星魔法
「目の前の魔物を、倒す力を。家族を殺したあの魔物を、刺し違えてでも倒したいと思ったんだ」
「ルーク…」
シスターは、彼の言葉を聞いて悲しそうに瞳を揺らしていた。
彼の悲壮な覚悟は、親としては単純に喜ぶことができなかったのだろう。
一方姫は、得心がいったと言わんばかりに頷いていた。
「それじゃ。魔物がおるという“環境”に適合する為に生み出した力。それも、生死を越えた強い願い…。その強い願いが、マナを感じられない殻など簡単に破ってしまったのであろう」
「願い、か…」
ルークは、姫の言葉を耳半分で聞きつつ過去を思い出していた。
一瞬一瞬の全てが、ついさっきのことのように頭に過る。
…確かに、命を賭けた願いだった。
どんなに願っても…叶わないと理性で思っていたハズなのに、それを押し退け後に残っていたのは…強い衝動。
そしてあの超常的な力は、正にその願いが届いたとしか思えないようなタイミングだった。
「誇るが良い。そなたは、そなたの命を賭けるほどの純粋な祈りをしたからこそ、皆を守ったのじゃ」
姫は柔らかく言った。それは労わるような、優しくも甘えたくなるような響があった。
「さて、ここから更に本題じゃ。そなた、そう願う前に何を見ておった?」
姫の質問に、ふと思い浮かんだのは夜空。
あの絶望した時に見上げた、恐ろしいくらいに暗い空だ。
そして、その暗闇に散りばめられた星々と、溢れる僅かな星の光。
「…星空」
「星、とな?」
「ああ。あの時俺は、無我夢中だった。誰でも良いから、力をくれって…気がついたら、空を見上げてたんだ」
神様が、何処にいるかなんて知らない。
いるのかさえ、疑わしく思ってた。
けれども、気がついたら…空を見上げていた。
それは、いつものシスターが祈る姿のように。
「…決まりじゃ。そなたの魔法は、【星魔法】じゃ」
得心したように、姫は自信げに言った。
けれども、それを聞いた側である2人にはイマイチ伝わらない。
「…【星魔法】?」
ルークが疑問を口にするよりも前に、シスターがそれを言葉にした。
「うむ。そなたの魔法を見ただけでは、【光】かとも思ったが…しっくりこなかった。じゃが、そなたの話を聞いて、やっと確信したのお」
「ですが、私は星魔法など聞いたことがありませんよ」
シスターの言葉に、姫は苦笑を浮かべる。
「それは妾もじゃ。…まっこと、そなたは珍しいの」
褒めているのだか、褒めていないのだか分からないその言葉。けれども、ルークは内心混乱していてそれどころではない。
「“ 聞いたことがない”って…そもそも、魔法の形は千差万別なんだろ?なら、聞いたことがないのが当たり前なんじゃねえの?」
「いや…確かに魔法の形は、千差万別。しかし、大概分類することができるのじゃ」
「姫様の仰る通りです。例えば、私の魔法【結界魔法】は、一族に代々継承されるので、一族の者なら殆ど扱うことができます。けれども、結界と一口にいっても様々な種類があり、使い手によってどのような結界を生成するようになるのかは全く変わってくるのです」
魔法とは、“イメージの力”。そして、その力が源にあるからこそ、“個性”が魔法の中に生まれるのだ。
けれども逆に人の個性は、傾向がある。
それと同じように、魔法にも属性や傾向といったものが存在する…というわけだ。
もっと詳しく言えば、血族に伝わる魔法と、突然扱えるようになった魔法。
前者は、その大きな属性という枠組みを代々受け継ぎ、その中でどのような魔法を扱うのかが分かれる。
先ほどシスターが言った言葉も、然りだ。
例えば、シスターのように結界に様々な効果を付与する者。
罠のように遠距離で扱う者。
攻撃に転用する者。
それこそ、【結界魔法】という枠組みの中で、どのような形となるかは千差万別だ。
魔法師の家系の出でない魔法師も、環境で似通ることが多い為、必然的に似通った魔法を使う者というのは存在する。
特に“火”や“水”、“土”など身近なものがイメージの元となることが多い。
「話は戻すが…【星魔法】など、妾の長い人生の中でも聞いたことがない。おまけに、血族の者でない者が自然系の魔法以外を発動させるなど、何百年ぶりか。そなたは実、稀有な存在なのじゃ」
「それで?そろそろ、どうやって魔法を使うのか教えてくれよ」
「おお、すまなんだ。…では、今から妾がそなたにマナを直接流す。それを感じ取れ」
そう言って、姫はルークに手を翳した。そして、握手をするように彼の手を握る。
「では、行くぞ」
そう、言った時だった。繋がれた手を通して、温かい何かが彼の身体に流れ込んでくる。
「なんだか、あったけえな」
「それが、生命エネルギー…マナじゃ。今感じておるマナを、全身に行き渡るようにイメージしろ」
その指示通り、ルークは繋がれた手から腕・肩・身体と次々とその温かいモノを張り巡らせていった。
姫は、じっとその彼の様子を眺める。
「うむ。中々の出来じゃ」
姫は満足そうに言って、手を離した。
瞬間、体内に流れるマナも失くなるかと思いきや、先ほどまでの温かみはないにしろ、確かに仄かな温かさを感じる。
「今度は妾の補助なしに、マナを感じ取れ。世界のマナを、大気から取り込むのじゃ」
そうは言っても内側のマナと同じマナが、外側からは感じられない。
「因みに、さっきのマナは妾が圧縮して向けた。その方が、そなたも感じ取りやすいかと思ってのお」
簡単に言っているが、普通はできない。
マナを圧縮するという行為は、マナを敏感に感じ取り完璧に操ることができるというのが必要不可欠だからだ。




