第三話(1) 犬鳴小鞠登場
彼女は走る。
7月も中旬に差し掛かった、日差しの照りつける蒸し暑い中。誰も歩いていない住宅街を制服のジャンパースカートを翻しながら走る。シュシュで結んだポニーテールと、鞄に取り付けられた可愛くない兎のキーホルダーが跳ねる。
彼女──犬鳴小鞠は、『私立水端女子高等学校』に通う普通の女の子だ。今年17歳になる2年生。
蝉がそこら中で鳴き叫んでいる。
黒よりも焦茶色に近い髪が、煩わしく頰に張り付く感触にも今は構ってはいられない。
額に汗をにじませ、制服姿の彼女が無我夢中で走る理由は明白だ。
朝の9時半。遅刻である。
「あーーーっ!!お願い変わんないでー!」
目前に迫った点滅する青信号を見て、小鞠は悲痛な声を上げる。だが、無情にも信号は小鞠の目の前で赤に変わってしまう。
人通りが少ない割に、車の交通量は多いここの信号は1度赤に変わると待ち時間が異様に長い。
目の前を、にやけた猫のイラストが特徴的な宅配トラックが走り抜ける。
肩で息をしながら、小鞠は呟いた。
「……終わった……」
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教師に教科書で頭を叩かれながらもどうにか滑り込んだ1限目が終わり、迎えた中休み。
小鞠は3人の女生徒の前で立たされていた。
「また遅刻かよ小鞠」
「は、はい」
「私らの朝ご飯どうすんのよー」
「どうって……」
「ジャムコッペって言ってたはずだけど?」
足を組み、机に頬杖をついたロングヘアーの女子が小鞠を見上げながら言うと、
「私はチーハムクロワッサン」
「……チョコメロンパン」
と、残りの2人も続く。
それに小鞠は眉を寄せ、悲痛な表情を浮かべる。
「私も、私もビッグお好み焼きそばパン食べたかったんです……兎京さん」
「お前は本気で自業自得だよな?」
足を組んだ女子生徒──牛久間兎京は呆れ顔で言う。
それに合わせて、兎京の両脇に座る2人の女子──喜友と凛子も真顔で頷いた。
この学校の購買はパンの種類が豊富だ。その代わりに1種類ずつの品数が少なくなっている。
特に朝一で届くビッグお好み焼きそばパンは、名前の通り通常の惣菜パンの2倍の大きさを誇る。味付けの濃い焼きそばに加え、半円型のお好み焼きが丸々挟まれており、そのボリュームの多さとトッピングされた青のりが歯に付くことから女子にはあまり人気が無い。
だが、運動部の女子は別だ。彼女たちにとっては炭水化物は友であり、授業の合間時間に手ごろに間食できる、胃袋にも財布にも優しい神飯である。
なので、ホームルームが終わると共に購買部には我先にと屈強女子が押し寄せる。それはまるでラグビーの試合さながらの熱気と圧だと言っておこう。
1限目が終わった後で、ビッグお好み焼きそばパンが売れ残っている方が奇跡だ。
それでも諦めきれず、学校に着いていの一番に購買へ走ったが、当然残っていなかった。
購買のおばちゃんに売り切れを言い渡されたついさっきの事を思い出し、小鞠は心底悔しそうに胸元で拳を握り締める。
「おい。購買まで行ったんだったら、私らの分は買ってこれたよな?」
「あまりのショックで、つい……すぽんと……」
「はぁ……、次の休み時間に買いに行こうぜ」
兎京が言うと、残りの2人も仕方ないと頷く。
「そうですね」
「遅刻常習犯の小鞠に頼んだのが間違いでしたね」
買いに行かせておいて随分な言い草だが、小鞠は言い返す言葉もなく項垂れるしかない。
所詮はいじめっ子と、いじめられっ子の関係なのだ。
牛久間兎京──、腰まで伸びた艶やかな茶髪と同色の瞳。顔立ちは、くっきりとした目鼻立ちをしており、どんな表情を浮かべていても顔面にそつが無い。長い睫毛が縁取るややツリ目の瞳は大きく──はっきり言って目力が強い。内面の芯の強さが現れているようにも感じる。
この目で見られると、小心者の小鞠は蛇に睨まれた蛙のような気分になってしまうのだが、他の生徒にはカッコイイと好評だったりする。
顔が良ければ、それに付属している体も当然のようにスタイルが良く、身長は数センチしか違わないというのに、股下の長さは同じ日本人かと疑いたくなるほどに差がある。顔は小さく腰は括れているのに出るところは出ている、まさに夢の体系。
