第71話 遠征
聖女祭から数日後。
聖徒会の演劇は反響を呼んでいた。
「今週の聖徒会速報、見ましたわ!私も見に行けばよかったですわ……」
ノエルさんの言うとおり、聖徒会の出している今月の聖徒会速報では何故か僕とリリエラさんのキスシーンが表紙になっており、リリエラさんと僕はクラス外でも有名になっていた。
「私達はリリエラさんの想い人を知っておりますが、知らない人からしたらシエラさんとリリエラさんは恋仲のようにしか見えませんわね……」
「私は別にシエラさん相手なら、噂されてもよろしくてよ!」
僕的にはそんなによろしくはないな……。
リリエラさんは元々人気がある人だから、どこで嫉妬されているかわからない。
そんなこと考えていると、リリエラさんが僕の顔をむにっとしてきた。
「ひひえあはん……」
「また変なこと考えてますわね?貴女は素敵な方なのです!私は何度でも言いますよ!」
僕、そんなに顔に出てるのかな……。
「……なんだか二人、雰囲気変わりましたか?」
「……本当に恋人同士のように仲良くなっておりませんか……?」
すると、凛としたリリエラさんはこう言った。
「ふふ。私達、親友になりましたの!」
「はひ……」
そろそろ頬、離してほしい……。
「なるほど、それは素晴らしい」
「ふふ、でしょう?」
自信に満ちたリリエラさんが、今日は一段と輝いて見えた。
「以前から説明がありましたが、週明けから遠征が始まりますっ!」
マリエッタ先生がホームルームでそう言った。
遠征は修学旅行を兼ねた実践訓練だ。
道中では荷物の護衛を行ったり、魔物が現れた場合は討伐する訓練を行う。
「今年は西の国セイクラッドへ遠征に行きますっ!」
がやがやと賑わうクラスメイト達。
ハインリヒが魔術やクラフトなどの知能の最先端だとしたら、セイクラッドはオシャレの最先端。
聖女学園の制服もセイクラッドで作られ、こちらに送られている程だ。
そしてSクラスは令嬢の割合の方が多いので、お洒落には敏感な人が多い。
「楽しみですわ!」
「楽しみなのはわかりますが、訓練でもあるんですから気を引き締めてくださいねっ!」
「そうか、一年生はもう遠征の時期か……」
寮で遠征について雑談していると、エレノア様とミア様が降りてきた。
「今年の引率は誰なの?去年はサクラ様だったけど……」
「そうだったんですか?」
「じゃあ今年はソラ様でいいんじゃない?」
「いや、その間私が居なくなっちゃうじゃないですか……」
「はははっ!でも、大聖女様が護ってくれるんだから、今年の一年生は運がいいよなぁ……」
「へ、変にプレッシャーかけないでくださいよ……」
「でも、今年はまだ先生方もどなたか知らないみたいで……」
「なんだそりゃ?まさかホントにソラ様なんじゃ……」
「丁度その話をしようと思っていたのよ!」
2階から降りてきたのは……
「サクラ様!?それに……」
「アレン様!?」
「ソラ様、お久しぶりです。この間はありがとうございました」
というか僕が言うべきではないかもしれないけど、2階のワープ陣使われ過ぎじゃない……?
やっぱり僕の部屋から移動しておいて正解だったな……。
「アレンったら……いくらソラちゃんからの講義が愉しかったからって、すっかり信者になっちゃって……ソラちゃんの話ばっかり。私というものがありながら……。ホント、ソラちゃんは罪な女の子よね……」
むしろ罪多きなのはサクラさんでしょ……。
わざとこういうこと言うから達が悪い……。
「私はサクラ一筋だよ」
アレンさんはそう言うと、跪いてサクラさんの手の甲に口付けをする。
ミア様とシェリルさんからキャーッと声が上がる。
そして自分で振っておきながら、少し頬を赤らめるサクラさん。
「……いちゃつきに来たんですか……?」
「ソラ様って、サクラ様に結構辛辣だよね……」
「日頃の行いですよ……」
「その言葉で、関係性がよく分かった気がするよ……」
「いいじゃない、しばらく会えなくなるんだもの。これくらい許して頂戴」
「会えなくなる……?」
「そ。今年はアレンが引率よ。一時的に貸すんだから、ちゃんと返してね」
「……そんなに信用ならないかい?」
「学園の子は可愛い子多いから、心配なのよ……。ソラちゃんにはしっかり見張ってて貰わないと……」
可愛い子が多いことには同意するけど、それだけいちゃついてるなら杞憂でしょう……。
「貸すってことは……もしかして……」
「そうよ。ソラちゃんには西の国の視察をお願いしたいの」
サクラさんが視察と呼んだそれは聖女が各国に赴き、国王などの相談に乗ったりする、所謂行幸とよばれるものだ。
「今年は既に東の国と南の国は私が視察に行ってるの。聖国はこの間国王の愚痴、聞いたでしょう?だから残りの西の国と北の国については、ソラちゃんにお願いするわ」
「聖国の視察、あれで良かったんですか……?」
たまたまお茶会のあとに王様の悩み聞いただけなんだけど……。
「ファルスさん本人が喜んでいたんだからいいのよ。それで、ソラちゃんの親衛隊はまだできていないから、その場合は先代の親衛隊の一部を貸すことになっているってわけ」
「親衛隊ってことは、アレンさん以外の人達も一緒に行くんですか?」
「それだと怪しすぎるでしょ?だからあくまで表向きは遠征の引率としてアレンを連れていって、自由時間にでもアレンと一緒にセイクラッド王に会ってくれればいいわ」
「そんな『ついでにコンビニでアイス買ってきて』みたいなノリで言わないでくださいよ……」
「こん……びに?」
ソーニャさんが首をかしげる。
「聖女にしか伝わらないわよ、それ」
あ、そっか。
こっちの世界にはないか……。
「サクラ、もしかして自分が行きたくない国をソラ様に押し付け……」
「バカアレンっ!それは言わなくていいのっ!」
「……いくらなんでもそれではソラ様がフェアじゃないでしょう?」
もう既に不穏なんだけど……。
「……説明を」
「……あそこの王子と会いたくないのよね……」
幸先が悪い……。
「……行きたくなくなってきました……」
「ね、ついでだからいいでしょ?お願い!」
そのついでだって、作り物のついでだよね……?
前日まで先生が引率の人を知らないなんて明らかにおかしい。
「……一年ごとに交代ですよ」
「う……わかったわよ……」
そんなに行きたくないの……?
僕も東の国のお寺とか見て回りたかったな……。
「来年は、私と東の国に行きましょうね」
「ちょっと!アレンを貸すのは今年だけよ!」
僕を介していちゃつかないでもらえるかな……。