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God knows  作者: 紅亜
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狭い門から入りなさい。滅びに至る門は大きく、その道は広い。そして、そこから入って行く者が多い。

シスターの言葉に衝撃を受けて、思わず叫んでしまった。


けれどもすぐに、それに勝る喜びが浮かぶ。


皆に会えるのなら、死んでいようがどっちでも良いと思っていたことも、本当。だが…生きていて良かったと心の底から喜びが溢れた。


皆を守れなかったという事実は変わりがないが…それでも、救われたような気がした。


「そっか。でも、シスター。シスター達、よく無事だったな。あの時、教会の外にいたのか?」


「その話はまた後で。とりあえず、ルーク。食事にしましょう」


「あ、ああ。分かった」


シスターの突然の話の切り返しに不自然さを感じたものの、今は話したくないというのが有り有りに見て取れた為、頷くしかなかった。子どもたちは、シスターの“食事”という言葉に素早く反応して、早くもシスターと共に部屋を去っている。


皆が部屋を去ってから、彼もゆっくりと横になっていたベットから起き上がった。


クラリ…途中で、目眩がする。


どれだけ眠っていたのか定かではないが、身体のダメージが体内に残っていることは感じられた。…恐らく、あの闘った時の反動だというの想像に難くない。


あの時の、不思議な光と共に溢れた力。


けれどもその代償に、身体の筋肉やら筋にダメージを負った。シスターが傷の治療はしてくれたみたいだが、如何せん身体の内部まではどうしようもないのだろう。

彼はゆっくりと歩き、ダイニングへと向かって行った。


ダイニングに着けば、皆がいつもと同じ席に着いている。彼もまた、いつもと同じ席に着いた。


ふと、その時彼の頭の中に疑問が浮かんだ。


「…ってか、何で教会があるんだ?あの時、燃えたんじゃなかったのかよ?」


彼の疑問は、尤もである。


再会を喜ぶ余り、すっかり頭の中から抜け落ちていたが…あの魔物の炎で教会は灰になった筈だ。

なのに、すっかりいつもと 同じ光景が目の前に広がっている。まるであの魔物騒動が自身の夢のようにも思えるが…身体の痛みがしっかりとそれを否定していた。


「ここは、西区にある教会ですよ。北区の教会は貴方の言う通り燃えてしまったので…此方に居を移しました」


「ああ…そっか」


王都にある教会は北・東・西・南区に1つずつで、計4つ。けれどもそこを管理する聖職者は、彼女シスター唯1人であり、一体何の為にあるのだろうと常日頃彼は思っていたが…案外役に立った。


「さ。そんなことより、お腹が空きましたよね?ご飯にしましょう」


そう言って現れたシスターは、大きな鍋を持っていた。それを皆で分け、祈りを捧げて食べ始める。けれどもルークは、ほんの2口3口食べて手を止めた。


「…どうしたの?ルーク。食べないの?」


「具合、まだ悪いのか?」


子供たちが、一向に手を進めない彼に向かって、あれやこれやと口を挟む。けれども、彼はそれに答えず…ただ一言“美味いな”と呟いた。


それは、彼がシスターに拾われた時に食べた物と同じ料理…プオの実のシチューだった。


あの時と同じように…その料理は“温か”く、そして同時に自分が生きているのだということを実感させてくれる。その何とも言えない幸福感に、彼は手を止めて いたのだ。


「…ルーク?」


シスターが心配げに彼の顔色を伺う。


ルークはその問いに“大丈夫”とだけ返し、再び手を動かし始めたのだった。


「なんだー。ルークが食わねえなら、俺が食おうと思ってたのに」


「んなこと言ってると、俺がお前の分も食べるぞ。こっちは寝起きで腹が減ってるんだ」


子供の冗談半分な言葉に、ルークはニヤリと笑って返す。すると、子供たちは面白い様に焦って再び食べ始めていた。


幸せだな…ふと、彼はそんな事を思った。


子供たちのその素直な反応を、温かい眼差しで眺めつつ彼は微笑んでいた。


なんでもない、日常の光景。それが、こんなにも温かくて幸せを感じさせる。当たり前になっていたことが、決して“当たり前”ではないのだと知ってしまった。


この幸せな光景を壊す要因は、いつ訪れるか分からない。…脆く、刹那的な光景。

しっかりと掴んでおかなければ、指先からポロポロと崩れ落ちてしまう。


だから、こそ。


彼は今度こそ必ず彼らを守り切ろうと…この幸せを守り切るのだと心に誓った。


それから食事を終え、しばらく皆でまったりと寛いでいた時だった。


ドンドンドン……!


