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エーテルコード:ヴァリアスワールド  作者: エトコッコ
エジプト篇

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第24話「Home」


気がつくと、閃はエメラルドグリーンの光に包まれた、不思議な空間を漂っていた。


まるで無重力のように身体は軽く、穏やかな風が静かに吹き抜けている。


どこか懐かしく、心が安らぐ場所だった。


(エレシャは……?)


ふと、その姿を探す。


すると、遠くに一つの人影が見えた。


閃は自然とその人影へ向かう。


近づくにつれ、その姿がはっきりと見えてきた。


「エレシャ!」


思わず名前を呼ぶ。


「閃!!」


エレシャも閃に気づき、嬉しそうに駆け寄ってきた。


2人は互いのもとへ駆け寄り、そのまま強く抱きしめ合う。


「良かった……無事で」


閃が安堵の声を漏らす。


「閃も……」


エレシャも抱きしめる腕に力を込めた。


互いの温もりを確かめ合うように、しばらく抱き合ったまま動かない。


やがて2人はゆっくりと顔を上げ、自然と唇を重ねた。


その感触は、温かく、確かなものだった。



ふと、閃は目を覚ました。


目の前には、音の顔があった。


正確には、閃が音を抱き寄せるような体勢になり、そのままキスをしていた。


「???」


閃は状況がまったく理解できなかった。


音もまた、完全に硬直している。


「……音?」


「……これ、夢?」


閃はゆっくりと唇を離し、小さく呟いた。


「……ゆ、夢じゃないよ?」


音はずれた眼鏡をかけ直し、頬を真っ赤に染めながら答えた。


閃は周囲を見渡す。


そこは、オルフェ研究機関の医務室だった。


全身には包帯が巻かれ、ベッドの上に寝かされている。


部屋を照らしているのは、小さな間接照明だけ。


室内には、音と閃の2人しかいない。


閃は目をぱちぱちと瞬かせた。


まだ意識がぼんやりしており、現実と夢の区別がつかない。


頭の中は真っ白なまま、呆然と音を見つめていた。



「ここ……日本?」


閃は、まだ状況を理解しきれないまま音に尋ねた。


「うん!閃くんが眠ってる間に、日本に帰ってきたんだよ」


音は嬉しそうな笑顔で答えた。


閃の記憶は、ラ・オーマを倒したところで途切れている。


感覚としては、つい先ほどまでソランティス王国にいたようなものだった。


日本へ戻ってきたという実感は、まるで湧かない。


それでも、見慣れた内装から、ここがオルフェ研究機関の医務室であることは間違いなかった。


何より、すぐそばには笑顔を浮かべる音がいる。


「閃くんの傷を塞ぐために、ずっとここにいたの」


音が言った。


「そっか……」


閃はようやく納得する。


先ほど夢の中で感じていた心地よい風や、傷が癒やされていくような感覚。


あれは、音の《治癒のウィンド》の影響を受けていたのだろう。


「それでね……」


「急に閃くんがガバッて起き上がって……いきなりチューしてきて……」


音は頬を赤らめ、少し恥ずかしそうに視線を逸らした。


「ごめん……」


閃は先ほどの状況を思い出し、申し訳なさそうに眉を下げた。


「ううん!」


音はすぐに首を横へ振る。


そして、いつもの明るい笑顔を閃へ向けた。


「そんなことより、閃くんが目を覚ましてくれて良かった!」


その声には、心からの安堵と喜びが滲んでいた。



時刻は、すでに深夜3時を回っていた。


閃がオルフェへ運び込まれたのは、今から7時間ほど前のことだった。


輸送中、医療班による懸命な処置が施されていたため、オルフェへ到着した頃には容体もかなり安定していたという。


傷の治療については、音が自ら名乗りを上げた。


それからずっと、閃のそばを離れずに《治癒のウィンド》を使い続けてくれていたらしい。


「そっか……ありがと、音」


一通りの話を聞き終えた閃は、改めて礼を言った。


「ううん」


音は笑顔で首を横に振る。


「エレシャは——ソランティスはどうなった?」


「それ以外のことは……わたしも分からないの」


音は申し訳なさそうに答えた。


どうやら、音もまだ詳しい状況を知らされていないようだった。


閃は、自身が倒れた後に何が起きたのか、今すぐにでも知りたかった。


だが、今は深夜3時を過ぎている。


状況を確認しようにも、しばらく待つ以外に選択肢はなさそうだった。


「音は、疲れてない?」


閃が心配そうに尋ねる。


「大丈夫だよ!」


「ちゃんと休みながら回復してたから!」


音は明るく答えた。


その笑顔を見て、閃は安心した。



「……音がいると安心する」


閃は、心の底からそう思った。


「わたしも、閃くんがいると安心する」


「他のみんなも、きっとそう思ってるよ」


音は、優しく微笑んだ。


「……おかえりなさい。閃くん」


その一言に、閃も自然と笑みを浮かべる。


「ただいまでやんす」


「ふふっ」


「さっき、チューしてごめんね?」


閃は少し気まずそうに頭をかいた。


「びっくりしちゃったよぉ」


そう言いながらも、その表情はどこか嬉しそうだった。


少し間を置いて、音は悪戯っぽく微笑む。


「……ただいまのチューってことで……ね?」


閃は、とりあえずアホ毛を揺らした。


そして、何かを思い出したように口を開く。


「俺、何か寝言とか言ってなかった?」


「う〜ん……」


音は首を傾げながら考える。


「“ポコッコ”?って言ってたかなぁ……」


「あぁ……」


閃は額に手を当て、小さく苦笑した。


「ポコッコって何?」


音は不思議そうに尋ねる。


「ソランティスのご飯」


閃は笑って答えた。


静かな医務室には、2人の穏やかな笑い声だけが響いていた。



閃はふと、全身に巻かれた包帯へ視線を落とした。


肩の包帯を指先で少しだけめくり、傷口を確認する。


「あー……だいぶ塞がってる」


閃は安心したように呟く。


音も隣から身を乗り出し、傷口を覗き込んだ。


「でも、まだ残ってるね」


傷は確実に回復している。


それでも完全には塞がっていなかった。


音の《治癒のウィンド》をもってしても治し切れない。


それだけ、魔獣による傷は特殊だった。


「あとは自然治癒で治るよ」


閃は笑顔で言った。


「うん」


音もほっとしたように微笑む。


「シャワーでも浴びに行こうかな」


そう言って閃はベッドから降りようとした。


しかし——


「うわっ」


足を床につけた瞬間、身体が大きくふらつく。


「あっ!」


音は慌てて閃の身体を支えた。


間一髪で転倒は免れる。


「あれ……?」


「まだ横になってた方がよさそう……」


音は少し心配そうな表情で言った。


「そうする……」


閃は素直に頷く。


無理をしても仕方がない。


再びベッドへ腰を下ろし、ゆっくりと身体を預けた。

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