不審者
「そんな…どうしてですかっ?!ルーク…」
シスターは、悲しそうに叫んだ。
「どうしても何も、シスターがさっき言ったのと同じだよ。…俺にとっちゃ、あんたは大切な家族だ。それに、生き残る可能性が俺の方が高いなら、俺が行くべきだろ」
「ルーク…」
「あ、あと姫様。もう1つ、条件というかお願いがあるんだけど…」
「なんじゃ?申してみよ」
「その、さ……。俺、魔法の使い方良く分からんから、行く前に教えてくれねえか?」
言い難そうに、ルークは言った。今更なその言葉に、姫だけではなくシスターまで目を丸めて驚いていた。
「そなた…魔法の使い方が、分からないとな?あんなに強力な力を、使いこなしておったのに」
「しょうがねえだろ。あの時まで使ったことなんて、皆無だったんだから。そもそも自分が魔法使えること自体、知らなかったんだ」
「なんと…そなた、生まれた時から魔法が使えたワケじゃなかったのか?」
「勿論。そんな力あったら、それで金稼いでるよ」
「むむ…そなたなら、本気でやっておりそうじゃしのお。では、そなたの親族が代々魔法使いを輩出しておるとかか?」
この世界で、魔法が使える人は次の2つの種類に別れる。
1つは、代々家系に受け継がれて輩出するタイプ。
そして、もう1つは圧倒的に数が少ないが……家系的には魔術師ではないのに魔法を扱えるようになった突然変異。
どちらにしろ、生まれた時から扱えるのが特徴である。
「さあ…」
今度は、彼が苦笑いを浮かべる番だった。何せ、彼は気がついた時から路地裏にいたのだ。親族のことなど、知る由もない。
「ふむ…まあ、良い。魔法は、妾が教えてやろう。そうと決まれば、早速行くかの」
そう言って、姫はゆっくりと立ち上がった。その所作1つを取っても、丁寧で品が感じられる。
「姫様、私も共に参ります」
「好きにせい」
ルークは、2人の後を追った。
豪奢な廊下を出て、謁見の間とは反対の方向へと歩く。途中、女官にすれ違うことがあったが…誰もが、ルークとシスターを不審な目で見ていた。その視線に、彼は内心首を傾げる。
「なあ、シスター」
こそりと、姫の後に続きながらシスターに話しかけた。
「なんです?ルーク」
「俺はともかく…どうしてシスターも、不審な目で見られてるんだ?護衛なら、女官達とも顔見知りだろう?」
「ああ…そのことですか」
シスターは、クスリと笑った。
「私は、普段結界で姿を隠しています。だから、こうして堂々と歩いたことは殆どないのですよ」
「へえ…結界ってそんなこともできるのか」
「ええ。単に攻撃から身を守るだけでなく、対象の姿を隠したり、逆に結界で攻撃をしたりと…自分の力量次第で、魔法は色々なことができるのですよ」
「ふーん。…姿を隠すのは、内政干渉を避ける為?」
「ええ」
なるほど、と今度こそルークは納得した。
王宮の…それもこんな奥深くに、他国の者が出入りするなどということを、国内の者にも第三者の国にも知られるということは、マズイ。
まず第一に、自分の国の者に見られた場合。それこそ、内政干渉と騒がれる上、下手をすれば王族の威信にも関わる。
第二に、第三者の国に見られた場合。それこそ、王国自体が侮られる上、最悪姫の存在が他国に露見するかもしれない。
そして第三に、あまりに教国に権限を与え過ぎてしまえば……その権限を利用して国を乗っ取るキッカケを作り出してしまうかもしれない。
何れにせよ、国を運営するに当たってリスクしかないのだろう。




