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エーテルコード:ヴァリアスワールド  作者: エトコッコ
エジプト篇

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第16話「残された希望」


バサラヲは、ついにC拠点へ到着した。


機体が姿を現すと、拠点にいた兵士や協力者たちが次々と集まってくる。


閃はバサラヲをゆっくりとしゃがませ、コクピットハッチを開いた。


「つかまって」


「うん!」


閃は優しくエレシャを抱き上げる。


エレシャも自然と閃の首へ腕を回した。


一刻も早く、自分が無事であることを皆に知らせたい。


その想いは、閃も同じだった。


2人はコクピットから地上へ降り立つ。


その瞬間——


「エレシャ様!!」

「エレシャ様だ!」

「姫様はご無事だー!!」


歓喜の声が一斉に上がった。


「良かった……!皆、無事で……!」


閃の腕の中からゆっくりと降りたエレシャは、安堵の表情でそう言った。


すると、1人の兵士が笑いながら答える。


「それは、こちらの台詞ですよ!」


その一言に、その場の緊張が一気にほどけた。


周囲から笑い声が広がる。


閃も思わず笑みを浮かべ、エレシャも嬉しそうに微笑んだ。


ようやく、心から安堵できる時間が訪れたのだった。



「姫様ぁぁぁ!!」


白髪の老人が、人混みをかき分けるように駆け寄ってきた。


「ベセル!」


エレシャは思わずその名を呼ぶ。


ベセルは民間協力者の一人であり、このC拠点をまとめるリーダーでもあった。


「よ、良かった……本当にご無事で……」


ベセルはエレシャの姿を目にした瞬間、安堵のあまり涙をこぼした。


「皆、心配をかけてごめんなさい……」


エレシャは申し訳なさそうに頭を下げる。


ベセルは涙を拭いながら、いつもの調子で笑った。


「このジジイめは、寿命が20年は縮まりましたぞ」


次の瞬間、大きな笑い声が広がった。


悲しい出来事が続いていた。


それでも今だけは、エレシャの無事を皆で喜び合う温かな時間が流れていた。



「あなたが、オルフェの閃様ですね?」


ベセルは閃へ向き直り、穏やかな表情で尋ねた。


「はい」


閃は軽く頷く。


するとベセルは深々と頭を下げた。


「姫様を……本当にありがとうございました」


それに続くように、周囲にいた兵士や協力者たちも一斉に頭を下げる。


「えっ!?い、いや、そんな……!」


閃は慌てて両手を振った。


突然のことに、すっかり戸惑ってしまう。


そんな閃を見て、エレシャはくすりと笑った。


「閃が照れてるから、もう頭を上げて?」


人々も笑顔になり、ゆっくりと顔を上げた。


すると近くにいた女性が、優しく声をかける。


「お2人とも、お疲れでしょう?」


「色々お話しする前に、まずはゆっくりお休みください」


「ありがとう。お清めをしてもいいかしら?」


エレシャは微笑んだ。


「もちろんです」


「お着替えもご用意しております」


女性たちはすぐにエレシャのもとへ集まり、案内を始める。


「閃、ちょっと待っててね」


エレシャは振り返り、優しく微笑んだ。


「うん……あ、はい!」


思わず普段どおり返事をしてしまった閃は、慌てて言い直す。


2人きりの時だけは砕けた口調で話す。


それが2人だけの約束だった。


そんな閃の様子に、エレシャは小さく笑って女性たちと共に歩いていった。


「閃様も、お疲れでしょう」


ベセルが改めて声をかける。


「はい……疲れました」


閃は苦笑した。


1秒でも早くC拠点へ到着するため、長時間にわたってエーテル推力を使用し続けていた。


その疲労は、さすがの閃にも表れていた。


「さあ、こちらへ」


ベセルが案内しようとしたその時、


「あっ!バサラヲを置ける場所はありますか?」


閃はバサラヲを振り返る。


「ご案内します」


近くにいた兵士がすぐに答えた。


「お願いします」


閃はバサラヲをオートモードへ切り替える。


そして兵士の誘導に従い、機体の格納場所まで移動させることにした。



(ふぅ……)


