第25話「仲間」
朝6時。
閃は、音が運んできてくれた朝食を食べ終えると、もう一度立ち上がってみた。
音に肩を支えてもらいながらではあるが、今度は何とか立つことができた。
「よし」
閃は小さく頷く。
「行けそう?」
音は心配そうに支えながら言った。
「うん」
2人はゆっくりと歩き始める。
目指すのはシャワー室だった。
その時——
「閃じゃない!」
後ろから声が響いた。
振り返ると、クレアが立っていた。
「おはよー」
「おはよ!クレアちゃん!」
閃と音が笑顔で挨拶を返す。
「おはよう——って、それより!」
クレアは慌てて閃のもとへ駆け寄った。
「もう大丈夫なの!?」
「見ての通り!もうピンッピン!」
閃は親指を立てた。
「……全然そうは見えないんだけど」
クレアは呆れたようにため息をついた。
全身に包帯を巻き、音に肩を借りて歩いている姿では、どう見てもピンッピンではない。
「それに、音だって昨日からずっと看病してたんでしょ?」
クレアは音へ視線を向ける。
「大丈夫?代わろうか?」
「ありがとう、クレアちゃん」
「でも、大丈夫だよ」
音は優しく微笑んだ。
その笑顔を見て、クレアも少し安心したように息をつく。
「そう……でも、何かあったらすぐ言いなさいよ?」
「うぃ」
閃は頷くと、再びゆっくりと歩き出す。
クレアは、その後ろ姿を少し心配そうに見送り続けていた。
◆
「スッキリしたー!」
シャワーを浴び終えた閃は、大きく伸びをした。
「ありがと、音」
音が用意してくれた病衣に袖を通し、さっぱりした表情を浮かべる。
「ううん!」
音は嬉しそうに首を横へ振った。
「司令室に連絡入れてみようかな」
閃は近くのソファへ腰を下ろしながら言う。
「閃くん!?」
その時、廊下の向こうから松永がやって来た。
どうやら、クレアから閃が目を覚ましたことを聞いたらしい。
「あ、主任!ちょうど良かった!」
閃が立ち上がろうとすると、松永はそのまま閃を優しく抱きしめた。
「本当に……」
「本当に良かった……」
その声には、心からの安堵が滲んでいた。
「主任、大げさですよぉ」
閃は照れ笑いを浮かべる。
「うふふ」
松永もようやく笑顔を見せた。
そして音へ向き直る。
「音ちゃんも、本当にありがとうね」
「いえいえ!」
音も笑顔で答えた。
松永は改めて閃の顔を見る。
「本当に、もう大丈夫なの?」
「はい!」
閃は力強く頷く。
「それより——」
表情が少し真剣になる。
「その後の状況を、早く知りたくて……」
「……そうよね」
松永は静かに頷いた。
「分かったわ」
「もうすぐ総帥も来るはずだから、司令室で待ってる?」
「はい。そうします」
閃は迷いなく答えた。
すると音が遠慮がちに口を開く。
「わたしは、戻った方がいいですか?」
「音ちゃんも一緒に来てくれる?」
「怜と烈くんにも声をかけるから」
松永は優しく微笑んだ。
「はいっ!」
音は嬉しそうに頷いた。
◆
閃と音が司令室へ入ると、そこにはカリンがいた。
「閃、おかえりなさい」
カリンは優しく微笑んだ。
「カリンさん、ただいま!」
閃も笑顔で返す。
そのやり取りの直後、司令室のドアが開いた。
入ってきたのは、烈と怜だった。
「よぉ!閃!!」
烈は満面の笑みを浮かべ、一直線に駆け寄ってくる。
「烈!怜!」
2人の顔を見た瞬間、閃の表情も自然とほころんだ。
やはり、このいつもの顔ぶれを見ると、心から安心できる。
「おかえり」
怜は口元を少し緩め、静かに言った。
「ただいま!」
閃は嬉しそうに頷く。
その場にいた全員が、閃の無事な姿を見て安堵していた。
そして——
再び司令室の扉が開く。
トーマスが姿を現した。
「閃くん……」
「本当によくやってくれた」
穏やかな笑みを浮かべながら、ゆっくりと閃の前まで歩いてくる。
「何より、生きて戻ってきてくれた」
そう言って、閃へ手を差し出した。
閃もその手をしっかりと握り返す。
「僕だけでは、何もできませんでした」
閃は静かに首を横へ振った。
