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エーテルコード:ヴァリアスワールド  作者: エトコッコ
エジプト篇

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第3話「拠点」


「すまないね。少し遠回りになってしまって」


ギャッツはそう言った。


「……もしかして、つけられてます?」


閃は視線を外さないまま尋ねた。


「いや、おそらく大丈夫だろう」


「だが——念のためさ」


ギャッツは慎重な口調で答えた。


閃は黙って頷く。


ギャッツのような民間の協力者は決して少なくない。


しかし、エレシャ派の拠点の場所を知る者となると、その数は大きく限られる。


覇権争いにおいて、内通者の存在は珍しいものではない。


むしろ、どの勢力にも潜んでいると考えた方が自然だった。


実際、それが原因で壊滅した派閥も存在する。


だからこそ、ギャッツは慎重だった。


少しでも危険の芽があるなら、徹底的に潰しておく。


それが、生き残るために必要なことだった。



「ギャッツさんは、どうしてエレシャ派に?」


閃は尋ねた。


「早い話が、最も信頼できるお方だからさ」


ギャッツは穏やかに答えた。


「ソランティス王国は、確かにその長い歴史の中で武を重んじてきた国でもある」


「そういう意味では、エレシャ姫よりギシャ王子の方が向いているのかもしれない」


「だが、歴史が変わるように——国も人も変わっていく」


「今の時代に必要なのは、エレシャ姫のように対話を大切にできる存在だと私は考えている」


「将来のソランティスのためにもね」


ギャッツはそう語った。


「……よく分かります」


閃は深く頷いた。


かつてエドワードと対立した際、最後に選んだのは力ではなく対話だった。


だからこそ、その考えには強く共感できた。



「ギシャ王子は?」


今度は閃が尋ねた。


「ギシャ王子か……」


ギャッツはわずかに表情を曇らせた。


「彼は武闘派——というより、過激派だ」


オルフェでも話は聞いていた。


ギシャは反オルフェ派として活動し、過去には襲撃にも関与している。


それを思えば、十分に想像できた。


「ギシャ王子は危険だ……」


「目的のためなら、身内であろうと平然と切り捨てる」


「“手段を選ばない狡猾さ”という意味では、誰よりも優れているだろう」


ギャッツは言った。


「見た目で判断しちゃいけないのは分かってるんですけど……そんな感じはしますね」


閃はオルフェで見たギシャの顔を思い浮かべながら苦笑した。


「ギシャ派の工作によって命を落とした者は数え切れない」


「フェムカルン王子も、そのうちの1人だった……」


フェムカルン王子——かつてエレシャ派、ギシャ派と並び立っていた、もう一つの有力派閥である“フェムカルン派”の長。


そして当時、国内外から最も高い支持を集めていた人物でもあった。


フェムカルン自身もギシャの危険性を理解していた。


しかし、派閥内に潜入していたギシャ派によって命を落としたという。


「国の伝統とはいえ、身内同士で殺し合うなんて……残酷ですね」


閃は複雑そうな表情で言った。


「それは我々国民だって同じさ」


ギャッツは静かに答える。


「こんな争いを……望んでいる者ばかりじゃない」


「もし全員がエレシャ姫のようなお考えだったら——」


「争いも犠牲者も出ずに済んだだろうからね」


そう言うギャッツの声には、国の未来を憂う思いが滲んでいた。



「エレシャ姫……美人な方ですね」


閃はぽつりと呟いた。


「ははは!そうだとも!」


「ソランティス一の、いや——エジプト一の美人だ」


ギャッツは誇らしげに言った。


モニター越しに見ただけでも、その美しさは十分に伝わっていた。


気品と知性を感じさせる佇まいは、とても忘れられるものではない。


「ちなみに、今向かっている拠点には——さすがにいないですよね?」


いるはずがないと思いながらも、閃は一応尋ねてみた。


「いるに決まっているじゃないか」


ギャッツはあっさり答えた。


「ま、ままま、ま……!?」


閃はあまりの衝撃に言葉を失った。


「はっはっは!」


「緊張するのは当然さ。むしろ、エレシャ姫を前にして緊張しない男などいない」


ギャッツは愉快そうに笑った。


「エレシャ姫は、君にとても会いたがっていてね」


「本来なら今日会う予定ではなかったんだが……どうしても会いたいと仰られたんだ」


そう言うと、ギャッツは閃に向かってウインクを飛ばした。


「あ、あい、会いたがって……?」


もちろん、そういう意味ではないことくらい分かっている。


分かっているのだが——


閃の顔は見る見るうちに緩みきっていた。


到着して早々、王女と対面することになる。


予想もしていなかった展開に、心臓の鼓動が一気に速くなる。



エレカは街を離れ、次第に人気のない場所へと進んでいった。


窓の外に広がる景色も、建物の並ぶ街並みから荒々しい大地へと変わっていく。


「もうそろそろだ」


ギャッツがそう言った。


閃は自然と背筋を伸ばした。


やがてエレカは目的地へと到着した。


「着いたよ。ここは3つある拠点のうちの1つ——B拠点と呼ばれている場所だ」


ギャッツが説明する。


周囲にはテントや簡素な建物が点在しており、人々が忙しそうに行き交っていた。


その奥には、大きな洞窟が口を開けている。


ギャッツはライトを手に取ると、迷いなく洞窟の中へと進んでいった。


閃もその後に続く。


ひんやりとした空気が肌を撫で、足音だけが静かに響く。


(いよいよ……エレシャ姫に)


胸の鼓動はますます速くなっていた。


任務で来たはずなのに、今はそれ以上に別の意味で緊張している。


閃は高鳴る胸を抑えながら、洞窟の奥へと歩みを進めた。

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