王女
その場を、重い沈黙が覆った。
貴族と臣下はようやく自分の失態に気づき、言葉を発せない。
キイスはその場を静観し、王はどう言葉を紡ごうか思考している。
そしてルークもまた、如何にこの場を離れようかそのキッカケを待っているようだった。
…そんな、最中。
パチパチパチ…と、この場に似つかわしくない拍手が響き渡った。その音の先には、先ほどまでいなかった女性がいた。
彼女はルークが入室してきたのとは別の、玉座横にある扉のところに立っている。
「ルーク、と言ったかの?アンドレスの養い子は肝が座っておる上に、頭が回る奴のようだな」
澄んだ声で、楽しそうに言った。そして彼女は、部屋の中へと足を進め玉座とルークの間へと向かう。
誰もが彼女の登場に驚いたように、ただただ見守っていた。ルークもまた、突然乱入してきた彼女に驚きを隠せない。
まさに凛、という言葉が似合う彼女。年は10代半ば…ルークよりも僅かに幼いといったところか。波打つ艶やかな金髪が似合う、美しい少女だった。
けれども彼女の真価は、その美しさにあるのではない。年の割に落ち着き切っていて、彼女の醸し出す雰囲気は、王をも越えるような覇気が感じられる。
ハッと1人の臣下が、我に返ったように口を開いた。
「姫様、なりませぬ。このようなところに姿を現れさせるなど…」
他の臣下や貴族たちもその言葉で我に返ったのか、口々に同じような言葉を述べる。けれども、彼女はそんな彼らに冷たい視線を寄越すだけで、その歩みを止めない。
ついに玉座に辿り着くと、その横の椅子に腰掛けた。
「全く、嘆かわしい」
深いため息を吐きながら、彼女は言葉を発した。
「そこのルークの申す通り、上に立つ者は下の者を守る為に在るというのに…一体いつの時代から、このように見下すだけの存在になったのであろうな?」
そう言って王に視線を向けると、王は黙って頭を下げた。
その光景に、ルークは更に驚く。
…一体この女、何なんだ?そんな疑問と共に。
明らかに、王よりも発言力が上にあることを示した彼女。けれども彼女がどういった存在なのか、彼には検討すらつかない。
「このような者らが上におっては、早晩民の心は国より離れるであろうな」
彼女の登場で、この場の空気は先ほどよりも厳かで重いものになっていた。
「そこの者」
「…は、はい…」
彼女に視線を向けられた貴族は縮こまって、返事をする。
「そなた…先ほど、妾に何故現れたのか問うたな?」
鋭い視線はを向けたまま、再度彼女は溜息を吐いた。
「そなたらでは、話にならぬからじゃ。先ほどから聞いておれば…何じゃ?その頭と口は飾りか?ルークを身分で判断し、嘲り、否定するばかりで何の話にもなっておらぬではないか」
「…しかし、姫様…」
「言い訳は聞きとうない。先ほどの言葉が、そなたの本心なのであろう?弁明などいらぬ。妾の前では、聞く価値のある言葉しか申すな」
彼女の冷たい言葉に、男は顔を真っ青にさせながら、ただただ平伏するばかりだった。




