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これは本当に君の選んだ手土産かね?

「いつも社交界で壁の花になっている彼女が、夫人と良い話ができたのなら幸いでございます」


 驚くことに、ダステムはそんなことを言ってのけた。

 そんなことを言われても夫人はただただ困るだけである。


「壁の花…ね」

「ええ。今日も本当は気疲れするからと渋られましてね、ですが有意義な時間を過ごせたようで何よりでした」


(ちょっと、酔っ払いすぎだわ!)


 いくら気を悪くしたからと言って、招いてくれた人たちに軽々しく嘘を吹聴するなんて酔っ払いすぎである。


「そうなの?」


 夫人の問いに、私は肯定もできず否定することすらできず俯くことしかできなかった。

 二人ともそんな私の態度に呆れたことだろう。

 自分が優位に立ったことで気をよくしたダステムが言った。


「ところで、僕が手土産に選んだ紅茶はお気に召しましたか?」

「うん?ああ、あの紅茶かな」


 公爵は「そうだな」と言って居住まいを正す。


「私が好む紅茶がどんなものか…知っておるかね?」

「え?えっと……」


 黄金色のお茶と、美味しそうなケーキが綺麗に並べられていく。

 二人の不穏な空気に夫人が手を差し伸べた。


「さあ、食べましょうよ。貴方も…」

「お前は黙っていなさい」


 ダステムは、ははっと笑って申し訳なさそうに言った。


「それが…どんな物を好まれるのか…分かりかねまして、僕が一番美味しいと思う物を選びました」

「ほう?そうか!それは楽しみだ!私は紅茶が大好きでね!」


 にこにこと笑っている公爵に釣られて、ダステムもホッとしたように「ははは」と笑って頭をかいた。


「ああ、楽しみだなあ。で、それはどんな紅茶なのかな?」

「……え?」

「なんだ、君が一番好きな物を贈ってくれたんだろう?それはどんな紅茶かと聞いている」

「は、ははは…。嫌だなあ…。ああ、すっかり酔っ払ったみたいで、ど忘れしてしまいました」


 だらだらと冷や汗をかきながら、すっかり酔いが覚めてしまったらしいダステムは震える手で出された紅茶を飲んだ。

 公爵は表情を変えずに言った。


「…どうかな?その紅茶は」

「ええ、とても美味しいですね!これは、どこの紅茶ですか?」


 公爵はすっと顔色を変えて言った。


「それは君の手土産の紅茶だよ、ダステムくん」

「……え?」


 しん、と静まり返ったサロンに、ダステムの喉からごくりと鳴った音がやけに大きく聞こえる。


「あ!ああ!!そうでしたか!いやあ、どうも酔っ払っていけませんね!」

「ダステムくん」

「…あ……」

「本当にこれは君が選んだ物かな?」


 公爵はカップに向けて指を指した。


「何が……仰りたいのでしょうか」

「ではマリーア殿に聞こう、この紅茶はどんな紅茶か」


 突然そう問われて、私は口をパクパクとさせてから、やはり下を向くしかなかった。


「……なぜ下を向く」

「申し訳ありません」


 そんな私を見て、ダステムは水を得た魚のように言った。


「彼女はどうも、この様な場が苦手でして…。申し訳ありませんが今日のところは失礼します」


 私は引っ張られるように立たされると、戸惑いながらもカーテシーで挨拶した。


「これから、マリーアをカフェにでも連れて行かねば機嫌を損ねてしまいますから」


 ダステムは追い打ちをかける様な一言を発して、ぺこりと頭を垂れた。

 私は足早に去っていく彼を横目で見たけれど、今度は深く頭を下げる。


「この度は、失礼の数々、平にご容赦ください」


 本日の非礼を詫びると、去っていく彼を追った。

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