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エーテルコード:ヴァリアスワールド  作者: エトコッコ
エジプト篇

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第15話「青い旗」


閃はエレシャと、熱いひとときを過ごしていた。


エレシャはこれまで、何度も深く傷つき、何度も心が折れそうになってきた。


それでも、自らの立場を理由に弱音を吐くことはなかった。


命を落とした仲間たちを思い、自分が気丈でいなければならないと、ずっと心に言い聞かせてきたのだ。


いや——弱音を吐くことさえ、できなかった。


エレシャはこれまで、心の拠り所を一つ、また一つと失ってきた。


だからこそ、もう二度と、大切な人を失いたくない。


その想いは、誰よりも強く胸に抱いていた。



エレシャにとって、閃の存在は希望そのものになっていた。


共に過ごした時間は、決して長くはない。


それでも、不思議と昔から知っている人のような安心感を覚える。


彼の優しい人柄、穏やかな声、まっすぐな眼差し。


そのすべてが、エレシャの心に安らぎと癒やしを与えてくれた。


そして、閃の持つ強さは、絶望の中でも前を向く勇気を与えてくれる。


閃はいつでもエレシャを最優先に考えてくれていた。


それは単に任務だからではない。


彼自身の意思でそうしていることが、言葉や行動から伝わってくる。



エレシャがまだ15歳だった頃。


ポポロムは、趣味で占星術を嗜んでいた。


ある日、エレシャを占ったポポロムは、こんな言葉を残した。


「心の底から助けを求めたとき、あなたを守る戦士が必ず現れます」


「その戦士は、これまで一度も会ったことのない、思いもよらない場所からやって来るでしょう」


「その戦士はあなたとよく似た魂を持つ、近しい存在です」


「そして——あなたたちは、強く惹かれ合う運命にあります」


その言葉は、当時のエレシャにはどこか現実味のない話だった。


だが今なら分かる。


あの時、ポポロムが語った戦士とは——間違いなく、閃のことなのだと。



砂嵐がようやく収まった頃には、外はすっかり日が落ちていた。


閃は食料を確保するため、1人で洞窟の外へ出ていた。


エレシャはテントの中で帰りを待つ。


万が一、何かあっても心配はない。


バサラヲがオートモードで周囲を警戒しているため、不意の襲撃にも対応できる状態だった。


それから30分ほどが経った頃。


「エレシャー!」


洞窟の入口の方から、閃の声が響く。


「閃!」


エレシャはすぐにテントを飛び出し、入口へ駆け寄った。


そこには、仕留めたムラサキウロコワニの尻尾を掴み、ずるずると引きずりながら歩いてくる閃の姿があった。


「閃……よく1人で運んでこられましたね……」


エレシャは思わず目を丸くする。


成体のムラサキウロコワニは600キロを超える巨体だ。


この砂漠で、道具も使わずに運ぶとなれば、ソランティスの屈強な男性でも最低3~4人は必要とされる。


それを閃は、1人で平然と引きずってきたのだ。


「ちょっと重かったけど、このくらいならまだ大丈夫!」


閃は、いつもの笑顔で答えた。


その光景を目の当たりにし、エレシャは改めて実感する。


エーテルファクターの身体能力は、常人とは比較にならないほど規格外なのだと。



「じゃ、捌こう!」


閃が笑顔で言った。


「ええ!」


エレシャも微笑みながら頷く。


2人とも、すっかりお腹が空いていた。


閃とエレシャは、サバイバルキットに入っていたナイフを使い、協力してムラサキウロコワニを捌き始める。


「こういうことするの、初めて」


閃が言った。


「初めてとは思えないくらい、お上手ですよ」


「閃は本当に器用なんですね」


エレシャは感心したように微笑む。


「刃物自体は慣れてるからね」


閃は手を動かしながら答えた。


「私も、捌くのは久しぶりです」


「王族はそんなことをしてはいけないと、周りからはよく言われていました」


「でも実は——こっそりカカロから教わっていたんです」


エレシャも手際よく作業を進めながら、小さく笑った。


「エレシャらしいね」


閃は思わず笑った。


2人は息を合わせながら、皮を剥ぎ、必要な部位を切り分けていく。


下処理を終えれば、あとは焼くだけだった。


閃はサバイバルキットの中から、小型の電気プレートを取り出す。


内部バッテリー式の携帯モデルで、特別な装備ではなく、一般的によく使われているものだった。


切り分けた肉をプレートへ並べる。


焼き上がるまでの間、2人は自然と見つめ合っていた。


やがてエレシャが静かに距離を縮める。


閃も何も言わず、その想いを受け止めた。


2人はそっと唇を重ねる。


それは、温かな口づけだった。


もちろん、この時間は2人だけの秘密。


立場も、身分も、背負うものも全く違う。


そのことは、お互いによく分かっていた。



「はぁ……美味しかった」


閃は満足そうに息をついた。


「本当に」


エレシャも穏やかに微笑む。


2人は食事を終え、ようやく空腹を満たしていた。


束の間ではあったが、心も身体も少しだけ落ち着きを取り戻すことができた。


「それじゃあ、C拠点へ向かおう」


閃が立ち上がる。


「ええ!」


エレシャも力強く頷いた。


閃は周囲を見回し、設営したテントや備品へ視線を向ける。


「設置したものは、一旦このままにしておこう」


「また使うことになるかもしれないし」


「そうですね」


エレシャも同意した。


必要な装備だけを持ち、2人はバサラヲへ乗り込む。


ハッチが閉じると、バサラヲは洞窟の外に出た。


そして、砂漠へ向かって一気に駆け出した。



C拠点。


辺りはまだ夜の闇に包まれていた。


「……ん?」


見張りに立っていた兵士の1人が、遠方から近づいてくる影に気づく。


兵士はすぐに双眼鏡を構え、倍率を上げた。


(……あれは、鎧機兵?)


しかし、その機体には見覚えはない。


兵士は目を凝らす。


そして、ある可能性に思い至った。


(……まさか!)


慌てて通信機を取り出し、拠点内へ連絡を入れる。


「見たことのない鎧機兵が1機、こちらへ向かっている!」


「おそらく——オルフェの協力者だ!」


『なんだって!?』


通信の向こうから驚きの声が返ってくる。


『なら、姫様は——分かった!』


通信はそこで切れた。


見張り兵は再び双眼鏡を構え、夜の砂漠を駆けてくる機体を見つめ続けた。



「あっ!」


不意にエレシャが声を上げた。


「どうした?」


閃が尋ねる。


「あそこを見てください!」


エレシャは前方を指差した。


閃はすぐにモニターの映像を拡大する。


そこには、1枚の青い旗が大きく振られていた。


「……あれは!」


エレシャの表情が一気に明るくなる。


「良かった……!」


「閃、C拠点は無事です!」


その声は、安堵と喜びに満ちていた。


「あの旗は?」


閃が尋ねる。


「無事を知らせる合図です」


「それと、味方を迎え入れる時にも使われます」


エレシャは嬉しそうに答えた。


閃もようやく肩の力を抜く。


A拠点のような惨状になっていなかったことに、心から安堵した。


「もう少しですね」


「よし!」


C拠点までは、あとわずか。


バサラヲはさらに加速し、夜明け前の砂漠を一直線に駆け抜けた。

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