閃もシャワーを浴びていた。


「閃様、体を拭くタオルとお着替えを置いておきます」


外から男性の声が聞こえる。


「ありがとうございます!」


閃はシャワーを浴びながら返事をした。


ソランティスへ持ってきていた私物は、すべてB拠点に置いたままだ。


とはいえ、中身は着替えやBWくらいしか入っていないため、見られて困るものは特になかった。


やがてシャワーを終えた閃は、身体を拭き、用意されていた着替えに袖を通す。


それはソランティスで一般的に着用されている衣服だった。


だが、閃には少し大きい。


裾を上げ、軽く絞って結ぶと、何とか動きやすい状態に整えた。



閃は拠点のテント内で横になりながら、用意されたナッツをつまんでいた。


すると、お清めを終えたエレシャがテントの入口を開ける。


「あ、エレシャ」


「お待たせしました、閃」


エレシャは微笑みながらテントの中へ入ってきた。


小さなテントの中には、閃とエレシャ以外、誰もいない。


「その服、似合ってるわ」


エレシャは、ソランティスの衣装を身にまとった閃を見て微笑んだ。


「そうかなー?結構ブカブカだけど」


これでも、用意できた中では最も小さいサイズだった。


それだけソランティスの人々の体格が大きいということだ。


ふと、エレシャは閃との距離を縮める。


「ここじゃ、さすがにまずいよ……んっ」


閃は周囲を気にしながら、小声で囁いたが、エレシャは気にする様子もなく、閃へ熱い口づけをした。


以前、B拠点で兵士たちと話していた時のことを思い出した。


「ソランティスの女性は、性格も男勝りで情熱的なんだ」


「ソランティスの戦士が一番体力使うのは、戦じゃなくてカミさんとの営みなんだぜ」


兵士たちはそんなことを言って笑っていた。


その時は笑い話として聞き流していたが、もしかすると、エレシャにも当てはまるのかもしれない。


閃はそう思った。



「皆の者ー!食事の準備ができたぞー!」


外から朝食の準備を知らせる声が響いた。


「……また後でね」


エレシャは小さく微笑むと、人差し指で閃の顎を優しくなぞる。


「うん」


閃も微笑み返した。


2人はテントを出て、皆と合流する。


朝食を囲む中で、閃は改めてあることに気づいた。


C拠点の規模は、B拠点の半分にも満たない。


配備されているナックも3機だけ。


集まっている兵士や協力者の数も、B拠点と比べて明らかに少なかった。


それだけ、この拠点で戦える戦力は限られている。


閃は朝食を口に運びながら、静かに拠点全体を見渡していた。



食事を終えた後。


閃とエレシャ、そしてベセルや兵士たちは、作戦会議用の大テントへ集まり、それぞれが体験した出来事を報告し合っていた。


ギシャの襲来、ラ・オーマの力、魔獣のような謎の生物——そして、A拠点で目にした凄惨な光景。


「魔獣だって……?」


その報告に、テント内はざわめきに包まれた。


しばらく沈黙が続いた後、ベセルがゆっくりと口を開く。


ギシャの襲撃とA拠点の壊滅については、すでにある程度の情報を把握していた。


まず、B拠点が襲撃された際、エレシャ親衛隊の兵士の異変を知らせるため、特殊な狼煙を打ち上げていた。


その狼煙は遠距離からでも確認できる特殊なもので、離れたA拠点とC拠点にも異変を知らせる役割を持っていた。


狼煙を確認したC拠点では、ただちにナック3機を援軍としてB拠点へ向かわせた。


翌日になると、ギャッツはA拠点へ、オルフェのエージェント2名はB拠点へ、それぞれ状況確認に向かった。


B拠点では、兵士たちの遺体と破壊されたナックの残骸が散乱していた。


しかし、その中に閃、エレシャ、カカロ、リビアの姿はなかった。


そのため、少なくとも4人は生存している可能性が高いと判断された。


一方、A拠点へ到着したギャッツは、虐殺された兵士や協力者たちの遺体を目の当たりにする。


その後、ギャッツとオルフェのエージェントは互いの情報を共有し、すぐにC拠点へ連絡を入れた。


その頃、C拠点に向かった閃たちは砂嵐に足止めされていた。


結果的に、双方はちょうど入れ違いになってしまっていたのである。


また、ギャッツが人造魔獣と遭遇しなかったのも、閃がすでに討伐した後だったためだった。


そしてギャッツも、A拠点の遺体の損傷について“人間の仕業とは思えない”と違和感を抱いていたという。



(オルフェのエージェントか……)


閃はふと、トーマスの言葉を思い出していた。


“エジプトまでの移動ルートには、オルフェのエージェントも複数名、身分を偽装して配置されている”


閃はエージェントたちの顔も名前も知らない。


だが、自分たちの見えないところで同じ組織の仲間が動いている。


その事実だけで、少し心強く感じられた。


「カカロとリビアは……?」


エレシャがベセルへ尋ねる。


「実は、それが分かったのは姫様たちが到着する少し前です」


ベセルは静かに答えた。


「結論から言うと——カカロ様とリビア様は、ご無事です」


「本当に!?」


エレシャと閃は同時に声を上げた。


「はい」


ベセルは頷く。


「これも、オルフェのエージェントからの報告です」


(オルフェのエージェント……凄腕なんだ)


閃は感心した。


しかし、ベセルの表情が曇る。


「ですが……状況は決して良くありません」


場の空気が一気に張り詰めた。


「お2人は現在、王宮の地下牢へ幽閉されています」


「そして……拷問を受けています」


「——!!」


エレシャの表情が強張った。


自分への見せしめなのか——様々な思いが胸をよぎる。


だが、エレシャは深く息を吸うと、すぐに冷静さを取り戻した。


「……大体の状況は分かりました」


そう言って視線を上げる。


「援軍へ向かったナックは?」


「依然として連絡が途絶えています……」


ベセルは静かに首を横へ振った。


「そうですか……」


エレシャは短く呟いた。


現在の戦力は、閃のバサラヲ。


そしてC拠点に残るナック3機。


兵士はわずか10名ほど。


カカロとリビアは王宮に囚われている。


戦力差は、誰の目にも明らかだった。


圧倒的な劣勢。


それでも——


エレシャの瞳には、絶望の色は一切宿っていなかった。

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