兎京を見た隣のクラスの生徒達が『リアル10頭身』、『会えるアイドル』なんて話しているのを聞いたこともある。
けれど、中身はこの通り──気が強く、口調もヤンキーっぽい。
この3人の中で兎京はリーダー的な存在だ。
行動力と発言権が一番あるのも兎京で、喜友も凛子も兎京を中心に据え頼りにしている。
そして、その取り巻き1。
喜多乃喜友はゆるくカールされた赤みの強いボブ髪と黒くて丸い瞳。活発で元気が良くこの中ではムードメーカーのような存在だ。
近所のお寺の一人娘らしく、寺や神社の子供が多く通っている学校内では兎京の次に顔が広い。スカートは短く改造し、手首にはいつも可愛らしく加工された数珠をつけている。
取り巻き2の、美川凛子は緑の黒髪をサイドテールで流し、瞳は明るい茶色。
この3人の中では比較的に大人しい性格だけど、内面とは裏腹に外面は奔放で、女子高生にしておくのは勿体ない程の重量感を放つ核爆弾がセーラー服の前面を押し上げている。
それに加え垂れ目と口元のほくろが艶っぽく、制服を着ているだけでイケナイことをさせている気持ちになる。女子高生とは思えない色香を周りに漂わせる危険人物である。
外面の自己主張の強い3人に対し自分のなんと平凡なことか。
小鞠は、自分の主張の少ないセーラー服の前面を見下ろしながら、これからよねと励ましの声を掛ける。もちろん心の中で。
出来ることなら3人とは離れて過ごしたいが、現実はそうもいかない。3人から目を付けられ、自力では離れられないのだから。
この女子校に入ってからと言うもの、小鞠はこの3人からパシリとして使われる日々を送っていた。
かれこれ1年は続くパシリ生活だが、クラスの中には3人を止めてくれるものは誰もいない。
良くも悪くも目立つ3人組なのだ。クラスの中でも、色めき立つ者もいれば、怖がって近づけない者もいる。
自分だってできる事なら関わりたくない。だから、クラスメイトに不満はないのだけど、問題は教師の方だった。
どういう訳か3人と小鞠が仲の良い4人組だと思われているようで、学校行事での組み分けなど全て、この3人と同じ班に振り分けられてしまっていた。それどころか、何かあれば連帯責任で一緒に呼び出される始末だ。
その為、小鞠にはクラスで話せる友人と呼べる友達もできぬまま花の1年を無駄に過ごし、今年の夏を迎えていた。
校庭の木に止まった蝉の声が、教室の中にまで聞こえてくる。
(蝉、うるさいな……。2度目の春も終わっちゃって、もう夏だよ……彼氏が欲しい……切実に)
女子高に通っているのだから、出会いは外に求めるしかない。けれど、放課後は3人に絡まれる頻度が高いし、この3人に囲まれていて平凡な自分が目に留まるはずもない。
度々起こる家で発生する問題もあり、普通の胸熱な出会いに割く時間ができない。
ぼーっと窓を眺めていると、
「──まり……。おい、小鞠!」
「は、はいぃ!」
兎京に名を呼ばれ、思考を飛ばしていた小鞠は肩を跳ねさせる。
「何回呼ばせるんだよ。ほら、私らの購買財布返しときな」
「あ、はい」
どうやら何度も呼ばれていたようだ。小鞠はポケットを探り、財布を取り出す。
この購買財布は、この3人が出し合った小銭を入れたガマ口式の財布だ。いつもパンを買いに行く小鞠が持たされている。席を立ちながら片手を差し出す兎京へ財布を手渡す。
「ジャムコッペ、まだ残ってっかなー……」
「あれ安いから、すぐ売りきれるもんね」
「でも美味いんだよね~、あのジャム。私もチーハムクロワッサンやめて、ジャムコッペにしようかな~」
「私はチョコメロンパン」
3人は何を買うかを相談し合う。会話を聞くだけの私に、兎京さんがビシリと指を指す。
「次の休み時間ダッシュだからな、小鞠」
「そうですよね!三段ハムサンドを諦めるのはまだ早いですよね」
新たな希望を見出した小鞠に、善美と凜子が兎京へ身を寄せ、
「小鞠の脳みそは胃袋でしめられてるって……」
「あれだけ食べたカロリーの行き場が見えないのって、なんだかコワイわ……」
と、若干引いた様子で話しかけている。声ひそめてないから全部聞こえてますからね!
