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God knows  作者: 紅亜
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一方を憎んで他方を愛し、あるいは一方に親しんで他方を疎んじる

彼女は彼を王宮近くの北区教会に運んで手当をした。


薄汚れた格好の下にいくつも残る、痛々しい傷跡。そして、全体的に痩せ過ぎな体つき。…その子どもがどのような状況に身を置き生活をしているのかが、一目である程度分かるような姿である。


最初は本音を言うと…その子どもと関わったことに彼女は後悔していた。


窃盗の罪を侵した子どもを、匿うようなこの行為。

教国と王国の外交上の問題もあるし、何より自分自身、イスト教の聖職者としての意識が忌むべき罪を侵した子どもを拒否している部分があった。


子どもの手当をしたことに後悔はないが…そんな意識が、素直に子どもの存在を認めることができないでいる。


やがて子どもは目を覚ますと、自分の置かれている状況に驚きつつ…しっかりと彼女に警戒をしていた。


その姿に、彼女は言い様のない哀しみを感じてる。…一体、このような“子ども”が、どうしてこんな目をしなければならないのか、と。


想像に余る苛酷な環境で過ごしたことを、察してしまった。それと同時に、この時、先ほどまで後悔していた自分を彼女は恥じていた。


そう考えている内に、当の本人は無理矢理起き上がろうとしていた。


それ に気づいた彼女はそれを押し留め、状況を説明する為に口を開く。


そうすることで、少しは警戒を解いてくれるかと僅かに淡い期待を寄せていたが…勿論、その子は警戒を解くことなどなかった。


逆にその子の言葉に、彼女自身がたじろがさせられた。


“じゃあ、どうしたら飯を食べられるの?”


“お腹が空いたから、飯を食う。飯を食うために、盗る。それのどこが悪いんだ?”


“さっきあんたは、神様っつう奴は人を助けてくれるって言ってたよな?けれども、俺を助けてくれる奴なんて誰もいない。なら、自分でどうにかするしかない”


…その少年の言葉の破壊力は、彼女のそれまで信じてきたものを揺さぶるには、余りあるものだった。


窃盗は、悪。…そう言えるのは、自分が安全圏内にいるからこそだ。寄り処のない、守ってくれる存在もないようなこの小さな子どもが…では、どうすれば生きてこれたのだろうか?


窃盗を悪と断じ、子どもに処罰を与えるとするなら…それはこの子の命さえ否定するのと同じ行為だ。


仮に誰かを責めるのなら…それは、子どもにこんなことをさせる環境に突き落とした世の大人たちではないだろうか。


何が、平等?


何が、恵みを授けん?


もし世が平等だというのなら…あの北区の裕福そうな家庭に生まれてくる子供たちとこの子は、何故こんなにも違うのだろう。


方や上流の家の出身として、好きなモノを食べ嫌いならば残し、 大人たちに甘やかされているのと…その日暮らしすら難しい南東区域に住むこの子と。


…何故、こうも違う?


これの、何処が平等なのだ?


自分が、どれだけ狭い価値観の中で生きてきたのかがよく分かった。


そしてそれと同時に、自分の思慮の浅はかさを恥じる。


ただただイスト教の教義に従い、法の下に生き、神に祈りを捧げてきた彼女。


教義に染まらぬ者は、悪。


法を従わぬ者は、悪。


単純明快な、価値判断だった。


けれども、ならば…この子どものように法に守られず、教義にも守られない子供はどうすれば良いのだろうか。

それでも、それを受難として受け止め甘んじて死ぬ為に生きよというのか。…それは、あまりにも惨い。


目の前の子供を今の状況から救ってあげられないことこそ…悪なのではないだろうか。


そう思い至った彼女は、強引にその子をここに引き止めた。












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