第20話「聖なる闘争③」
王宮・中央部。
カカロ、リビア、ロック、ナオミの4人は、目的地へ到達した。
周囲を素早く確認する。
だが、その場に敵兵の姿はなかった。
「ここまでは来てないか……」
ロックが小さく呟く。
リビアは周囲へ視線を巡らせる。
4人はそのまま、王宮の正面入口へ向かって走り出す。
外からは金属同士が激しくぶつかり合う轟音が絶え間なく響いていた。
鎧機兵同士の戦闘が、今もなお続いていることは明らかだった。
4人は速度を緩めることなく、戦場へと駆け抜けていった。
◆
閃とエレシャ、そして兵士たちは、待ち構える敵兵を次々と倒しながら、王宮の上層部を目指していた。
すると、再び前方から敵兵がぞろぞろと姿を現す。
だが——どこか様子がおかしい。
(……ん?)
最初に違和感を覚えたのは閃だった。
動きがあまりにも不自然だった。
ぎこちなく、まるで操り人形のように統一感がない。
「気を付けて!」
閃が声をかける。
兵士たちは前へ出ると、瞬く間に敵兵を制圧した。
その時、1人の兵士が倒れた敵兵を見て息を呑む。
「……!これは?!」
別の兵士も駆け寄り、膝をついて確認する。
そして、顔色を変えた。
「死体だ……!!」
その言葉に、その場の空気が凍りつく。
閃たちはここまで、敵兵であっても命を奪わず、気絶させる戦い方を徹底してきた。
つまり、今倒した兵士たちは、戦う前からすでに命を落としていたことになる。
「だから、あんな奇妙な動きだったのか……」
閃は低く呟いた。
「ラ・オーマの神術……?」
エレシャが険しい表情で言う。
「おそらくね」
閃は静かに頷いた。
「……今は敵兵とはいえ」
1人の兵士が、倒れた遺体を見つめながら呟く。
「元は、同じソランティス王国軍の仲間だった……」
拳が震える。
「それを……よくも……!」
怒りを押し殺した声が廊下に響いた。
エレシャは静かに亡き兵士たちを見つめる。
「屍となってなお、道具として利用されたソランティスの兵士たちの無念……」
その瞳には、決意が宿っていた。
「必ず、私たちが晴らしましょう」
◆
王宮正門付近。
そこでは、バサラヲとナック部隊の激戦が続いていた。
武器と武器が激しくぶつかり合い、金属音が絶え間なく響き渡る。
地面には、戦闘不能となったナックの残骸や、切り落とされた武器や装甲が山のように積み重なっていた。
その瓦礫の山は、結果として敵の進軍を妨げる障害物となっている。
ギシャ派の兵士たちは、破壊されたナックから機兵士を救出することを優先していた。
機兵士たちは死亡しているわけではない。
そのため、彼らを救出しなければならない状況だった。
そんな中、兵士が王宮から駆けてくる4人の姿に気づいた。
「なっ!?カカロ様!?」
その叫びに、周囲の兵士たちが一斉に振り返る。
(さすがに見つかったか……)
ロックは内心で苦笑する。
敵兵が武器を構え、叫んだ。
「カカロ様といえど——お覚悟!!」
その号令とともに、兵士たちが4人へ一斉に襲いかかる。
「さて……やりますか」
ロックは軽く肩を回しながら笑った。
4人は誰一人として武器を持っていない。
それでも、一歩も退くことなく静かに構えた。
◆
閃たちは、さらに王宮の上層を目指して進んでいた。
行く手を阻むのは、ラ・オーマに操られた兵士たち。
死者となった王国兵が、次から次へと姿を現す。
それを兵士たちが次々と打ち倒していく。
閃は、その戦いを見ながら確信していた。
死体の兵士たち一体一体は、それほど強くない。
明らかに狙いは別にある。
(俺のエーテルを消耗させるための駒か)
ラ・オーマらしい戦い方だった。
まともに相手をすれば、数だけでエーテルを削り取られてしまう。
だが、今回は違う。
兵士たちが前線で応戦してくれているおかげで、閃はほとんどエーテルを消費せずに進むことができていた。
その代わり、兵士たちの疲労は隠せなかった。
息は荒く、肩で呼吸をしている者もいる。
それほどまでに敵の数は多かった。
その時だった。
前方に、巨大な影が姿を現す。
全員の足が止まる。
緊張が一気に走った。
そこに立っていたのは——
かつてA拠点で閃と戦った人造魔獣“DA-01”だった。
「エレシャ姫、皆さん」
閃は一歩前へ出る。
「ここは任せてください」
その声に迷いはない。
「閃様……ご武運を」
兵士の1人が静かに言った。
「閃……」
エレシャは思わず名前を呼ぶ。
その時、兵士がエレシャへ声をかけた。
「エレシャ姫、先を!」
その言葉に、エレシャは我に返る。
ここで立ち止まれば、閃の覚悟を無駄にしてしまう。
エレシャは言葉を飲み込んだ。
閃は振り返ることなく、軽く片手を上げる。
それだけで十分だった。
エレシャは小さく頷く。
そして兵士たちを率い、別ルートからギシャのもとへ向かって駆け出した。
◆
(この魔獣……エレシャの予想どおりだった)
かつてエレシャが口にした推測。
“この魔獣はギシャ派が差し向けたものではないか”——
その予想は、現実となっていた。
DA-01は何も言わず、ただ閃を見つめている。
その無機質な視線が、不気味さを際立たせていた。
やがてDA-01は、ゆっくりと腰を落とす。
まるで獲物へ飛びかかる直前の獣のような構えだった。
一瞬の静寂——
閃は《化身鳴》を発動、雷のエーテルを全身に纏う。
それとほぼ同時に、DA-01が凄まじい速度で飛びかかってきた。
閃は腰に装備していた片手剣を引き抜く。
それは、B拠点で装備していた武器だった。
両者は一瞬ですれ違う。
閃の剣がDA-01の身体を切り裂いた。
だが——傷は浅い。
切り口は瞬く間に塞がり、何事もなかったかのように再生してしまう。
(やっぱりか……!)
