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エーテルコード:ヴァリアスワールド  作者: エトコッコ
エジプト篇

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第1話「エジプトへ」


機内、上空。


閃は1人、エコノミークラスの座席に腰を下ろしていた。


目的地はエジプト。


そこへ向かうことになったのは、とある任務を任されたためだった。


今からちょうど1週間前まで遡る。


◆◆◆


「えぇ!?エジプト!?」


司令室には、閃とトーマス、松永の姿があった。


「そう。今回、閃くんには単独任務をお願いしたい」


トーマスが言う。


「初めての海外で、しかも単独……」


閃は今まで一度も海外へ行ったことがない。


その上、今回の任務はかなり特殊なものらしい。


「不安なのは重々承知している」


「その上で、閃くんにお願いしたいんだ」


トーマスの言葉に、閃も表情を引き締めた。


「それは大丈夫なんですけど……その特別な任務って何なんですか?」


閃は尋ねる。


「そうだな。まず任務内容から伝えると、“護衛”だ」


「護衛……」


閃は首を傾げる。


「今から順を追って説明しよう」


そう言うと、トーマスはモニターを起動した。


映し出されたのは、一つの小国だった。


「エジプト北部に位置する小国家——“ソランティス王国”」


「ソランティス王国……?」


閃にとっては聞き馴染みのない名前だった。


トーマスは説明を始める。


「現在、この国では王位継承を巡る争いが起きている」


「もっと分かりやすく言えば、内紛だ」


「王族同士による覇権争いの真っ最中というわけ」


松永が補足する。


閃はモニターを見つめた。


「現在、王国は大きく2つの派閥に分かれている」


「1つ目は、“エレシャ派”——エレシャ王女を支持する勢力」


「そして2つ目が、“ギシャ派”——ギシャ王子を支持する勢力」


ソランティス王国は今、この二派によって事実上分断されている状態だった。


トーマスはそこで一度言葉を区切る。


そして閃を見た。


「今回、閃くんにはエレシャ派の護衛任務についてもらう」


「つまり——エレシャ王女の護衛だ」


閃は思わず目を瞬かせた。


予想していた任務とは、あまりにも違っていた。



「なるほど……任務内容は分かりました」


閃はそう言った。


「これだけ聞いても、不思議なことだらけでしょ?」


松永が苦笑しながら言った。


まさにその通りだった。


「これって、言ってしまえば一国内の争いですよね?」


「そこに介入して大丈夫なんですか?」


閃は率直に尋ねる。


もっともな疑問だった。


本来、オルフェは政治組織ではない。


他国の内政に関与することは、大きな問題になりかねない。


「その疑問に答える前に、まずソランティス王国の内情を説明したい」


トーマスはそう言うと、モニターの表示を切り替えた。


「ソランティス王国の王位継承争いは、今から約15年前に始まった」


「現国王ラゼフには8人の子供がいる」


「もっとも、8人全員が王位を争っているわけではない」


「当初は3つの派閥に分かれていた」


トーマスはそう説明した。


そして、その中の1人を表示する。


ギシャ王子——


「彼は、いわゆる過激派だ」


トーマスの声が少し低くなる。


「そして、反オルフェ派としても有名な人物だ」


「昔、イシュタールを含む複数の武装組織が世界各地のオルフェ施設を襲撃した事件を覚えているね?」


「はい」


閃は頷いた。


オルフェに所属する者なら誰もが知る事件だった。


もっとも、閃をはじめとするファクターズや訓練生は、当時まだオルフェに所属しておらず、その事件について知ったのもずっと後のことだった。


「その時、ギシャが保有する私兵部隊も襲撃に参加していた」


その言葉に、閃の表情が変わる。


つまり、単なる王位継承争いではない。


オルフェにとっても無関係では済まされない問題だった。


「ギシャ派が王権を握れば、ソランティス王国は確実に反オルフェ国家となる」


「だからこそ、今回の件は単なる内政問題ではないんだ」



「なるほど……」


閃は小さく頷いた。


話の全体像がようやく見えてきた。


「つまり、敵の敵は味方ってことですね」


閃が言う。


トーマスは頷いた。


モニターにはソランティス王国の各種データが表示されている。


「ソランティス王国は小国家ではあるが、その技術力と軍事力は非常に高い」


「だからこそ、その事態だけは何としても避けなければならない」