ドアのノックというのには荒々し過ぎる音が、その平和な空間を遮った。子供達は、異常な事態に身体を縮こまらせている。それは、シスターも同じだった。


…何だよ、一体。


ルークは苛立ちつつも、扉に近づいて行った。


扉を開けると、そこには数十人の王国騎士達が扉を囲むようにして佇んでいる。


「…は?」


余りの異様なその光景に、暫し固まった。


「シスター・アンドレスの養い子、ルーク=タナトスだな」


扉の前…つまり彼の目の前に立っていた男が、固い声でそう問う。


「そう、ですけど?」


「我々に、着いてきて貰おうか」


「…は?」


言葉の意味が分からず、彼はまたしても固まってしまった。


「待ちなさい!ルークは…っ」


シスターが慌てて止めに入ろうと、彼と男の間に入った。その瞬間、男はスラリと腰に差してあった剣を抜き取り、シスターに向ける。


「…なっ!」


「黙って頂こうか。これは、勅命である。いくらあの有名なシスター・アンドレスでも、止めさせる訳にはいかない」


シスターは、男を睨んだ。その瞳には、見たこともないような“モノ”を浮かべていた。激情というには荒々しさがなく、けれども静かな怒りというには表現が足りない。


あえていうのなら、殺気に近いようなそんな覚悟を決めた瞳をしていた。


男も、彼女のそれに気がついたのだろう。

些か、その表情が強張っていた。


「…大人しくするなら、危害は加えん」


「そのような荒々しい気配を纏っている貴方を、信じられるとでも…?」


冷ややかに、鼻で笑う様にシスターは言葉を発する。その様子は、とてもじゃないが聖職者には見えない。

むしろ、剣を向ける男よりも強そうな…そんな殺伐とした雰囲気だった。


「それを言うなら、あなたの殺気を沈めて貰いたい」


「…」


シスターは男の言葉に反応したのか、自分を落ち着かせるように一息吐いた。けれども彼女の纏う気は、未だにどこか険を帯びている。


「驚いたな。まさか、“貴方”が我らと対峙しようとは」


そうは言うが、男の言葉にはまるで感情がこもっていない。淡々と、言葉を口にしている…そんな印象が感じられる。


「当然でしょう。彼は私の保護下にある、息子ですから」


シスターと男の会話を、けれどもルークは耳半分に聞いていた。というのも、先ほどの男の言葉が頭に引っかかっていたのだ。

まるでさっきから、シスターを元々知っているかのような口ぶり。それも、単に噂を聞いたことがあるというような様子ではない。


…というか、さっきはシスターの余りの怒気に忘れてたけど…“あの有名なシスター”って、シスターは何をしたんだ?と。けれども彼が考え事をしている間にも、話は進む。


「…だとしても、勅命は変わらない」


男は、シスターの様子に怯みつつもそこは譲らない。

それも当然の事だった。勅命とは王からの命令のことであり、王に剣を捧げた騎士たちからすれば、なんとしても成し遂げなければならない代物だからである。


そうと分かっているハズなのに、シスターはそれでも納得がいかないどころか、不満半分怒り半分な表情を浮かべていた。


本来なら不敬罪として切り捨てられてもおかしくないのに、この睨み合いが続くということも異常な事態だ。


よほど、シスターが有名なのか?それも王家に関係する何らかで…。そんな憶測を、頭の中でルークは浮かべていた。


「ならば、私も連れて行きなさい」


彼が思考に夢中になっている間に、いつの間にかシスターの妥協案が彼女の口から漏れる。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」


