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エーテルコード:ヴァリアスワールド  作者: エトコッコ
エジプト篇

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17/30

第7話「謎の神術者」


「湯加減はどう?」


備え付けの簡易シャワー室で、閃はシャワーを浴びていた。


「気持ちいいですぅ〜」


仕切り越しに聞こえてきた気の抜けた声に、エレシャは思わず微笑む。


「このシャンプーとリンス、それにボディソープ……ココナッツ由来ですか?」


「めっちゃいい香り……」


閃がそう言うと、エレシャは声を漏らした。


「あ、それ私のなの。片付けるのを忘れちゃってたわ」


どうやらエレシャの私物だったらしい。


「えっ!?ごめんなさい!使っちゃった!」


閃は慌てて謝った。


「うふふ、気にしないで。そんなに気に入ったなら、そのまま使っていいわよ?」


「いいんですか?」


「ええ、もちろん」


「ありがとうございます」


閃がお礼を言うと、エレシャはふと思い出したように尋ねた。


「日本の方って、毎日お風呂に入る文化なんでしょう?」


「人によりますけど、基本的にはそうですね」


閃が答える。


「ソランティスだと、週に2〜3回くらいが普通なの」


「私はお清めが好きだから、5日くらいは入るけどね」


「それに、お風呂で使うシャンプーやボディソープも、男性用と女性用で分けられているの」


「そうなんですね」


閃は感心したように頷いた。


そしてシャワーを終え、仕切り越しに声をかける。


「あの、エレシャ姫。タオルか何かありますか?」


「待ってて」


そう言うと、エレシャは迷いなくシャッと仕切りを開けた。


「!!?」


閃は思わず硬直した。


驚きのあまり、アホ毛がピンッと立つ。


「はい、これで拭いて」


そんな閃の反応など気にも留めず、エレシャはタオルを差し出した。


「あ、ありがとうございます……」


閃はぎこちなくタオルを受け取り、そっと仕切りを閉める。


(……バッチリ見られた)


タオルで顔を拭きながら、閃は心の中で呟いた。



シャワーを終えた閃は、エレシャと共に洞窟内へ戻った。


これから、カカロやリビアをはじめとする兵士や協力者たちとの作戦会議が予定されている。


開始時刻は22時。


閃とエレシャは少し早めの21時30分には会議場所へ来ていた。


それまでの間、2人は変わらず談笑していた。


閃もエレシャも人見知りをしない性格だ。


さらにエレシャは好奇心旺盛で、異国から来た同年代の神術者である閃に強い興味を抱いていた。


そんな2人の様子を、少し離れた場所からリビアは眺めていた。


(エレシャ姫、とても楽しそうだ)


自然と頬が緩む。


(それに閃も……)


(礼儀はしっかりしているが、必要以上に萎縮もしない)


(安心して姫様を任せられるな)


