第19話「聖なる闘争②」
閃は迫り来るナックの軍団を、次々と戦闘不能にしていく。
敵の数は依然として多い。
しかし、その猛攻を受けながらも、バサラヲは一歩も引かなかった。
その時、通信が入る。
『こちらA班。目標地点へ到達しました』
下水道から王宮へ潜入した部隊だった。
「了解です!」
閃はナックの攻撃をさばきながら短く返答する。
その直後、別の通信が入る。
『こちらB班!目標地点へ到達!A班と合流しました!』
配管通路から潜入していたB班も、予定どおりA班との合流に成功した。
「了解!」
閃は力強く答える。
敵の戦力を正面へ引きつけている間に、潜入部隊は予定どおり王宮内部への侵入を果たした。
作戦は、予定どおり次の段階へと移る。
◆
「カイバさん!あとよろしく!」
閃はバサラヲをオートモードへ切り替えながら、エレシャを優しく抱き上げた。
『閃サマ、エレシャサマ、ゴ武運ヲ』
カイバが静かに告げる。
「うん!」
「そっちもね!」
閃とエレシャは、それぞれ笑顔で応えた。
「あ、閃!待って」
エレシャが小さく呼び止める。
そして、そっと閃へ口づけをした。
わずかなエーテルを分け与え、閃の力を回復させるためだった。
しかし、それだけではない。
互いの無事を願う気持ち。
必ず生きて帰るという約束。
さまざまな想いが、その口づけに込められていた。
唇を離すと、エレシャは閃を見つめる。
閃も何も言わず、小さく頷いた。
その瞳だけで、お互いの意思は十分に伝わっていた。
やがて、バサラヲのコクピットハッチが開く。
閃はエレシャを抱えたまま、勢いよく飛び降りた。
閃は《電空》を発生させ、落下の衝撃を大きく和らげる。
安全に着地すると、閃はエレシャをゆっくりと地面へ降ろした。
周囲には、切断されたナックの腕や脚、武器の残骸が至るところに散らばっている。
2人の次の目的は、王宮内部へ潜入したA班、B班との合流だった。
2人はすぐに駆け出す。
その背後では、オートモードへ移行したバサラヲが、なおもナック部隊との戦闘を続けていた。
◆
地下牢。
そこは、外の情報を一切遮断するため、完全防音構造になっていた。
それでも、地響きのような振動だけは床を伝って届いてくる。
王宮周辺、あるいは王宮内で戦闘が始まっていることは明らかだった。
戦闘開始からしばらくした頃。
カカロが囚われている牢の前に、1人の男が姿を現す。
ソランティスの人間ではない。
男は鍵を取り出し、牢の扉を開いた。
さらに特殊な拘束具の構造を確認すると、慣れた手つきで次々と解除していく。
あっという間だった。
拘束から解放されたカカロは、ゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫かい?」
男が気遣うように声をかけた。
「……問題ない」
カカロは短く答え、男を見つめる。
「……礼を言う」
「気にすんな」
男は軽く手を振って笑った。
「オルフェの者か?」
カカロが尋ねる。
「ああ」
男は頷く。
「あんたの仲間は、俺のツレが助けに向かってる」
リビアのことだった。
カカロは静かに頷く。
2人はすぐに牢を後にし、リビアが囚われている場所へと急いだ。
◆
リビアは、カカロとは別の地下牢へ囚われていた。
その牢へ向かう途中、看守や見張りの兵士たちは、すでに全員倒れていた。
いずれも急所だけを的確に制圧され、無駄な戦闘の跡はない。
オルフェのエージェントによるものだった。
「おっ」
先を歩いていた男性が足を止める。
通路の向こうから、女性とリビアがこちらへ向かってくるのが見えた。
「カカロ!」
リビアが安堵したように声を上げる。
リビアの身体に目立った外傷はなかった。
拘束こそされていたものの、カカロのような拷問は受けていなかったようだ。
「……無事で良かった」
カカロは短く言った。
「ああ。お互いにな」
リビアは小さく笑みを浮かべる。
そして、隣に立つ男へ視線を向けた。
「ナオミから聞いたよ」
「オルフェのエージェントなんだな?」
ナオミ——リビアを救出した女性エージェントだった。
「助けてくれて感謝する。ありがとう」
リビアは真っ直ぐ頭を下げる。
「礼なら全部終わってから聞くよ」
男は肩をすくめながら笑う。
「そうだな」
リビアは頷く。
「差し支えなければ、名を聞かせてほしい」
「ロックだ」
ロックは短く答えた。
「そうか、ロック」
リビアは静かに頷く。
「これまでの経緯を聞かせてくれ」
ロックは歩きながら、これまでの状況を簡潔に説明した。
閃とエレシャがC拠点へ到着したこと。
そこで戦力を立て直し、エレシャがギシャへ決戦を宣言したこと。
そして現在、王宮で戦闘が始まっていること。
ロックとナオミは、他の協力者と共に王都近郊で待機していた。
その後、ベセルとやり取りをしていたギャッツから情報を受け取り、作戦内容を共有。
王宮での戦闘に敵の注意が向いている隙を突き、カカロとリビアを救出する作戦へ移行していた。
なお、2人が囚われている場所については、以前、生存確認のため王宮へ潜入した際に、すでに正確な位置を把握していた。
◆
「エレシャ姫……」
リビアは静かに呟いた。
その瞳には、王女への信頼が宿っている。
ロックはそんなリビアを横目に、小さく笑った。
「うちのファクターくんと王女様は、それぞれの目的を果たしに行ってる」
「だったら俺たちの役目は一つだ」
ロックは肩を鳴らしながら続ける。
「邪魔になる連中を片っ端から片付ける」
「……シンプルだろ?」
不敵な笑みが浮かんでいた。
「ああ」
リビアも口元を緩める。
カカロも無言で頷いた。
「それじゃ、行こうか」
4人は頷き合うと、王宮中央部を目指して駆け出した。
◆
その頃、閃とエレシャは、王宮へ潜入していた兵士たちと無事に合流した。
次の作戦——それはいよいよ、ギシャの討伐。
もちろん、ギシャのもとには数多くの兵士が配置されているはずだ。
そして何より、ラ・オーマがいる。
それぞれの役割は、すでに決まっていた。
兵士たちは敵兵の足止めを担当する。
閃はラ・オーマを討つ。
そして——
エレシャがギシャと決着をつける。
ギシャが王宮内にいることは間違いない。
しかし、ラ・オーマの《インビジブル》を使われれば、その姿を見失う可能性がある。
そうなれば、その隙に逃げられてしまう恐れもあった。
だからこそ、エレシャはあえて王都中へ響き渡る形で決戦を宣言した。
あの宣言は、単なる開戦の合図ではない。
ギシャを逃がさないための挑発だった。
エレシャは兄と直接言葉を交わしたことはほとんどない。
それでも、兄の性格だけは理解していた。
あれほどの宣言を受けてなお、ギシャが逃げることはない。
その確信があった。
そして実際、その思惑は成功している。
さらに、エレシャには、ギシャがいるであろう場所に一つだけ心当たりがあった。