けれどもルークは、シスターを慌てて止めていた。


「……ルーク?」


「シスターも一緒に行くっていうなら、一体誰がここにいるチビ達を守るんだよ」


「ですが…」


「俺は、大丈夫だから。…おっさん、さっさと俺を連れて行け」


シスターにこれ以上反論させないように、無理矢理話を纏めて促した。

男は一瞬ルークを見てから、踵を返した。そして、黙ってその後に続く。


「ルーク…」


背後で心配げに見つめるシスターを振り切って、足を進めた。 まるで凶悪犯を連行するかのような物々しさで、騎士団は彼を取り囲みながら歩く。


街の連中は、そんな光景を遠くから眺めていた。


…はあ。と、内心、何度目かわからないため息を零す。正直言うと、何も聞かないまま慌てるように着いて来たのは後悔していた。


けれどもそれは仕方ないことで、あの場で最善の行動だったとも思っている。


一触即発の雰囲気を出していた、シスターと先頭を歩く男。男の目からは、何が何でもルークを連れて行くといった決意が見られた。もし仮に男が1人で来ていたのだったら、彼はどんなに言われようが断っていたであろう。


けれども周りを囲むのは、数十人単位の騎士たち。下手に刺激して、子供達に危害を加えることを彼は危惧していたのだ。


王国の“騎士”がそこまでの蛮行に出るとは考えにくいことだったが…それを軽く否定するには、男の瞳はあまりにも本気過ぎた。


…というか俺、なんでこんな連行されてるんだ?ふと、そんな疑問が今更ながら浮かぶ。


そんなことを考えていたら、いつの間にかこの王都領内最北に位置する王城の目の前まで来ていた。


ルークは見上げるように、王門を眺める。ちらりと門より更に上、彼方を見れば立派な王城の上の方が見える。


その佇まいは、遠くからとはいえ正に威風堂々。円状の城壁に囲まれるこの王都の中にあって、更に門で区切られた一角。その中の広大な土地と巨大な建物…そんなこここそが、まさにこの国の中心。


先頭の男は当たり前のように、王門を通り過ぎて行く。


内心それにルークは、“は?俺も、中に入るのか?”なんて混乱していた。そして彼は、驚きついに立ち止まる。自慢じゃないが、王城は疎か貴族の屋敷にだって入ったことがない。平民出身の彼には縁のないことだったし、これからもないだろうと思っていた。


連行されて到着した場所が場所だけに、彼は内心更に驚いていた。けれどもこれで、益々今の状況が分からなくなる。彼にはココに呼ばれるようなことをしたなど、当然ながら何も思い当たらない。


騎士に導かれる…もとい連行されるがままルークは城の奥へ奥へと足を進める。豪華さに磨きがかかっていく周りの景色に、彼はもう嫌な予感どころか考えることも放棄してしまっていた。


「頭を下げろ」


無駄に豪華にして大き過ぎるとしか言いようがない扉の前で、先頭を歩いていた男はルークの頭に手を置いて力任せに下げさせた。そのやり様に内心イラつきながらも、彼は素直にその言葉に従う。


「王国騎士第二団隊第四小隊・隊長キース=アルフォイ、参りました」


その言葉と共に、目の前の扉が開かれていった。キースと名乗った男は、顔を上げると歩き始める。

まるで付いて来いとでも言うかのように肩に手を置かれた彼は、この時初めて顔を挙げて部屋の中と対面した。


後々思えば、この時よくぞ叫ばなかったと自分で自分を褒めてやりたいぐらいの光景が、彼の目の前に広がっていた。


部屋の中は、廊下と比べて更に贅を凝らしたような美しくも荘厳な雰囲気を醸し出すものだった。扉からは真っすぐと赤い絨毯が広げられ、その奥にはこれまた贅を凝らした椅子がある。

所謂、玉座と呼ばれるその椅子 。

つまり、謁見の間という…平民の彼には一生どころか何回生まれ変わっても縁のない部屋だったのだ。


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