「答え合わせ」
EDエリアでは、黒須と能勢がバサラヲを見上げていた。
「バサラヲ……よく持ちましたね」
能勢は感心したように呟く。
閃の報告によれば、エジプトにいた約2週間、バサラヲは一度も本格的な整備を受けていない。
EDは特殊な構造を持つため、専用設備がなければ整備できない。
バサラヲをソランティスへ輸送した際、ワーカータイプのオラクルドローンを2機同行させていた。
しかし、B拠点襲撃の際に撤退を優先したため、ドローンは現地へ置き去りとなっていた。
その間も、バサラヲは砂漠地帯を何度も横断し、激しい戦闘を繰り返している。
現地では閃が最低限の点検だけは行っていたらしいが、特に異常は見つからなかったという。
「まぁ……並のメカとは比べものにならねぇくらい頑丈に作られてるけどよぉ」
黒須は腕を組みながら機体を見上げる。
「閃くん、“バサラヲがあって、本当に良かった”って言ってましたよ」
能勢は笑みを浮かべた。
戦闘はもちろん、砂漠を横断するための高い機動力。
灼熱や砂嵐から身を守るコクピット。
そして、ユーティリティスペースに収納された非常食やサバイバルキット。
SDは兵器ではあるが、単に戦闘を行うためだけの兵器ではない。
あらゆる環境で搭乗者の生存を支える、多目的機動兵器として設計されている。
その思想は、EDにも受け継がれていた。
「そりゃあ良かった」
黒須は満足そうに口角を上げた。
「あ、そういえば——」
能勢は思い出したように顔を上げた。
「閃くん、“ユーティリティスペースの備品は最優先で補充しといてください!”って、ものすごい勢いで頼んできました」
黒須は一瞬きょとんとした。
◆
閃と烈は、街のパトロールをしていた。
「なぁ、烈」
「ん?」
「“サコミズ流”って何だっけ?」
“どこの流派だ?サコミズ流というやつか?”——
ガラガとの戦いで言われた一言が、ずっと頭の片隅に引っ掛かっていた。
「佐古水流って、アレだろ?」
「グンジンが習ってるやつ」
「……あ゛ー!!」
閃は突然、大声を上げた。
「き、急に大声出すなよ……」
烈は肩をびくりと震わせる。
「そうだよ!グンジンから聞いたんだった!思い出した!!」
かつて東から聞いた話が、一気によみがえる。
佐古水流剣術——日本古来より受け継がれてきた伝統ある剣術流派の一つ。
東が心から尊敬している榊は、その佐古水流の師範でもある。
そして、その剣技は、榊の乗機であるザンテツ・天にも反映されている。
東自身も佐古水流を学んでおり、以前その話を熱心に語ってくれたことがあった。
「いやぁ~、スッキリした」
「ガマンしてたオシッコ出した時くらい」
満面の笑みでそう言う閃。
「他に例えねぇのかよ」
烈は即座にツッコミを入れた。
◆
オルフェ研究機関・アメリカ第2支部。
ここは、G.H.O.S.T.の拠点でもある。
別任務を終えたロックとナオミは、支部へ戻ってきていた。
「ロック様、ナオミ様」
「伝言ヲ承ッテオリマス」
UBが2人へ声を掛ける。
「誰からだ?」
ロックは葉巻を取り出し、口へ運ぼうとした。
その瞬間、ナオミが素早く葉巻を取り上げた。
「禁煙エリア」
「……あれ?ここダメだったか?」
ロックは首を傾げる。
「ルールが変わった」
ナオミは短く答えた。
「オフタリガ、エジプトニ滞在サレテイル間ニ変更サレマシタ」
UBが補足する。
「なんだ、そうだったのか……」
ロックは葉巻を受け取り、ケースへしまった。
「で……何の話だったっけ?」
「伝言」
ナオミが即答する。
「そうだった。誰からだ?」
「オルフェ研究機関・日本支部所属、上矢 閃様カラデス」
「おぉー!アイツか!」
ロックの表情がぱっと明るくなった。
「伝言ヲ再生シマス」
UBが音声データを再生した。
『ロックさん、ナオミさん。危ないところを助けてくれて、本当にありがとうございました!』
『おかげで、もうすっかり元気になりました!』
『いつか直接お会いして、お礼を言いたいです!』
『では、また!』
「——以上デス」
伝言が終わる。
聞こえてきた声は、エジプトで瀕死だった人物とは思えないほど元気そのものだった。
ロックとナオミは顔を見合わせ、小さく安堵の表情を浮かべる。
「律儀なやつだな」
ロックはニヤリと笑った。
ナオミも小さく口角を上げ、静かに頷く。
「……なぁ」
「俺からも伝言、頼めるか?」
ロックはUBへ視線を向けた。
「ハイ、ドウゾ」
「“困ったことがあったら、いつでも言え”——そう伝えてくれ」
「承知シマシタ」
ロックは、まだ閃と直接会ったことはない。
それでも、彼のことを気に入っていた。
自分の身を顧みず、誰かを救うために全力を尽くせる人間。
そんな人間を、ロックは心から信頼している。
彼はすでに、閃を1人の仲間として認めていた。
◆
閃と光井は、少し遅めの昼食を取っていた。
「なぁ、ミチ……」
閃が真面目な表情で口を開く。
「ん?」
光井はエビピラフを頬張りながら顔を上げた。
「ユーティリティスペースの非常食」
「つまみ食いした後——」
「絶対、補充忘れんなよ」
「……?お、おぅ」
あまりにも深刻な口調だったため、光井は思わず頷いてしまう。
(……エジプトで何かあったんだな)
そう察した光井は、それ以上は聞かないことにした。