リビアは心の中でそう評価していた。


これまで国内外を問わず、数多くの人間を見てきた。


王位継承争いの中では、なおさらだ。


嘘、裏切り、欲望——人間の醜い部分も嫌というほど見てきた。


だからこそ、人を見る目には自信がある。


理屈ではなく、長年の経験からくる直感だった。


リビアは閃を、信頼できる人間だと早い段階で判断していた。


そして、その確信はさらに強くなっている。


そもそも、少しでも危険を感じる相手なら、エレシャと2人きりになどさせていない。


もし警戒していたなら、もっと事務的な対応を取っていただろう。


それはカカロも同じだった。


無口な彼は何も言わない。


だが、考えていることはリビアと大差ない。


救援とはいえ、信頼できない相手を姫の近くには置かない。


そんな中、ふとリビアが閃へ視線を向ける。


「ん?その香り……閃、お前それ女性用だぞ」


リビアが指摘した。


閃から漂っているのは、エレシャが使っているシャンプーやボディソープの香りだった。


「知らずに使っちゃって」


閃は苦笑いを浮かべる。


「いいじゃない」


エレシャは楽しそうに言った。


「私、この香り大好き」


たしかに同じ香りがする。


「男性用ってどんな感じなんですか?」


閃は興味本位で尋ねた。


「基本は無臭だな」


リビアが答える。


「男は香りを付ける文化がないんだ」


「へぇ……」


閃は感心したように頷いた。


「まぁ、文化の違いもあるしな」


「すまない。気にするな」


リビアは笑いながら言った。


「はい」


閃も笑顔で答えた。



22時。


見張りを担当する者を除き、全員が洞窟内へ集まった。


中央には簡易的な机が置かれ、その周囲を兵士や協力者たちが囲んでいる。


リビアは閃にも状況を共有するため、改めて現在の情勢について説明を始めた。


まず、戦力差について。


エレシャ派とギシャ派の戦力比は、およそ3対7。


兵力だけを見れば、エレシャ派は明らかに劣勢だった。


対して国民からの支持率は逆だ。


およそ7対3でエレシャ派が上回っている。


民衆の多くはエレシャを支持していた。


しかし、それだけでは戦況を覆せない。


現在、ギシャ派は王宮を含む王都全域を完全に支配下に置いている。


政治、軍事、物流——その全ての中心を押さえられている状態だった。


さらに状況を悪化させているのが、拠点の問題。


4つ存在した拠点のうち、1つは既にギシャ派の襲撃によって壊滅している。


残る拠点は、ここを含めて3つ。


しかし、それらもいつ発見されてもおかしくない状況だった。


「正直に言えば、全ての拠点が攻撃を受けるのは時間の問題だ」


リビアは重い口調で言った。


だからといって、拠点を移動すれば解決するわけでもない。


移動中は警備が手薄になる。


大人数が動けば発見される危険も高まる。


さらに、慣れた拠点を離れることで防衛能力も低下する。


そのため、エレシャ派は危険を承知の上で同じ場所に潜伏を続けていた。


だが、その選択にも限界がある。


現状は、まさに消耗戦だった。


もちろん、これまで何度も先制攻撃の案は出ている。


ギシャ派が攻めてくる前にこちらから叩く。


しかし、その案は採用されなかった。


理由は明確だった。


それはギシャの望む展開になってしまう。


戦闘が激化すれば、犠牲になるのは兵士だけではない。


巻き込まれる国民も増える。


何より、エレシャ自身が危険に晒されてしまう。



「もし、この拠点に攻め込まれたら……これ以上、逃げ場はないだろう」


リビアは静かに言った。


洞窟内の空気が一段と重くなる。


「つまり——ここが戦場になる」


「閃、改めて言う」


リビアはゆっくりと閃へ視線を向ける。


「閃の任務は“エレシャ姫の護衛”だ」


「我々と共に戦うことではない」


「もし、その時が来たら——」


「エレシャ姫を連れて他拠点へ向かえ」


「それが最優先事項だ」


リビアは一言一言を噛み締めるように続ける。


「もちろんです。エレシャ姫は僕に任せてください」


閃は迷うことなく答えた。


その言葉には強い決意が込められていた。


ふと隣を見る。


エレシャは複雑そうな表情を浮かべていた。


悲しみや苦悩、そして覚悟——様々な感情が入り混じっているように見える。


これまで失ってきたもの。


守れなかった人たち。


王位継承争いの中で背負わされてきたもの。


きっと、その全てが彼女の胸にあるのだろう。


その時、カカロが静かに口を開く。


「……たとえ、ここの誰かが、目の前で殺されたとしても……」


低く重い声が響く。


「迷わず、行け」


カカロは真っ直ぐ閃を見据えていた。


その眼差しには一切の迷いがない。


口数は少ない。


だが、その言葉には彼自身の覚悟が込められていた。


それは、この場にいる全員が自分たちが囮になる可能性を理解した上でここにいる。


その事実が閃の胸に重くのしかかる。


だからこそ、任務を果たさなければならない。


閃は力強く頷いた。


「分かりました」


短い返答だったが、その覚悟は十分に伝わった。


その後、閃は自身のエーテルスキルを用いた退避方法について説明を始めた。


より確実に、より安全にエレシャを脱出させるための案を提示していく。


カカロ、リビア、兵士たち、そして協力者たちも意見を出し合い、議論は続いた。



「ギシャ王子の側近には、謎の協力者がいる」


リビアはそう切り出した。


「謎の協力者?」


閃は首を傾げる。


「常に紫色のローブを纏っていてな、顔も深く覆われているため、素顔を見た者はいない」


「その者がギシャ王子の側近になったのは、今からおよそ3年前」


リビアは淡々と説明した。


「周囲の者たちは奴を“司祭”と呼んでいる」


洞窟内の空気が少し張り詰める。


ただの側近ではない。


誰もがそう感じていた。


その時、エレシャが静かに口を開いた。


「その司祭の名は“ラ・オーマ”」


「そして、おそらく——神術者です」


「!!」


閃は思わず目を見開いた。


「閃が、私を神術者だと気付いたように……」


「私もラ・オーマに同じ感覚を抱きました」


「私が神術者として覚醒した後、一度だけ王宮にいる彼を遠くから見たことがあります」


「その時に感じたんです」


エレシャの表情は真剣だった。


ファクター同士だからこそ分かる感覚。


言葉では説明できないが、確かに存在するものだ。


「なるほど……」


そして、一つの結論に辿り着く。


「だから、ファクターがいるオルフェに救援を頼んだんですね」


リビアが頷く。


「そういうことだ」


もしラ・オーマが本当に神術者ならば、通常の兵士では対抗が難しい。


ならば同じ神術者の力が必要になる。


そのためにオルフェへ協力を要請したのだ。


「ラ・オーマがギシャ王子の側近になってから、確実に力が増した」


「軍事面だけじゃない」


「情報戦も、政治工作も——何もかもだ」


リビアは険しい表情で言った。


「たしかに……因果関係はありそうですね」


閃はそう言いながら考え込む。


もし相手が本当にファクターなら——


今回の任務は、想像よりも遥かに危険なものになるかもしれない。


そんな予感が、胸の奥で静かに膨らみ始めていた。

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