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God knows  作者: 紅亜
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愛は出せば出すほど増える

…それから数日後。ルークは未だ教会にいた。

何度も去ろうとしたものの、その度に彼女に言いくるめられ続けたのだ。正直、人の世話になったことなどないから、どうして良いのか分からない。


彼女を信頼しているのかと問われれば…それも分からなかった。


けれども、この教会で過ごしていく内に、まるでぬるま湯に浸かっているように、警戒心が薄れていた。というのも、ルークが拍子抜けするほどシスターには警戒心というのがなかったのだ。平気で彼の近くに金目のものを置いて出かけることがしばしば。


帰ってきたかと思えば、あれやこれやと食材を持って来てはこれ以上食べれないという彼に食べ物を与える。初めは、丸々太らせて怪我を治してから売り飛ばそうと考えているものと疑っていたが…。そのうち、そうまでする価値が自分にはない上に、怪我が治っても何かと理由をつけて自分を置いておく言動に、その考えを思い直した。


結局、シスターの行動の意図が分からないまま、ルークはそこに身を寄せ続けた。


そしてそれから、数週間後。


シスターは、食べ物の代わりに小さな…小さな温かいものを彼にに差し出す。


それは、本当に生まれたばかりの赤ん坊だった。


「ルーク。今日から貴方はお兄ちゃんですよ。この子の面倒、よろしくお願いしますね」


「…は?」


思わず聞き返してしまったのは、無理からぬことだった。


「誘拐じゃありませんよ?この子、道端に置き去りにされていたんです。だから、連れて帰って来てしまいました」


茶目っ気たっぷりに言ったその言葉に、ルークは慌てて首を横に振る。


「いやいや、そういうことじゃなくて。兄ちゃんって…手伝いって、どういうことだよ?」


「ルークは先に家の子になったでしょう?だから、お兄さん。お手伝い、よろしくお願いしますね」


「…は?だから、どういうことだよ?」


「どうもこうも……貴方もこの子も、私の子供ということです。異論は受け付けません。さ、抱っこしてあげて下さい」


そう言って、強引にシスターは彼に赤子を渡した。ルーク慣れない手でその子を抱く。


あの路地裏にいた頃の本来の彼ならば、興味を持たずそれ故に放り投げそうなものを…渡されるまま、素直に抱いた。案外……この数週間シスターの下にいることで、牙を抜かれていたのかもしれない。


「お尻に手を添えて…そうです。力まずに……ああ、上手いですよ」


シスターのアドバイスを元に、彼はその子を抱く。少し手付きは悪いが、初めてにしては上等だろう。


「シスター、もういいだ…」


ルークが文句を言おうとした瞬間、赤子は目を覚ました。栄養が足りず、決して健康状態が良いとは言えないその赤子。お腹が空いたと、てっきり泣き出すのかと思えば…ニコリと微笑んで彼の顔に向けて手を伸ばしてきたのだ。


ペタリ、ルークの顎付近に赤子の手が当たる。その時、彼の表情が不満げなそれから驚いたようなものへと変わった。


「……あったかい……」


呆然と……ポツリ呟くように、言葉が出た。


今まで触れたことのない、温もり。シスターに拾われた日に夢中で食べたもののような…温かさ。


何故だか無償に泣きたくなるような……そんな愛しい気持ちが胸の底から湧き上がった。


思わず、ルークはその子に向けて微笑む。それは、この街で暮らし始めてから初めての笑顔だった。


その日を境に、ルークは変わった。 変えるキッカケをつくったのは、シスター。そして、そのキッカケは…小さな小さな、赤子。


その子は赤子故に、何も言わずただそこに在るだけの存在。汚れを知らぬ、白とも黒ともつかぬ純粋無垢な存在。だからこそ、彼は疑う必要もなく…その存在に心を開くことをできた。そして同じ境遇に在ったからこそ……守りたいという気持ちが生まれた。


もしも、幼子の頃をの彼を知る人が今の彼を見れば別人と笑うだろう。もしくは、よく似た双子と思うか。逆も、然り。現在の彼を知る人物が当時の彼を知ったら、驚愕するだろう。


そんな大きなその変化は…まさにその時から始まったのだ。


…それから月日は経ち。いつの間にか教会に身を寄せる子供たちの数は何と2桁にまで到達していた。シスターが拾ってくるというのもあるが、この教会の存在を知った無責任な大人が教会前に置き捨てていく…なんていうこともあった。


そんなこんなで、人数はどんどん増えた。


流石に拾いすぎなのでは、と思わなくもない彼だったが、それを口を出す事はない。


…単純に、嫌だったのだ。あの…昔の自分と同じ境遇に、子供たちが落ちることが。


…もし。

もし、仮にシスターが拾わなければ、待っているのはかつての彼と同じ暮らし。ただ生きる為だけに奪い合い、騙し合い、傷つけ合い…正に畜生のような生活。


そしてその果てに待っているのは、言わずもがな…彼と同じ荒んだ目。


夢も希望も何もない、ただ生きるだけの生活。


できることならば、自分のようにはなって欲しくない…そう彼は思っていた。


だからこそ彼は、良い兄に成り得たのだ。今も、子供たちの食事や風呂更には勉強まで、彼は面倒を見ている。


…そしてその為に努力もしていた。

元来、一度も学校に行ったことのない彼。けれども子供たちの為にと、シスターに読み書きを習い、それを元に教会の本を読破した。単純に知らなかったことを知るのが面白い…というのもあったが、子供たちの為にという理由が大きい。


また、彼がそう在るからこそ、ここの生活が成り立っていたと言っても過言ではない。


教会に住もうが、聖職者であろうが、霞だけを食べて生きていけるわけはない。人が増えればその分、生活費がかかるのは当然のことだ。けれども、幼い子供たちが自身の生活費稼ぐことなど並大抵のことではない。…むしろ、不可能に近いだろう。


ならば必然、働き手はシスターかルークということになる。自然と、彼が子供たちの面倒を見て、シスターが仕事をするという形が出来上がった。


因みに、ルークを含めた子供たちはシスターがどんな仕事をしているのか知らない。だいたい朝家事を一通りすると、何処かに出かけ…そのまま夕方前に帰って来る。


そして週に1度は、教会を開き信者たちを迎え入れる。


…そんな慌ただしい毎日だ。


オマケに、手が空いた時は子供たちへの面倒やら、講堂での祈りやら…シスターがゆったりとしているところを見る事など、殆どなかった。

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