謝罪
再び、彼女は小さくため息を吐いた。そして、顔をルークに向ける。その表情は、先ほどまでの冷たいものから一変、柔らかなそれだった。
「…ルーク。話を始める前に、まずは此奴らの非礼を詫びよう。誠、申し訳なかった」
そう言って、彼女は頭を下げる。
「貴女が謝る必要はありません」
彼らの物言いを許した訳ではないが、彼女が謝る道理はない。そんな意味を込めた言葉を、彼女は正確に察して尚、頭を下げ続ける。
「そうはいかぬ。それでは妾の気が収まらぬでな」
「では謝罪を受け入れるので、頭を上げて下さい」
「そうかの?…では、改めて。妾の名前は、ヴェル・バルトゥス=ヴェルメル。この国の第一王女である」
彼女の自己紹介に、ルークは内心首を傾げる。この国にいる筈のない第一王女という肩書き故に。何より、先ほどの王とのやり取りは、王よりも明らかに格上な存在として振舞っているように感じてならなかったからだ。“唯の”第一王女では、臣下は兎も角、王まであんな態度で接することはないだろう。
ルークの疑問を読み取ってか、彼女はクスクスと笑い始めた。
「…解せぬか?」
「いえ…」
「そう固くならずとも良い。…ふむ。それにしても、随分警戒されてしもうたな。どうすれば良いのじゃろうか。…なあ?シスター」
彼女の視線の先を見れば、確かにルークの養い親であるシスターアンドレスが、そこにはいた。
そのことに、再びルークは驚愕し混乱する。
「…姫様が、脅かし過ぎるからですよ」
シスターはいつもと変わらない、静かな佇まいでそう答えた。
「シスター、どうしてここに…」
ルークの言葉に、シスターは“後で説明する”と言わんばかりに申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「それは仕方なかろうて。先ほどの言葉を聞いて、妾も気分を害しておったのじゃ」
「ですが、姫様の御言葉は苛烈過ぎます。それに、彼らの対応を見ればルークが疑問に思っても仕方がないでしょう」
「そうかのお…」
彼女はしばし思案するように、視線を遠くに向けた。
「まあ、良い。この話は終わりじゃ。ルーク、妾はそなたともう少し話がしたい故、ついて来て貰えぬか?」
「お待ち下さい」
立ち上がった彼女を押しとどめるように、先ほどまで黙っていたキイスが口を開いた。
「何方に行かれるのですか?…いくら姫様とはいえ、このような得体の知れないモノと行動を共にされるのは…」
「私も共に参ります」
今度はシスターがキイスの言葉を遮るように、口を開いた。
「それに、何です?先ほどから話を聞いていれば、まるで私の息子を不審者のように扱って…」
ギロリと彼女はキイスを睨む。キイスも負けじとシスターを睨み返していた。
この2人、本当に仲が悪いんだな。…絶対零度の空気を醸し出している2人に対して、ルークは冷や汗を流しつつそんなことを思っていた。
そもそもシスターが、ここまで敵対心を剥き出しにすることが珍しい。それが顔を会わせる度に、立て続けに睨み合っているのだ。誰でなくともその感想に至るだろう。
姫もそう思ったらしく、間に入るように口を挟んだ。
「やれやれ…そなたらは相変わらずだの。キイス、そなたの忠誠心は天晴れだが、他の者には聞かれたくない話をする故、止めても無駄であるぞ」
キイスは納得したのかは分からないが、頭を下げて了承の意を示す。
「良し、では行こうかの。ルークとシスターは着いて参れ」
シスターは楚々と彼女の後ろを着いて行く。彼も立ち上がり、後に続いた。
先ほどまで、いつここから抜け出し帰るかとばかり考えていた彼だったが、すんなりと彼女の後を追っている。
それだけ、シスターと姫の関係が気になって仕方なかったからだ。
彼は玉座の横を通り抜け、先ほど入ってきた方とは逆の扉から部屋を出た。
途中、王やその他の者たちに退出の挨拶をし忘れたことを思い出したが…如何せん、先程のやり取りですっかり敬う気持ちを失くした為、それも良いかと歩きつつ流す。
廊下は、流石王宮というだけあって手の込んだ造をしており、彼方此方に美術品と言って差し支えのない品物が無造作に置かれていた。
そんな景色を楽しみつつ歩くこと、数分。
謁見室ほどではないが、やはり豪奢な造りをした部屋の中へと彼らは案内された。
部屋の中は特段何かが置かれている訳ではなく、中央にテーブル があり、それを囲むようにソファーが置かれてある。
さしずめ、応接室のようなところだった。
「ほれ、シスターとルークはそちら側に掛けるが良い」
姫の指し示した方に、2人は腰を降ろす。
座った瞬間、今まで座ったこともないような柔らかな感触に、ルークはほんの少しの間驚きつつも楽しんでいた。




