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エーテルコード:ヴァリアスワールド  作者: エトコッコ
エジプト篇

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第18話「聖なる闘争①」


数日後。


深夜のソランティス王国。


夜の街は、今なお活気に包まれていた。


王都中央には、ソランティス王国で最も高い建造、“アガンニーヤの塔”がそびえ立っている。


王国の象徴ともいえる神聖な塔だった。


「……ん?」


1人の村人が足を止める。


「おい……あれ、何だ!?」


村人は驚いたように塔の頂上を指差した。


その声に導かれるように、人々が一斉に空を見上げる。


そこには——


月明かりを背にした、1機の機体が立っていた。


その機体は、防塵と砂漠迷彩を兼ねたマントを羽織り、静かに王都を見下ろしている。


バサラヲだった。


やがて、王都中へ響き渡るように声が鳴り響いた。


『ギシャ王子よ!』


『我々は、決戦を挑む!』


エレシャの凛とした声だった。


その声には、一切の迷いはない。


『このエレシャ』


『今宵、貴様の首を討ち取り——』


『この戦いに、終止符を打つ!!』


その宣言は、王都全域へと響き渡る。


人々は息を呑み、その言葉に耳を傾けた。


バサラヲは右手に握る刀を静かに掲げる。


その切っ先は、真っ直ぐ王宮へ向けられていた。


決戦の火蓋は、今まさに切って落とされようとしていた。



「決闘だと!?」


「あの声……エレシャ姫が!?」


「今夜、ついに決着がつくぞぉぉぉ!!」


王都は瞬く間に騒然となった。


人々は驚きと動揺に包まれ、街中は混乱状態に陥る。


やがて——


避難警報が王都全域に鳴り響いた。


兵士たちは直ちに避難誘導を開始し、人々は急いで安全な場所へ向かう。


王宮では、ギシャ親衛隊や兵士たちが次々とナックへ搭乗し、防衛網を展開していく。


王都全体が、決戦に向けて慌ただしく動き始めていた。


その頃、王宮の一室。


ギシャは窓の外を眺めながら、静かに口を開いた。


「まさか、あちらから決闘を申し出るとはな」


その表情には、わずかな驚きと興味が浮かんでいた。


「もう後がないことを、自ら認めたようなものですね」


ラ・オーマが淡々と答える。


「しかし——」


「エレシャよ、少しは見直したぞ」


その口元には、小さな笑みが浮かんでいた。


敵としてではなく、王族として覚悟を示した妹への評価だった。


「王子、避難を——」


ラ・オーマが一歩前へ出る。


「いや」


ギシャは即座に言葉を遮った。


「私はここでいい」


ラ・オーマは黙って耳を傾ける。


「もし、エレシャがここまでたどり着いたなら——」


ギシャは静かに夜空を見上げた。


「それは、アガンニーヤのお導きなのだろう」


「私は、その運命に従う」


その言葉は、決闘を挑んできたエレシャへの敬意でもあった。


もっとも、ギシャ自身は、エレシャがここまでたどり着けるとは微塵も思っていなかった。


「……承知」


「では私は、迎撃の準備へ向かいます」


そう言い残すと、静かに部屋を後にした。


部屋に残ったギシャは、王都の夜景を見つめながら、迫り来る決戦の時を静かに待っていた。



「見え透いた陽動だな」


アガンニーヤの塔を見据えながら、ガラガは冷静に言った。


「それとも……本当に単騎で乗り込んできたのかもしれませんよ?」


親衛隊の1人が口にする。


現在のエレシャ派の戦力は、多く見積もってもギシャ派の10分の1以下。


もし単独で王都へ現れたとしても、不思議ではない。


「油断するな。あれは神術者だ」


ガラガは短く言い放つ。


その一言で、親衛隊の空気が引き締まる。


B拠点では直接刃を交えたわけではない。


しかし、戦場全体を見渡していたガラガには分かっていた。


あの鎧機兵は、一筋縄で相手にできる存在ではない。


「包囲を維持しろ」


「少しでも異変があれば、即座に報告を——」


その瞬間——


アガンニーヤの塔の頂に立っていたバサラヲの姿が、ふっと掻き消えた。



「消えた!?」


兵士が思わず叫ぶ。


「あの時もそうだった……ヤツの神術だ!」


閃は《刻式》を発動し、一気に距離を詰めていた。


事前に知らされていたギシャ派の監視ポイント。


その監視網のぎりぎりまで接近し、そこから《刻式》を連続で発動した。


さらに、バサラヲには防塵と砂漠迷彩を兼ねたマントを装着している。


その効果も相まって、誰にも気づかれることなくアガンニーヤの塔まで到達していた。


本来、《刻式》は莫大なエーテルを消費する。


閃のエーテル量が満タンの状態でも、3回も使用すればほぼ底をついてしまう。


連続使用など、本来なら不可能だった。


それでも実現できた理由は一つ。


エレシャの水のエーテルだった。


エレシャの水のエーテルには、癒やしと回復の力がある。


それは肉体だけではなく、消耗したエーテルも回復させることができた。


