第2話「案内人」
閃はエジプトの空港へ到着した。
入国審査を終え、無事に入国する。
預けていた荷物も問題なく受け取ることができた。
(わぁー……ついに外国に来たんだ)
まだ空港の中だというのに、目に映る光景は日本とはまるで違っていた。
初めて目にする景色に、閃は思わず周囲を見回した。
やがて気持ちを切り替えると、現地で合流する予定のエレシャ派の協力者を待つため、空港内のロビーへ向かった。
◆
15分後。
「こんにちは」
不意に後ろから声を掛けられた。
閃が振り返ると、そこには褐色の肌をした40代手前ほどのスーツ姿の男性が立っていた。
「こんにちは」
閃は軽く会釈しながら挨拶を返す。
「“千野チヒロ”さん——で間違いないかな?」
男性は確認するように尋ねた。
「そうでやん……そうです」
いつもの口調が出かけたものの、閃は慌てて言い直した。
「待たせてしまってすまないね。私はギャッツ——“案内人”だ」
男性はそう名乗った。
彼こそが今回の案内人。
つまり——エレシャ派の協力者だった。
「ギャッツさん。よろしくお願いします」
閃は頭を下げた。
「こちらこそよろしく頼むよ。とりあえず、移動しながら話そう」
ギャッツはそう言った。
閃は頷くと、ギャッツの後について歩き出した。
◆
ギャッツのエレカに荷物を積み込み、閃は助手席に腰を下ろした。
窓の外に広がる景色は、どれも閃にとって新鮮なものばかりだった。
見慣れない街並み、異国の人々、どこまでも続く空。
そのすべてに目を奪われ、思わず周囲を見回してしまう。
「エジプトは初めてかな?」
そんな閃の様子を見て、ギャッツは笑いながら尋ねた。
「はい。というか、海外自体が初めてです」
閃はそう答えた。
「そうか。エジプトもそうだが、ソランティス王国は美しい場所だよ」
ギャッツはどこか誇らしげに言った。
「楽しみです」
閃は笑顔で答える。
「ただ……今から向かう場所は、王都でも王国でもないんだ」
ギャッツが続けた。
「え?」
てっきりソランティス王国へ向かうものだと思っていた閃は、思わず目を瞬かせた。
◆
「ある程度——オルフェでソランティスの内情は聞いているね?」
ギャッツは前を見据えたまま言った。
「はい」
閃は頷く。
「今現在、王都はギシャ派の支配下にある」
「そして我々エレシャ派は、王国外の各拠点に身を潜めている」
ギャッツは淡々と説明した。
「なるほど……」
閃は小さく頷く。
ギャッツの話によると、王都がギシャ派の支配下となったのは、今から約3か月前のことらしい。
「情勢としては、ギシャ派が優勢なんですか?」
閃は尋ねた。
「兵力という意味では、ギシャ派が優勢だ」
「しかし、国民の支持率はエレシャ派の方が高い」
「割合で言えば、6対4といったところかな」
ギャッツは答えた。
「そうなんですね」
閃は感心したように言った。
「まぁ、あまり情報を詰め込みすぎても混乱するだろう?」
「とりあえずは、少しずつ理解してくれればいい」
ギャッツは穏やかに言った。
「お気遣いありがとうございます」
閃は頭を下げる。
「チヒロくん——いや、閃くん。お腹は空いていないか?」
ギャッツは笑いながら言った。
ここまで来れば、もはや偽名を使う必要はない。
「空きました!」
閃は即答した。
「ははは!そうか!」
「なら、まずはレストランに行こう。好きなだけ食べてくれ!」
ギャッツは笑いながら言った。
◆
その後。
いかにも高級そうなレストランで食事を済ませた2人は、再びエレカに乗り込んだ。
当然ながら、公共の場では当たり障りのない話しかできない。
食事中の会話から、ギャッツが不動産会社を経営していることも分かった。
整った身なりや高級なエレカを見れば、それも十分に納得できる。
エレカが走り出してしばらくした頃、閃はふと思い出したように尋ねた。
「そういえば、僕の“でっかい荷物”ってちゃんと届いてます?」
“でっかい荷物”——もちろん、バサラヲのことだ。
「もちろん。問題なく届いているよ」
ギャッツは笑顔で答えた。
(よかった……)
閃は胸をなで下ろした。
今回の任務において、バサラヲは欠かせない存在だ。
無事に到着していると分かり、ようやく安心できた。
その間も、ギャッツは目的地へ向かってエレカを走らせていた。
ただし、そのルートはどこか不自然だった。
最短距離ではなく、あえて遠回りをするように進んでいた。