「小鞠はいつもこんなもんだろ」
腹の虫を鳴らす小鞠をみながら、兎京は諦めた様に言い切った。
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時刻を知らせる寺の鐘が、住宅街に鈍く響く。
下校する小鞠の横を、私服姿の小学生が楽しそうに笑いながら駆け抜けていく。
(……楽しそうだなぁ……)
溜め息を吐きながら今日1日の事を思い返す。
朝から遅刻をして教師に怒られ、食べたかったパンも売り切れ。その後も、希望を持って買いに行った購買で、三段ハムサンドも売り切れという不運を味わった。兎京からジャムコッペを半分分けてもらったのは良かったが、その代わりに掃除当番のゴミ出しをさせられるなど色々とあった。
兎京が用事があるという事で、今日は即帰宅で解散となったけれど、
「放課後一緒に遊べる友達が欲しいなぁ……」
そう呟きながら、とぼとぼと歩く小鞠の視界に一人の女性の姿が入る。
歳の頃は二十代前半ぐらい。前方にある電信柱の横に立つ、長い黒髪に、白いワンピースを着た女性。
女性は歩いてくる小鞠に気がつくと、口元に笑みを浮かべ、手を振って呼びかけてくる。
「あら、あら~小鞠ちゃん」
しかし、小鞠はまっすぐ前を見据えたまま、女性の目の前を通り過ぎてしまう。
「やっほー、小鞠ちゃん?」
再度、女性が声を陽気にかける。──が、小鞠の足は止まらない。
動きを止めない小鞠の様子に、女性は指先を頰に当て首を捻る。
距離が近づいたのに、それでも気づかない小鞠に、もう一度女性は声をかけてくるが、それでも小鞠は振り返らずに早足で歩いていく。
こんなに声をかけているというのに、気づかない小鞠の姿に、女性がさらに首を傾げる。
「あれ?私のこと見えてないのかな、どうしちゃったんだろう?」
とうとう目の前を通り過ぎてしまった小鞠の背中に女性の声が追ってくる。気づかれない事を怒るでもなく、悲しむでもない声音で、女性は思い立ったようにボソリと呟いた。
「もしかして……ついてっちゃってもバレないかなぁ?」
途端、電源が入った機械のように小鞠は勢いよく女性に振り返り、早足で駆け寄っていく。
「うわ〜!チルハさん3日ぶりですねー!元気してましたかぁ!!」
「……なんだぁ、見えてるのか」
チルハと呼ばれた女性の言葉には、本気の落胆が見えた。その言葉と表情に、笑顔を作る小鞠の唇がひくりと震える。
小鞠を見つめるチルハの目は──、白目が濁り、どす黒く変色していた。
左目は眼球が裏返り、常に斜め上を彷徨っている。肌は真っ白で血の気がなく、唇にも赤みがない。
着ている白いワンピースの胸元は、赤い前掛けを掛けたかのように血でべっとりと汚れていた。
見てわかる通り、チルハは生きていない。死後も成仏できずに現世を彷徨い歩く死霊である。
チルハの言う〝ついていく〟とは、〝憑いていく〟と同義だ。
普通の人間ならば、チルハが立っている事にさえ気づきはしないが、小鞠は違った。
不運なことに、小鞠には霊感がある。
幼い頃からあの世のものが、そこいらにいる人間と同じようにはっきりと見えてしまう。
話もできれば、触れる事さえできることもある。
生来持っている体質も、その要因なのかも知れないが──、霊感など持っていても良いことなど一つも無い。あった試しがない。
「小鞠ちゃんが気づかないから、こっそりついてっちゃおうかと思ったのにー」
「うふふふ、やだなぁ私の家に来ても何も楽しくないですよ〜ふふふふふ」
背に冷や汗をダラダラと流しながらも、小鞠は引き攣った笑みを浮かべる。
小鞠は普通の女子高生なのだ。
