「星痕教団①」
司令室。
ファクターズは、トーマスに呼び出されていた。
「おはよう、諸君」
トーマスは穏やかに声をかける。
「おはようございます」
4人は揃って返事をした。
「朝早くに集まってもらってすまないね」
「いえ」
閃が代表して答える。
トーマスは軽く頷くと、表情を引き締めた。
「では、早速本題に入ろう」
「今回、君たちを呼んだ理由は2つある」
「まず1つ——ラ・オーマの正体が判明した」
「ラ・オーマの……」
閃の表情が険しくなる。
ラ・オーマについては、ソランティスで起きた出来事として、すでに他の3人も話を聞いていた。
「これを」
トーマスは1台のタブレットを閃へ手渡す。
閃は画面に目を落とした。
そこに記されていたのは、ラ・オーマの素性だった。
本名はクー・ロン・フー。
50代の天華系インド人男性。
彼にはもう1つの顔があった。
宗教団体「星痕教団」の信者だった。
星痕教団とは——
フランス人女性、シア・ベルガレットによって設立された新興宗教である。
エーテル、そしてエーテルコードを神聖な存在として崇拝し、世界各地に多くの信者を抱えていた。
いわゆる「エーテル教」と総称されるエーテル関連宗教の一派であり、その中でも最大級の勢力を持つ教団として知られている。
教団内部には、「星位」と呼ばれる独自の階級制度が存在する。
信者は、その星位に応じて「星痕」と呼ばれる特別な紋様を背中へ刻むことが許されていた。
ラ・オーマの背中にも、その星痕は刻まれていた。
彼の星位は「星聖」——教団における最高幹部の1人だった。
◆
「……“シア教”」
閃は小さく呟いた。
星痕教団は、通称「シア教」と呼ばれている。
その名前を聞いた瞬間、烈と怜の表情も険しくなる。
シア教は、信者数も多く、その存在自体は決して珍しいものではない。
一方で、古くから攻撃的な宗教団体としても知られている。
他の宗派や、オルフェのようなエーテル研究機関を「邪教」と決めつけ、一方的に敵視している。
さらに、強引な勧誘活動でも悪名高い。
特に、エーテルコードやその家族の個人情報を違法に入手したうえで強引な勧誘を行う事件は、長年にわたり深刻な社会問題となっていた。
もっとも、それらは教団全体ではなく、一部の過激派信者による犯行とされている。
それでも世間では、「シア教は危険な宗教」という印象が根強く残っていた。
そして、その印象は閃たちも例外ではない。
オルフェへ来る以前から、3人はシア教の強引な勧誘を何度も目にしてきた。
たんぽぽ荘では、美晴や結菜が何度も勧誘を断っていた。
そうした光景を、閃や烈は何度も見てきた。
怜も、母親を亡くした後に身を寄せていた叔母のアパートで、しつこい勧誘に悩まされていた姿を今でも覚えている。
さらに怜は、過激派信者から執拗につきまとわれたことさえある。
そのたびに叔母が前へ立ち、必死に怜を守ってくれていた。
3人にとって、シア教に良い印象はまったくなかった。
◆
「もう1つは——閃くんが戦った、あの魔獣について」
「解析には、しばらく時間がかかりそうだが……」
「現時点で判明していることがいくつかある」
「まず、あれはほぼ間違いなく人工的に生み出された存在だ」
「つまり——“人造魔獣”だ」
その言葉に、4人は息を呑んだ。
トーマスは続ける。
「ギシャ王子の私室にあった金庫から、“D-セラム”と記された注射器が発見された」
「全部で5本。そのうち2本は使用済みだった」
1つはA拠点で戦った個体。
そして、もう1つは王宮内で戦った個体。
閃の報告内容とも完全に一致している。
閃は顔をこわばらせる。
「……残り3本、残ってたんですか?」
「そのとおりだ」
トーマスは頷いた。
「残る3本は、すべて回収済み」
「現在、厳重な管理下で解析を進めている」
閃は静かに息を吐いた。
背筋に冷たいものが走る。
「……もし、あの時」
「残り全部使われていたら……」
「全員やられていました——間違いなく」
「閃……」
烈が低く呟いた。
ラ・オーマですら、DA-01を1体操るだけで相当な負荷を受けていた。
だが、もし複数体が同時に投入されていたなら——
生身の閃では、とても止め切れなかっただろう。
その時、怜が静かに口を開く。
「……出処は?」
「まだ不明だ」
トーマスは首を横に振る。
「D-セラムが、どのような経路でギシャ王子の手に渡ったのかも含めて、現在調査中だ」
烈は腕を組み、険しい表情を浮かべる。
「……何となく、アイツらの匂いがするぜ」
その”アイツら”が誰を指すのか、この場にいる全員が理解していた。
イシュタール財団。
閃もまた、エジプトで同じことを考えていた。
「……もちろん、現段階では断定はできない」
トーマスは慎重に前置きした。
そして静かに続ける。
「だが……」
「僕も、同じ可能性を考えている」




