第67話 休憩
二日目。
一日目ほど忙しくなかったこともあり、僕達は交代で休憩時間を貰い見回れるようになった。
流石にサクラさんも来ていたし、聖女院からもできればソラとして来てほしいと言われていた。
僕は更衣室もトイレも入れないので、空き部屋を探し中に入り、素早くアイテムボックスから切り替えて制服から私服に着替え、ウィッグを取る。
生徒にバレないように裏手から外に出ると、エルーちゃんと男の子達がいるのが目に入った。
これは……嫌な予感……。
「メイドのお嬢さん、俺達と遊ばない?」
「ご、ごめんなさい……一人で見て回っているので……」
「せっかくだからさ、一緒に回ろうよ!」
壁ドンされて、言い寄られていた。
「い、いえ……結構です……」
完全にあの時と状況が同じだった。
でもあの時と同じで、僕に見過ごすという選択肢はなかった。
「私のメイドに、何か用ですか?」
「ああ?何っ……」
「ちょ……おい、まずいって……」
「ソ、ソラ様!?」
一対一のナンパならまだしも、多対一で話を聞かないのは流石に駄目だろう。
「羽目をはずしたくなる気持ちは分かりますが、節度は保ってください」
「す、すみませんでした!」
男の子達は逃げるように去っていった。
「ソラ様、ありがとうございました!」
「嫌だったのなら魔法を使ったり、叫んだりしてもいいんだよ?」
「それは……私のせいでシエラ様の周囲の評価を落とすわけには参りませんので……」
僕はエルーちゃんの両手を取る。
「私のことを気にしてくれるのはありがたいけど、エルーちゃんはとっても可愛いんだから、こういうことには気を付けてほしい。私の評価より、自分の身を護ることを優先してほしいな」
「!?」
僕はおもむろに『守護の指輪』をアイテムボックスから出してエルーちゃんの指にはめる。
「その指輪に魔力を込めれば、拒絶した相手を弾き飛ばせるから。身を護るためにもつけておいてね」
ぼっと顔を赤くしたエルーちゃん。
「あっ……ええと……!そういう意味じゃなかったというか……」
「ふふっ、ありがとうございます!」
恥ずかしがりながらも笑顔を見せてくれるエルーちゃん。
「さ、一緒に見て回ろう!」
「は、はいっ!」
エルーちゃんと二人で聖女祭を楽しむ。
相変わらずバレると大変なことになるので、僕はフードを被る。
それでもバレるんだけど、みんなお祭り状態なので、気付く人は少ない。
「ごきげんよう、ソラ様!」
「ご、ごきげんよう……」
慣れない挨拶をしながら、三年生の階へ。
三年生の出し物は、やっぱり過去二回経験しているだけあって、どれも凝っていた。
このSクラスのお化け屋敷も、この世界ならではの魔法を取り入れていて迫力が感じられる。
見えない闇からいきなり顔を出してくるミイラの格好をしたライラ様。
「!?!?!?」
エルーちゃんから声にならない悲鳴が上がるが、その後僕に気付いたライラ様が固まった。
そういえば、意図せずもこれが初対面なのか……。
初対面がこんなんでいいの……?
でもここで感想を言うのもおかしな話なので、「あ、あはは……」と取り繕って先に進む。
「……ソ、ソラ様……よく……平気ですね……」
お化け屋敷の出口を前に、ぷるぷる震えながらもそう言うエルーちゃん。
驚かされるのはいじめの常套手段だったからね……。
そりゃあ驚かされることに鈍感にもなる。
その後も脅かす側は近付いた時に僕がソラだと気付くみたいで、きちんとエルーちゃんを驚かせた後に皆同じように僕で驚いていた。
震えるエルーちゃんの手を繋いで落ち着かせる。
「大丈夫?」
「は、はい……ありがとうございます……」
少し紅潮していたが、震えは止まったみたいだ。
出口から出ると、ソフィア王女がお化けの格好で出迎えてくれた。
「あらソラ様にエルーシアさん、うらめしや~」
そんな「ごきげんよう」みたいに言われても……。
ソフィア王女もてっきり屋敷の中でノリノリでキャストをやっているものだと思っていたけど、このお化けのコスプレで察してしまった。
この王女、お化けの格好をしても可愛いだけで全く怖くないな……。
「あら、あらあらあらあら?」
「な、なんです……?」
エルーちゃんと繋いでいる手を見てそう言うソフィア王女。
「……もしかして……昼ドラの予感……?」
そもそも僕、浮気とか以前に誰とも付き合ってないからね……?
「ソラ様にエルー君じゃないか!来てくれたんだね」
「「エレノア様!」」
エレノア様とソフィア王女、よく考えたら同じクラスなんだよね……。
二人で一緒にいる姿を見たことがないから、二人でいる姿を見るのはなんだか新鮮だ。
「二人って、普段どんな話してるんですか……?」
「どんなって……そりゃあ共通の話っていえば、ソラ様やシエラ君の話だよ」
僕の事しか話してないの……?
「私が来る前は交流なかったんですか……?」
「そういうわけじゃないですけど……私はやりづらかったですよ……」
「そうなのかい?どこが?」
エレノア様はよくも悪くもそういうのに無頓着だろうからなぁ……。
「別に決まっているわけではないですけど、毎年会長を勤めるのは大体の方々が主席なんですよ……。それなのに、今年は私でしょう?きっと皆さん、私が王女だから帝王学の一貫で会長をしていると思われても仕方ないと思うわ……」
まあ確かに、生徒会長はリーダーシップを養うのによさそうな感じはあるけどね……。
「でもソフィア君だって次席だろう?別に気にする必要ないんじゃないか?」
「それを主席が言いますか!主席がっ!!私は勉強しないであんな点数を取れることが不思議でなりませんよ……。そもそも、貴女が会長になっていれば、私がこんなこと気にする必要はなかったんです!」
「ボクが会長なんかになったらそれこそ学園はおしまいだよ。それに、聖徒会の手伝いをするくらいならクラフト研究部にいたいからね」
「あんな実績出されちゃってはね……。先生も大喜びでしたよ、まったく……これだから天才は……」
この間聖女院から発表された合成クラフトの件のことだろう。
エレノア様の実績だが、実質クラフト研究部の研究成果でもあったので、その名を連ねることになったらしい。
「ま、まあまあ……私達凡人は、努力していくしかないのですよ……」
まあ僕の前世は努力しても何も変わらなかったけどね。
「満点主席が言っても、説得力がありません!!」
拗ねてお化け屋敷の中に入っていくソフィア会長。
僕の肩にぽんと手を置くエレノア様。
「今のは流石にボクもそう思うよ……」
……解せぬ。