エレシャは閃へ口づけを交わすことで、自らのエーテルを分け与え、消耗した閃のエーテルをすぐに補充していた。


もっとも、それにも限界はある。


エレシャのエーテルが尽きれば、それ以上の回復はできない。


現に今、エレシャのエーテル残量は、およそ20パーセントまで減少していた。



「——上だ!!」


ガラガが叫ぶと同時に、その場から大きく後退した。


次の瞬間——


轟音とともに電撃が周囲へ一気に広がり、親衛隊を含む数機のナックが巻き込まれた。


機体は激しくスパークを起こし、その場で動きを停止する。


そして、バサラヲが大地へ着地した。


「迎撃!!」


複数のナックが一斉に武器を構え、バサラヲへ襲い掛かる。


しかし、その動きはあまりにも速かった。


バサラヲは次々と攻撃を回避し、敵機の間をすり抜けていく。


すれ違いざまに刀が閃く。


1機、また1機。


ナックの武器を持つ腕部だけが、正確に切り落とされていった。


さらに、刀には《帯電》が付与されている。


斬撃と同時に高圧電流が機体へ流れ込み、コクピット内部の機兵士たちは次々と感電して意識を失っていく。


閃の狙いは機体の破壊だけではない。


搭乗している兵士たちを戦闘不能にすることだった。



ナックは閃とバサラヲの敵ではない。


しかし、厄介なのは数だった。


いくら性能差があっても、包囲されれば消耗は避けられない。


さらに、閃の本当の目的は兵士たちとの戦闘ではない。


討つべき相手は、ラ・オーマ。


そのためには、エーテルを極力温存しなければならない。


エレシャによるエーテル回復も、あと1回が限界だった。


だからこそ、無駄な消耗は許されない。


もっとも、閃は決して1人ではなかった。


少し前。


王宮裏門付近で待機していたギシャ派のナック部隊が、遠方に複数のナックを確認する。


「やはり挟み撃ちか!」


兵士が叫んだ。


バサラヲをあえて目立つ場所へ出し、敵の注意を正面へ集中させる。


その隙に別働隊を戦力の薄い地点へ向かわせ、王宮内部へ侵入する。


圧倒的な戦力差がある戦いでは、極めて定石ともいえる陽動作戦だった。


「迎撃しろ!」


命令と同時に、ギシャ派のナック部隊は別働隊へ向かって突撃する。


その間——


エレシャ派の兵士たちは、王宮へ繋がる下水道や配管通路を利用し、それぞれ密かに侵入を開始していた。


遠方にいるエレシャ派のナックには——


誰一人、搭乗していなかった。


機体そのものが囮だったのである。



バサラヲは次々とナックを戦闘不能にしていく。


そのまま、1機のナックへ斬りかかった。


だが——その斬撃を受け流された。


「……!」


相手のナックは装備していたメイスを振るい、反撃に転じる。


バサラヲは身をひねって回避する。


間髪入れず、再び刀を振るった。


しかし今度は、メイスの柄で刀を持つ腕を巧みに弾かれた。


斬撃の軌道をわずかに逸らされ、そのまま空を切る。


(うまい……!)


閃は一瞬で理解した。


相手は刀身には一切触れていない。


《帯電》による感電を完全に警戒し、受け流している。


明らかに、これまでの兵士とは格が違った。


その時、通信が入る。


『やるな、小僧』


男性の声。


「やはり……ガラガ」


エレシャが声を上げる。


ガラガは、ソランティス王国軍でも中心的な存在であり、国内でも指折りの実力を誇る戦士だった。


『その剣さばき……どこの流派だ?』


ガラガが静かに問いかける。


『“佐古水流”というやつか?』


「サコミズ流?」


閃は思わず首を傾げた。


「流派なんてないよ。我流!」


そう返しながらも、心のどこかで引っ掛かる。


(佐古水流……どこかで聞いたことがあるような……)


だが、今は思い出している場合ではない。


先ほどの《雷散》による奇襲にも、ガラガだけはいち早く反応し、回避していた。


閃は刀を構え直す。


目の前の男は、これまでの敵とは明らかに違う。



(それなら……!)


閃は狙いをガラガではなく、近くにいた別のナックへ向けた。


「《雷導》!」


放たれた電撃は敵機へ命中すると、そのまま連鎖するようにガラガのナックへと走る。


「っ!」


ガラガは超人的な反射神経でメイスを投げ放ち、飛来する電撃を受け止めた。


電撃はメイスへ集中し、直撃を免れる。


だが、その一瞬の隙を閃は見逃さなかった。


「《雷撃》!」


轟音とともに雷撃が放たれる。


「ぐっ!!」


今度は避けきれない。


《雷撃》はガラガのナックへ直撃した。


激しいスパークが機体を包み込む。


それでも――


「ま、だ……!!」


ガラガのナックは、なお立ち続けていた。


その執念に閃は一瞬目を見張る。


しかし、ためらいはない。


バサラヲが一気に間合いを詰める。


刀が閃き、両腕、両脚を次々と切り落とした。


支えを失ったナックの胴体は、大きな音を立てて地面へ崩れ落ちる。


これで、ガラガはようやく戦闘不能となった。


だが——


戦場には、なお無数のナックが残っていた。

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