幽霊は怖いし、妖怪は苦手だし、化け物は恐ろしい。
見たくも無いし、できれば一生関わりたくない。だが、それを相手が許してくれない。
「小鞠ちゃんに話したいことが沢山あるんだ~」
「わ、わぁ~なんですか?沢山あるんですか~?へぇ~、その、できれば手短に……簡潔に……」
作り笑いを浮かべながら、小鞠はキョロキョロと忙しなく周りへ視線を走らせる。
幽霊であるチルハの姿は、一般の人には見えていない。周りからは電信柱に話しかける、ヤバイ女子高生の姿にしか映らないのだ。通報でもされたら薬物の使用を疑われてもおかしくない。
そんな小鞠の心情など微塵も理解していないチルハは、両手を合わせて嬉しそうに身を乗り出し話し出す。その左右の眼球がぎゅりっと不揃いに動き、小鞠は胸中で悲鳴を飲み込んだ。
「そこの角のお家なんだけどね、あの家でね……──」
話好きなチルハに捕まった小鞠は、側の電灯が灯るまで、長い事その場で立ち往生することとなった。
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大きな両扉の和風門を抜け、玄関まで繋がる短くはない石畳みをとぼとぼと歩く。これまた大きな作りの玄関の引き戸を開ける。
「……ただいまー」
中に入ると、車一台が余裕で入りそうな広さの土間。その先は広く長い廊下が三方に伸びている。廊下伝いに雅な柄の襖が並び、間には飾り棚が設けられ壺や和を模した照明が置かれている。
廊下の先まで電気は明々と点いてはいるが、家の中には誰かが居る気配はない。
式台に鞄を乗せ、片手でローファーを脱ぎながら、土間へ視線を下げる。
いつも通り、そこには一足の靴も置かれていない。
「……誰もいないよね……」
そう言いながらも、家に上がった小鞠は廊下の奥に向かって声をかける。
「軛ー、軛。ただいま〜、いないのー?」
声をかけながら、広く長い廊下を進み自室へ向かう。
突き当たりの廊下を右に曲がり、奥に位置する自室の部屋の扉が見えたところで──、その隣にある和室からテレビの音が漏れ聞こえてきた。
その音に、小鞠は眉をつり上げる。
「……まさか」
ポニーテールを荒ぶらせ駆け足で和室へ向かい、勢いよく襖を開ける。
「っーーーー!!また、あなた達!私の家に入り浸って何やってんですか!!」
「おお、帰ったか小娘」
「来てるよー、ポニテちゃん〜」
声を荒げる小鞠に、邪魔者──婀彌陀羅と八瞞が声をかけてくる。
畳や縁側に寝転んだまま、当然のように居座っている姿を見て、急激に痛んだ気のする頭をぶんぶん横に振り気を持ち直す。
そんな着物姿で寝ころんだらシワになるのに!とか、座布団を折りたたんで枕にしている姿に、それ高い良いやつなのに!とか、言いたいことは山ほどあるが、あり過ぎて言葉にならない。
ついでに寝転がった八瞞の顔にガスマスクが着けられていないことにも気づいて、さらにストレス値が上がる。
この狸の妖らしい八瞞が口元のガスマスクを外すときは、食事の時だけだと小鞠は知っている。
……要するに、家の食材を既につままれた後だということだ。
小鞠は部屋にいるもう1人へ視線を向ける。
静かに茶を飲んでいる、この家の同居人──軛に小鞠は訴える。
「軛っ!この人達、連れてこないでくださいって言ったじゃないですか!」
「何故、俺がお前の言うことを聞かねばならん」
和室の真ん中に置かれた木製のテーブルに肘を付き、憮然として言い切る軛に小鞠の方がたじろいでしまう。
「う、ぅうう〜それは、だけど……」
「俺がこいつらを連れてきたくて連れてきているわけじゃない──」