前回はバサラヲに搭乗した状態で戦っていた。
今の閃は生身。
この人造魔獣は、生身で正面から倒せる相手ではなかった。
◆
カカロたちは、迫り来る敵兵を徒手空拳で次々と制圧していた。
その動きに一切の迷いはない。
カカロは最小限の動きで相手を崩し、確実に戦闘不能へ追い込んでいく。
リビアも無駄のない体術で敵を制圧する。
一方、ロックとナオミも、洗練された格闘術で兵士たちを次々と倒していた。
もちろん、誰一人として命は奪わない。
今宵、この戦いに決着がつく。
だからこそ、これ以上の無益な殺生は避けたかった。
その時——
「カカロォォォ!!」
王宮中に響き渡るような怒号が聞こえた。
「ガ、ガラガ様!?」
1人の兵士が驚きの声を上げる。
ガラガだった。
閃の《雷撃》の直撃を受け、意識を失っていたはず。
本来なら、あの電撃を受ければ失神し、目を覚ましたとしても数時間はまともに動けない。
だが、ガラガは違った。
驚異的な肉体と精神力により、全身に痺れを残しながらも、すでに立ち上がっていた。
◆
カカロは静かにガラガを見据えた。
「ガラガ様!これを!」
兵士が駆け寄り、メイスを差し出す。
「いらん!」
ガラガは一喝し、それを受け取らなかった。
そのまま、素手のままカカロへ歩み寄る。
カカロもまた、無言のまま前へ進む。
互いに武器を持たない。
師弟として鍛え合った二人は、拳だけで決着をつけようとしていた。
やがて——
ガラガの拳が、真っ直ぐカカロの顔面を捉える。
カカロは一瞬よろめく。
だが、すぐさま体勢を立て直し、渾身の拳をガラガの頬へ叩き込んだ。
ガラガの身体が大きく揺れる。
それでも倒れない。
カカロは追撃の拳を放つ。
しかし、ガラガは紙一重でかわし、そのまま勢いよく頭を突き出した。
鈍い音が響く。
頭突きがカカロの顔面へ直撃し、鼻と口から鮮血が飛び散る。
ガラガは口元を吊り上げた。
「この“石頭のガラガ”の頭突き……効いただろ」
カカロの巨体がよろめき、その場へ片膝をつく。
だが——
「……お前が“石”なら」
カカロはゆっくりと立ち上がる。
そして両手でガラガの頭をがっちりと掴んだ。
「俺は……“鉄”だな」
カカロは全身の力を込め、ガラガへ渾身の頭突きを叩き込んだ。
凄まじい衝撃音。
ガラガは血を撒き散らしながら大きく吹き飛び、そのまま勢いよく壁へ激突する。
轟音とともに壁が揺れた。
それでも、ガラガは立ち上がった。
しかし、その瞳は白目を向いている。
意識を失ったまま、本能だけで立っていたのだ。
カカロは一気に間合いを詰め、渾身の蹴りを放つ。
その瞬間——
ガラガの瞳に意識が戻る。
寸前で蹴りをかわすと、懐へ飛び込み、連続で拳を叩き込んだ。
鈍い打撃音が何度も響く。
カカロの腹部へ、容赦ない連打が突き刺さる。
2人は互いに一歩も譲ることなく、激しい肉弾戦を繰り広げていた。




