不死
「…信じる信じないは置いておいて、話を進めて下さい」
「別に敬語は良いぞ?そなたに敬語は、しっくりこんからの」
「……じゃあ、質問させて貰うけど。……あんたは、不老不死なのか?」
「いや……妾はあくまで、ヒトの肉を持つ。故に老いることもあれば、病に罹り死ぬこともある」
姫の言葉に、ヴァンは首を傾げる。
「じゃあ、どうしてあんたイコール巫女なんだよ?世襲制って意味なのか?」
「いいや。妾は列記とした聖書の巫女そのものじゃ。妾達はの、死んで生まれ変わるのじゃ。記憶をそのまま引き継いで……の」
ヴァンは、顔を顰めた。
信じる、信じないは置いておいて、仮にそれが本当だった場合……それは、最早神の御業というよりも呪いに近い。
人が生まれ変わるということも定かではないが、生まれ変わって前世の記憶を鮮明に覚えていたとしたら……。
死ぬ瞬間の苦しみも、忘れ去りたい悲しみも全て覚えていることになる。
何度も何度も、親しい人達との別れを繰り返しつつ。
それも、彼女の言葉を信じるならば……数十代に渡って。
それはつまり、休むことも許されず……ただただ世界の為に、在るということだ。
果たして、自分は望むだろうか? 独り未来永劫生き続ける、終わりない生を。
そんなルークの考えを見て取ったのか、姫は興味深そうに彼を見つめていた。
もし人が永遠に存在し続けることができると聞いてどう思うだろうか?
不完全ながらも不老不死として、羨むかはたまた人外として、畏れるか。その、どちらかではないだろうか。
けれども、彼はそのどちらでもなかった。
永遠に存在し続けることの欠点を、言うまでもなく察している。
そんな人物は、彼女の長い記憶の中でもたったの2人しかいない。
「…あんたの境遇は、理解はできないけど……重い、な」
真っ直ぐな瞳で、キッバリとそう言われれば、彼女も笑うしかなかった。
「ふふふ……そうか」
嬉しそうに……けれども少し寂しそうに。
「では、話を戻そうかの。妾らはイシュア神より鍵と門を与えられた。妾には、鍵が……そして教国におる巫女エメルには門がそれぞれ与えられたのじゃ。それ故、妾らは幾度も生まれ変わって、管理してきた」
「……鍵と門は、お前らが死んで生まれ変わる間はどうなってるんだ?」
「鍵と門は形あるものではない。妾らの魂に刻みつけられたもの。……そういった意味じゃ、我らの存在自体が鍵と門と言っても差し支えがない、な。死んで生まれてくるまでの間は、眠っているような状態……とでも言うか」
「なるほど、な」
聞けば聞く程、この“装置”はよくできている。
本人が生まれ変わるというのなら、間違った伝承が受け継がれることはない。
また、本人と同化しているというのなら本人以外に力の行使をすることはできず、無闇矢と乱用されることもない。
そういった意味じゃ、神様は完全に人を信用したのではなく……単に人の監視役として、2人を生贄に選んだのではないかとさえ思えてくる。
「ここまで理解してくれたのなら、話は簡単じゃ。此度の魔物騒動の事態を収拾す る為、エメルが貼られた符を起点に大陸全土を魔力で覆い、妾が魔力で神を呼び起こす」
言うは容易いが、決して楽なことではない。
そもそも大陸全土に魔力を張り巡らせるなど……一体どれだけの魔力と魔力コントロールがあれば成し遂げることができるのだろうか?
「スケールがデカ過ぎて、想像もできねえな……」
「仕方なかろう? それだけ神の力は強大なのじゃ。それを呼び起こすには、それ相応の対価も必要ということよ」
それを聞いて、ルークはふと疑問を感じた。
「……なあ。そもそも、何でそうまでしてカミサマを呼ぶんだ?」
「はて……どういう意味じゃ?」
「王様もあんたも、鍵と門を使ってカミサマを呼ぶ為に符を張る必要があるという説明しかしてねえ。けど、そもそも何故カミサマを呼ぶのか、その理由が分からないんだよ。呼んで、カミサマは何をしてくれるんだ?」




