈が腕を組み、不思議そうに口を開いた。


「……でもよ」


「シア教なら、音のこと大事にするんじゃねぇのか?」


シア教は、エーテルコード保持者を神聖な存在として崇める宗教。


腑に落ちなかった。


音はゆっくりと顔を上げる。


「……うん」


その表情には、どこか諦めにも似た寂しさが浮かんでいた。


そして音は、静かに続きを語り始めた。



音の祖母は、シア教の熱心な信者だった。


教団内での星位は「星導師」。


教義を深く修め、信者の指導や布教活動を担う聖職者である。


この星位になると、星痕を背中へ刻むことが許される。


もちろん、祖母の背中にも星痕は刻まれていた。


しかし——


祖母は、身内にエーテルコードがいると知った瞬間、信仰よりも欲に支配されてしまった。


音を利用し、他の信者から「お布施」と称して金銭を集めるようになったのだ。


信者や外部の人間の前では、音を大切に育てている保護者を演じる。


だが、家で2人きりになると態度は一変した。


音に向けられるのは、冷たい言葉と視線だけだった。


音は幼い頃から、不思議な絵を描くことが多かった。


だが祖母は、それを気味が悪いと目の前でぐしゃぐしゃに丸め、そのまま捨ててしまう。


また、シア教の集会へ行きたくないと口にした時には、容赦なく頬を叩かれた。


さらに、集会へ出る時以外、音はほとんど祖母の家から外へ出ることを許されなかった。


事実上の監禁状態。


そんなある日、音は突然、エーテルファクターへと覚醒した。


すべてのファクターは覚醒した瞬間、「一時的属性現象」と呼ばれる反応を起こす。


性質変換されたエーテルが制御できず、身体から勝手に溢れ出てしまう、一種の暴走状態だ。


閃も、烈も、怜も、覚醒した際には同じ現象を経験している。


音の場合は、全身から猛烈な風が吹き荒れた。


突風は家中を駆け巡り、家具や調度品を次々となぎ倒していく。


祖母もその風に吹き飛ばされ、壁へ叩きつけられ、頭部を強く打ち、血を流していた。



「や、やっぱり……」


「バケモノだわ……!!」


「誰か……!!助けてぇぇぇっ!!」


取り乱した祖母は、ヒステリックに叫びながら警察に通報する。


しかし、祖母の通報よりも早く、オルフェのオーキュラムが異常なエーテル反応を検知していた。


すでに警察にも緊急連絡が入っており、まもなく現場へ到着する。


重装備の警察官や、オルフェの職員たちが、次々と家へ駆け込んでくる。


「は、早くっ!!」


祖母は涙を流しながら叫んだ。


「そのバケモノを、連れて行って!!」


音は何が起きているのか分からないまま、その場に立ち尽くしていた。


やがて、オルフェの職員は怯える音へ優しく声をかける。


「もう大丈夫だから」


その言葉に導かれるように、祖母の家を後にした。


その後——


祖母は「音を引き取ることはできない」と正式に申し出る。


こうして音は、正式にオルフェへ保護されることになった。



音は静かに話し終えた。


談話室には、しばらく誰も言葉を発しない時間が流れる。


3人の表情は、どこか苦しげだった。


「聞いてくれて、ありがとう」


音は少し照れたように笑う。


「なんだか……やっとスッキリした」


その笑顔は穏やかだった。


「音……」


怜はそっと音の手を包み込む。


「辛かったね……」


閃は小さく頷く。


その一言に、音は少し目を潤ませた。


烈は腕を組んだまま俯く。


(……なんつー家庭だよ)


胸の奥から怒りが込み上げる。


だが、その感情を口にはしなかった。


今、音が欲しいのは怒りではなく、受け止めてもらうことだと分かっていたからだ。


音はゆっくりと息を吐く。


「たしかに、あの頃は辛かった……」


少しだけ遠くを見るような目をする。


「だけど」


そして、3人を見渡しながら微笑んだ。


「そのおかげで、ココに来られて——」


「みんなに出会えたから」


「俺たちも、音に会えて良かった」


閃は優しく笑う。


「うん」


怜も静かに頷く。


「そうだな」


烈は笑った。


その言葉に、音は嬉しそうに笑う。


4人は互いの顔を見合わせ、静かに頷き合った。


これまで歩んできた道は、それぞれ違う。


それでも今、こうして同じ場所で笑い合えることが、何より大切だった。

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