「現地の皆さんの協力があって……」
「エージェントがいてくれたから……」
「僕は——生きて帰ってくることができました」
その言葉を聞き、トーマスは静かに頷く。
その表情には、閃の成長を誇りに思う気持ちと、無事に帰還したことへの安堵が浮かんでいた。
◆
トーマスは席に着くと、一同を見渡して静かに口を開いた。
「それでは、現時点で判明しているソランティス王国の状況を報告する」
「まず——戦いは、エレシャ王女の勝利で終わった」
その一言に、閃は静かに息を吐いた。
心のどこかで信じてはいた。
それでも、実際にその報告を聞き、ようやく胸のつかえが下りる。
さらにトーマスは続ける。
「もちろん、エレシャ王女も無事だ」
「さらに、親衛隊やエレシャ派の全員の生存も確認している」
「そうですか……良かった……」
閃のその声には、心からの安堵が滲んでいた。
トーマスも穏やかな表情を浮かべる。
「向こうも、閃くんの容態を非常に心配していたよ」
その言葉を聞いた閃は、少し考えてから口を開く。
「もし可能なら……僕から直接、連絡してもいいですか?」
「もちろんだ」
トーマスは笑顔で頷く。
「ソランティスの皆さんも、きっと喜ぶはずだよ」
閃も安心したように微笑んだ。
そしてトーマスは、もう一つの報告を続ける。
「なお、エレシャ王女の正式な王位継承式は、およそ1ヶ月後に執り行われる予定だ」
閃は静かに頷く。
脳裏には、エレシャの姿が浮かんでいた。
(エレシャなら、大丈夫だ)
そう心の中で呟く。
現時点で判明している情報は、そこまでだった。
◆
4人は一度、司令室を後にした。
閃は相変わらず、音に肩を借りながら歩いている。
「音、代わるぜ?」
烈が声をかけた。
「ありがとう、烈くん!」
音は笑顔で頷き、閃を烈へ預ける。
すると、烈は閃をひょいと軽々持ち上げ、そのまま肩へ担いだ。
「ちょっ!何でだよ!」
閃はジタバタともがきながら、大笑いしていた。
「まぁまぁ、いーじゃねーか」
烈は悪戯っぽく笑い、閃の尻をパンパンと叩いた。
その様子を見て、怜と音も思わず笑みをこぼす。
「それで——もう、大丈夫なの?」
怜が静かに口を開いた。
「うん!」
烈に担がれたまま、閃は笑顔で答えた。
「音のおかげで、かなり楽になった!」
「そう」
怜は小さく頷くと、今度は音へ視線を向けた。
「音も、お疲れ様」
「ヘヘン(⸝⸝¯ᵕ¯⸝⸝)!」
音は少し誇らしげな表情を浮かべる。
その頭を、怜は優しく撫でた。
「はふぅ……」
音は気持ちよさそうに目を細める。
「ソランティスでの話、聞かせてくれよ!」
烈が楽しそうに言った。
「私も、聞きたい」
怜も静かに頷く。
閃は3人の顔を見回し、嬉しそうに微笑んだ。
◆
4人は談話室へ移動し、ソファに腰を下ろした。
閃は、ソランティス王国で起きた出来事を、順を追って話していく。
ギシャ、ラ・オーマ、新たな魔獣、そして——エレシャたちとの戦い。
3人は途中で口を挟むことなく、静かに耳を傾けていた。
閃はふっと笑った。
「てか、エジプトにいたの、2週間くらいだったんだ……」
「なんか……もっと長くいた気がする」
それだけ、濃密な日々だった。
命を懸けた戦いも、エレシャたちと過ごした時間も、そのどれもが、何ヶ月も過ごしたような濃さだった。
「魔獣もどきか……」
烈は腕を組みながら呟く。
「それが閃くんを、こんなにしたんだね……」
音は閃の包帯を見て、小さく眉を下げた。
「でも、俺たちなら——間違いなく倒せる」
その言葉に、3人も真剣な表情になる。
「改めて思ったよ」
閃は穏やかに笑った。
「この4人なら、怖いものなんてないって」
「当たり前だろ?」
烈は笑って拳を突き出した。
「そうだね!」
音は嬉しそうに微笑んだ。
怜も静かに頷く。
ソランティスでの出来事を通して、閃は改めて仲間の大切さを思い知らされた。
1人では乗り越えられなかった。
でも、仲間がいたから前へ進めた。
その想いは、今まで以上に強く胸へ刻まれていた。