軛はリモコンでテレビのチャンネルを変えている婀彌陀羅を顎で指しながら、
「電化製品目当てで勝手にやってくるんだ」
そうため息交じりに言えば、仰向けに寝転がっていた八瞞が肘枕に体制を変えながら楽しそうに口を開く。
「春は庭に桜が咲くし、夏はクーラー効いてる」
「秋は芋が食えて、冬には炬燵がある。そして──」
頷きながら婀彌陀羅が続き、2人は揃って床の間の方へ顔を向ける。
「「偉大なる叡智の集結──、冷蔵庫」」
床の間の前に張られた板張りの上には、丈1m程の冷凍庫付きの冷蔵庫が置かれている。
「俺もそろそろ買おうかなぁ〜」などと、言いながら八瞞は勝手に冷蔵庫を開け、棒アイスを取り出す。その手に握られたアイスを見て、婀彌陀羅が声を上げる。
「待て狢、その練乳味は我のだぞ!」
「残念、食べちゃいました。ついでにこれ最後の1本ね」
「「なにっ!」」
今度は婀彌陀羅と軛の声が被る。
「おい、俺はまだ1本しか食べていないぞ。何故無くなる」
「食べたからでしょ」
そう言って誘導するように八瞞の顔が婀彌陀羅の方へ向けられる。
「なんだ?我もまだ4本しか食べていないぞ」
「何がしかだ。お前が元凶じゃないか」
「あ、シュークリームも無くなってた」
八瞞の告げ口に軛が婀彌陀羅を睨み立ち上がると、それに呼応して婀彌陀羅も立ち上がる。
「我のプリンを狢が食べたから、仕方なくしゅークリームを食べてやったのだ」
「どちらも俺のだろうが」
「この家にある物を食べて何が悪い」
「良い所が一つでもあるか言ってみろ」
面を突き合わせ睨み合う婀彌陀羅と軛。
その傍では関係ありませんとばかりにアイスを齧りながらテレビを見る八瞞。
小鞠は身体をわなわなと震わせ、声を張り上げる。
「んんんんんんも〜〜っ!!!い、いい加減にしてくだささーぃ!!!」
小鞠の遅刻の原因は「これ」だ。
妖や幽霊が見えるというこの異質な力の所為で、朝からチルハに捕まったり、通学路にいる厄介そうな妖を避け遠回りを強いられたり。
そして、最大の原因といえば──、昼夜問わず入り浸る狐面と狸面の妖。この2人の所為だ。
(まぁ……お腹を空かせた軛に、朝食のおかわり作ったりするのも原因の1つだけど……)
軛と古くから付き合いがあるらしい2人の妖は、暇になるとやって来ては小鞠の家を我が家のように歩き回る。
妖が家の中をうろつくだけでも恐ろしいのに、この2人は性質も悪い。
家の物を荒らしたり、破壊するなど日常茶飯事。それどころか怪しげな呪術を試したり、他の妖怪を連れ込んだりと、今までの悪行を言い出したら切が無い。
しかも、最近になって気がついたのだが、どうも小鞠の嫌がる事を仕出かしては喜んでいる節がある。
それを止めようとしない軛にも問題はあるが──軛は大人しいから友達に対して強く言えないのかもしれない──と、そう小鞠は考えている。
軛は1人でいる時は、とても静かで大人しい。
何処にも出掛けず家で何かを食べているか、鍛練で体を動かしているかのどちらかだ。
それが、この2人が来ると途端に沸点が低くなる。
(喧嘩して暴れて物壊すし、不機嫌で口が悪くなるし、無断外泊で数日帰って来なくなるし……どうしてこんな奴らと一緒にいるのよ……!)
軛は婀彌陀羅という妖に対して、何故か強く出られない。
幼い頃に1度だけ、友達と喧嘩をしたくないのか?と、直接、軛に理由を聞いたこともあるけど、「そんなことは、絶っ対にない!」と、はぐらかされた。
仲が良いのか、悪いのか。
いつも軛を巻き込み、家をめちゃくちゃにする2人を見る度に、
「私が、どうにかしなくちゃ……!」
と、小鞠はいつも決意をするのだ。




