閑話19 投資家
【ライラ・クロース視点】
休日。
今日は久方ぶりに叔母様が帰って来ていた。
「久しぶりね、ライラちゃん」
「お久しぶりです、学園長」
「流石に学園の外で学園長と呼ぶのはやめて頂戴……」
叔母に特別な感情はないつもりだが、年に数回しか来ない相手に少し毒を吐きたくなるのは何故なのだろうか。
単純に「もっと帰ってこい」という寂しさから来る遠回しな欲求なのか、それとも「異物が屋敷に来たから追い払え」という本能的なものなのか。
自分の中のこういったよく分からない感情を分析するのもまた哲学だが、そんなことを常日頃から考えている時点で、私は本の読みすぎだと母親から怒られるだろうか。
「冗談です、叔母様」
「相変わらず本の事以外は無表情ね」
余計なお世話だ。
私はただ書に触れていたいだけ。
「そういえば、演劇見ましたよ。 貴女の語り部、見事なものでした」
「ありがとうございます。 ですが、優秀な後輩たちのお陰です」
シェリルの脚本がなければ上手く行ってなかった。
それに――
「そうですね。 とくにシエラさんの演技力には驚かされたわ……」
同意を求めていたわけではないだろうが、私もこくりと頷く。
「きっとあの子は、才能を妬まれていじめられるようになったのでしょうね」
「あら? ライラちゃんもその話、聞いていたのね」
「ええ、演劇がいじめられた原因になったとだけ、ですけれど」
あれだけの才能があれば、妬まれるのは仕方ない。
だがそういう才能の芽の潰し方は、私は大嫌いだ。
私は他人の才能の芽を開く側の人でありたい。
「シエラさんのことは、私の代わりに見守ってくれると助かるわ」
「はい」
「そういえばシエラさんで思い出しましたが、今度ソラ様とお茶会の席を設けることになりましたから、よろしくお願いね」
「……」
「貴女から用があるんでしょう?」
「……はい」
やはり隠し事はするものじゃない。
「大丈夫よ、ソラ様は頑張っている子には優しい方だから」
最近会長も叔母様も、何かとソラ様の話をしたがる。
それだけ魅力的な人だということなのだろう。
私は聖女祭で驚かすという最悪な出会い方をしてしまったから、既に幸先が悪すぎる。
いつ来るかわからないイベントに想いを馳せつつ、私は待ち人の来るのを待っていた。
◆◆◆◆◆
昼を過ぎて叔母様は何処かへ行ってしまった。
それと入れ替りのように、私が待っていた後輩がやってきた。
「いらっしゃい、シェリル」
「お、お邪魔いたします……!」
この萎縮している後輩こそが、私の見つけた芽だ。
客間へ案内すると早速本題に入る。
「例のものは?」
「は、はい……こちらに……!」
端から見ると闇取引のようだが、シェリルが取り出したのは原稿用紙。
「では、読ませて貰うわ――」
「よ、よろしくお願いします!」
「お茶を淹れて差し上げて」
「あの、お構いなく……」
「構うのよ。 でもそうね、半刻ほど暇をもて余すでしょうから、庭を案内してもらえる?」
「承知いたしました、お嬢様。 さ、シェリル様、こちらへどうぞ――」
◆◆◆◆◆
半刻後、私は原稿用紙を整えた。
「素晴らしいわ! 劇の脚本もとても良かったけど、貴女にはやはり百合小説の方が合いそうね」
「あ、ありがとうございます!」
「私、続きが気になって仕方ないもの。 私のために書いてくれたお礼に、是非これを受け取って貰えるかしら?」
私は用意していた契約書類を出す。
「え……こ、これは……!」
「私は才能ある物書きに出資して花開かせるような、新しいレーベルの形を作りたいと思っているの。 だからその夢の第一歩として、あなたと出資契約を結ぶわ。 貴女が書いた本が有名になることが私の――いや私達の第一歩よ」
「で、ですが……流石にソラ様にご許可をいただきたいです」
「確かに主人公は『大聖女さま』としているけど、実名が出ているわけではないから許されると思うわよ? でもそうね……貴女が気に病んで続きが書けなくなるのは困るから、今度聞いてみて貰えるかしら?」
「は、はい!」
「私からも今度、お願いをしてみるつもりよ」
その刻は、刻一刻と近づいていた。