トーマスは真剣な表情で言った。


「確かに、よく分かります」


閃も納得する。


これはオルフェの将来にも関わる問題でもあった。


「本当はね」


松永がぽつりと呟いた。


「エレシャ派からの救援要請自体は、ずっと前から来ていたの」


閃は少し驚く。


「でも、イシュタールやファイの件で色々あったでしょう?」


「人員にも余裕がなくて、今まで対応できなかったのよ」


実際、この1年だけでも日本支部は次から次へと問題に巻き込まれている。


そのどれもが、オルフェにとって重大案件ばかりだった。


「そりゃ仕方ないですよね……」


あの状況で海外支援まで行う余裕がなかったことは、自分たちが一番よく分かっている。


「だから今回、ようやく派遣できることになった」


トーマスは閃を見ながら言った。



「出発は1週間後だ」


トーマスはそう告げた。


「なお、現在のソランティス王国は王位継承争いの影響で情勢が不安定になっている」


「エジプト行きの便や空港にも、ギシャ派の関係者が紛れ込んでいる可能性が高い」


「そのため、閃くんにはこちらで用意した偽装パスを使って現地へ向かってもらう」


トーマスは言った。


「それ、大丈夫なんですか?」


閃は少し不安そうに尋ねる。


「あ、法的な意味じゃなくて、バレないかって意味で」


任務上、身分を偽ること自体は珍しくない。


だが、見破られてしまえば意味がなかった。


「大丈夫だ」


トーマスは即答した。


「エジプトまでの移動ルートには、オルフェのエージェントも複数名偽装して配置されている」


「それに加えて、ソランティス王国のエレシャ派にも協力者がいる」


「現地に入ってからは、その協力者たちのサポートを受けてもらうことになる」


「特に現地では、そちらの支援がメインになるだろう」


「分かりました」


閃は頷いた。


そして、ふと思い出したように尋ねる。


「あ、バサラヲは?」


その質問に、トーマスは小さく笑った。


「もちろん、バサラヲにも行ってもらう」


「バサラヲは閃くんより先に、貨物船で現地へ輸送する予定だ」


「バサラヲ、流石に派手すぎません?」


閃は少し顔をしかめた。


世界でも珍しい専用ED。


目立たないはずがない。


しかしトーマスは落ち着いた様子で答える。


「バサラヲも閃くんと同じように偽装する」


「偽装……?」


閃は首を傾げた。


バサラヲを偽装する。


その言葉の意味がよく分からない。


すると、横にいた松永が笑顔で口を開いた。


「大丈夫よ。貨物船にもオルフェの職員が乗ってるから」


その笑顔を見て、閃はなぜか嫌な予感がした。



そして、1週間後。


「気をつけてねー!“チヒロ”ちゃーん!」


リオが満面の笑みで手を振る。


「いってくるでやんす!!」


閃も元気よく手を振り返した。


その隣では松永も笑いながら見送っている。


こうして、閃は空港へと向かった。


少しでも怪しまれないよう、今回の任務では徹底した偽装が施されている。


服装はごく普通の私服。


荷物もリュックとトランクだけ。


普段身につけているスマカは持たず、代わりに一般人向けへ偽装されたリスバのみ装着していた。


もちろん、座席もエコノミークラス。


どこにでもいる、ごく普通の旅行者。


それが今回のコンセプトだった。


そして、閃に与えられた偽名は——“千野 チヒロ”という名前だった。


この1週間の間、松永や他の職員から何度も“チヒロちゃん?フルネームは?”と確認され、“千野チヒロでやんす!”と答えさせられている。(“やんすはいらない”までがセット)


そのせいで、今では反射的に答えられるほどだった。


(エジプトかぁ……)


閃はトランクを引きながら空を見上げる。


人生初の海外、しかも単独任務。


不安がないと言えば嘘になるが、同時に楽しみでもあった。


ソランティス王国。


モニターで見た、上品さと妖艶さを兼ね備えたエレシャ王女の美しい姿。


閃は新たな任務への期待と緊張を胸に、空港へと足を進めた。


◆◆◆


『目的地まで、あと3時間です』


機内アナウンスが静かに流れた。


閃はそれを聞き流しながら、BW SPに視線を落とす。


画面に映っているのはドンドンモンキーRRRアールズ、新作のソフトだ。


気が付けば、離陸前からずっと遊んでいる。


周囲から見れば、ゲーム好きの若者そのものだった。


ゲームをしたり、機内食を食べたり、時々窓の外を眺めたり——目的地へ到着するまでの時間を、できるだけリラックスして過ごしていた。

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