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God knows  作者: 紅亜
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反発

王の言葉は、謁見室に響いた。その声色はただの一点の曇りなく、真摯で心の篭ったものだった。


…けれども。


「無理です」


ルークは首を横に振りながら、呟いた。その声はしっかりと部屋の隅々まで響き、更に貴族や家臣らの反発の声が高まる。


「平民のくせに…」


「我らが王の言葉を拒否などと…」


けれども、その当の本人はそれでも怯まない。


「そんな魔物相手に、俺1人で戦うなんて無理です。生き残りの魔法師団に頼むほうが、より確実だと思います。それに、俺にも俺の守るべき家族がいますから…」



ルークの言葉は、周りの者たちには火に油だった。反発する声が、最早ただ喚き散らしているのではないかと思わせられるほど、悲鳴に近い叫び声になったのだ。


「魔法師団を使えるわけなかろう!こんな、戦時中にそんなことさせれるか!彼の軍団は、戦争の為に温存しとかなければならん」


「そうだ!それに、平民には身に余る光栄だろ?どうでも良い存在など忘れて、さっさと魔物を倒してこい!」


余りに酷い物言いに、ルークの顔が歪む。


彼らの言い方は、“平民は代わりがきく”ものであり“平民の命は軽いもの”だというようにしか聞こえない平民であるルークの気分が害されても、仕方がないことだった。


更に言えば、それは国の上に立つものとして余りにも配慮が欠けたものだ。


…だからなのだろう。この国の1番上に立つハズの王も、さすがに貴族と家臣たちの物言いには顔を歪めていた。


「この国の王よりも、どこの馬の骨とも知れぬ子供たちの方が大切だと言うのか…っ?」


その言葉に、ルークの中で何かが切れた音がした。


「…そうだよ」


呟くような、小さな声。けれども、周りはそれにシンと静まり返っていた。


…正確には、彼の言葉というよりも彼自身の様子に静まり返らざるをえなかった。


「国が、何だっていうんだ?俺にとっちゃ、国なんざよりもチビ達の方が数百倍大切なんだよ」


開き直った…とでも言おうか。最早、ここに連れて来られたばかりの時の戸惑いは一切見えない。代わりに見え隠れするのは、激怒というには冷た過ぎる雰囲気。正に、先ほどのアンドレスが見せた気配とそっくりのそれだった。その表れか、敬語を使うことも止めて、すっかりいつもの口調に戻っていた。


「…ぶ、無礼であるぞ!王を、何と心得るか!」


「あんたらこそ、国を…民を何だと思っているんだよ?」


「なっ…」


「あんたらにとっちゃ、ただ税を納める下僕としかないかもしれないけれどもな?その税を納める奴らがいなけりゃ、国は成り立たないんだよ」


ルークは、嘲笑した。その表情は、十代の青年がするようなものではない。嘲笑うというよりも、侮蔑が込められているような目つき。


「俺らにとっちゃ、王国だろうが帝国だろうが上なんて関係ないんだ。俺らが欲するのは、安全と幸せが脅かされることがないと保証される国政だ」


「下民が…!貴い血筋を持つ我らに向けて、何たる口を…」


「あんたらこそ、王国に何の貢献をしているんだ?そんな偉そうな口を聞けるほどの何かを成したのか?」


横にいるキイスは、ルークの口を止めなければならないと思う一方で内心、舌を巻いていた。


「民があってこその、国だ。民が栄えなければ、国は栄えない。だからこそ、上に立つものは先頭に立って民を守るのだろう?…それを、何だ?さっきのあんたらはただ民を見下し、民の命を軽視した。そんな上が立つ国に、俺は俺の命を賭けたいとは思わない」


その雰囲気。その風格。どれを取っても、ただの平民には見えない。


…むしろ喚き散らすだけ、貴族や家臣の方が滑稽にすら見えた。


そして何より、彼が持つその視点。


…現王の御代となり、確かに識字率は上がった。けれどもそれはあくまで日常使うものであり、未だ政治・経済のような高度なものに関する本を読むことは難しく、それらの知識の普及はされていない。


だからこそ、ルークのような視点で物申すことにキイスは驚きを隠せないでいた。ルークの言葉は、その政治に携わる者と同じ視点で語っていたのだから。


キイスが感嘆している一方で、場の空気は益々緊張感が高まっていく。


「ま、真無礼な輩だ…!即刻捉えて…」


「俺を処刑するってか?別に構わない。その代わり、お前らの大事な駒が減るってだけだ」


その言葉に、キイスばかりか一切口を挟まないでいた王までが驚いた。


良い政治感覚を持っている…と。


国と国との交渉において、相手が求めるものを察知し、それを手札として如何に自分に有利な条件を引き出せるか…それが最も重要となってくる。


先ほどのルークの言葉は、正に自分がどれほど求められているか…それを察知し、切り込んできた。


その一言で、最早この場の交渉は彼が主導権を握ったといっても過言ではない。


それを狙ってやったか、素でやったのかは王にも判別はつかないが…。何にせよ、もしも違う出会い方をしていたのならば、是非召し抱えたいと思えるような男である…というのが王の見立てだった。


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