第66話 喫茶
忙しいと時間はあっという間に過ぎていくもので、気が付けば聖女祭の当日となっていた。
演劇は二日目の最後なので、今日はメイド喫茶のお手伝いだ。
「いらっしゃいませ、お嬢様!」
「わあ、可愛いメイドさんね!」
メイドコスなんて久しぶりだ。
「い、いらっしゃいませ、ご主人様……!」
恥ずかしがるリリエラさんはなかなか珍しい。
まあ侯爵令嬢だし、自分がメイドをする機会なんて余程のことがない限りないよね。
あれ、どうして女性でも滅多に経験しないことを、僕は何度も経験しているんだ……?
……いや、これ以上思考を張り巡らせても自分が虚しくなるだけなのでやめておこう。
◆◆◆◆◆
しばらくすると、目立つ人達がこちらに来た。
あれは……サクラさんとリリアンナ王妃!?
「いらっしゃいませ、お嬢様」
「シエラちゃん、来ちゃった♪」
いや、「来ちゃった」じゃないよ、もう……。
「あら、あらあら♪ とても可愛らしいメイドさんね!」
「こちらへどうぞ……」
絶対に冷やかしだとわかりつつも、相手は国賓と王妃。
おとなしく席へと案内する。
「ご注文は何になさいますか?」
「あの、抱……」
「抱きつきはメニューにありませんからね……?」
「そうですか、残念……」
しゅんとする王妃。
「まあ冗談は置いといて、メイド喫茶に来たなら『アレ』はやっておきたいわよね」
にやりとしながらそう言うサクラさん。
王妃は冗談だと思ってないと思うよ……。
「オムライスを2つ、お願いね♪」
う、やはり逃げられなかった……。
◆◆◆◆◆
厨房ではソーニャさんが腕を振るっていた。
中等学校時代は自炊していたらしく、料理が上手だったらしい。
喫茶店を提案したのはそれが理由だったみたいだ。
「オムライスお待ち」
「ありがとうございます、ソーニャさん」
手をグーの形にして僕を送り出してくれる。
「お待たせいたしました、お嬢様」
「きゃあ、お嬢様ですって!」
「ふふ、なんだか初々しいメイド喫茶のメイドさんを見ているようで、うれしいわ」
二人のもとに届けると、ケチャップでハートを描く。
「では……」
母の調教がここで生きるとは思わなかったよ。
「美味しくなぁれ、萌え萌えきゅん♪」
両手でハートの形をつくり真心を込める。
こういうのは中途半端にやる方がかえって恥ずかしかったりするものだ。
「天使……」
「ああ、日々のストレスが癒されてゆくわ……」
サクラさん、普段からそんなにストレス貯まってないでしょ……。
「シエラ嬢、微塵も恥ずかしがらないとは……やはり流石ですね」
「わ、私も恥ずかしがっている場合ではありませんね……!」
いや、恥じらいがあるのもそれはそれでいいと思うけどね……。
リリエラさんはそのままでもいいと思う。
◆◆◆◆◆
サクラさん達が去ったあと、意外な客が来た。
「いらっしゃいませ、お嬢様、ご主人様!」
「シエラちゃん、久しぶりね!」
「シエラ様、ご無沙汰しております」
「お義父様、お義母様、お兄様! それにメルヴィナさんまで……」
シュライヒ家の皆さんだ。
「シエラちゃん、例の娘は同じクラス?」
お義母さんが耳打ちでそう聞く。
「はい、ご紹介しますね! えっと、リリエラさん!」
僕はリリエラさんを呼ぶ。
こちらに気づいたリリエラさんは、ルークさんを見て思わず固まってしまった……。
「リリエラさんに私の家族を紹介したいのですが、よろしいでしょうか?」
「で、ですが……!」
「大丈夫ですよ。 皆リリエラさんを歓迎していますから!」
顔を真っ赤にしたリリエラさんの腕を引っ張る。
「私のお友だちの、リリエラ・マクラレンさんです!」
そう言うと皆揃いも揃って面食らった顔をした。
あれ……?
なんか思っていた反応と違う……。
「き、君が……あのダリルの娘かい!?」
「は、はい!」
「そうか!私はダリルと同期でね、良ければ向こうの席で少し話をしても?」
「ぜ、是非……!」
そう言うと自然とルークさんを連れて席に座る。
お義父さんは僕にウインクしたので、きっと確信犯だ……。
「あ、あの……」
「応援、してますよ!」
「あ、ありがとうございます!」
僕はそう言ってリリエラさんを促した。
「さ、私たちもシエラちゃんに接客してもらいましょう!」
お義母さんとメルヴィナさんはいつの間にか別のテーブルに座っていた。
「お二人は何になさいますか?」
顔を見合わせると、口を揃えてこう言う。
「「オムライスで!」」
サクラさんといい、お義母さんたちといい、さっきからオムライスを頼む理由が食べたいからというより僕を困らせたいからなんじゃ……。
「さあ、私めにお慈悲を……!!」
メルヴィナさんが絶好調だ。
「じゃーあ、メルヴィナおねぇちゃんも、いっしょにおねがい……!」
「!?!?!?」
甘ったるい声で意趣返ししたところ、どうやら効果は覿面のようだ。
「おいしくなぁれ、もえもえきゅん!」
「キュン……!」
メルヴィナさんはまるで神に感謝をするように、両手の掌を合わせてこう言った。
「お腹……いっぱいです……御馳走様でした…………」
いや、オムライス食べてよ……。
◆◆◆◆◆
「しかし、あれがマクラレン家のご令嬢ですか……」
「お義父様とお知り合いとは知りませんでした」
「いや、あまり仲は良くないんだけどね……」
「え……?」
お義母さんがそう言う。
「もしかして私、とても不味いことをしたんじゃ……」
「ああいや、そういうことじゃなくてね……。 どうも向こうが一方的に嫌っているみたいなのよ」
貴族のそういう関係には無知だからなぁ……。
「でも私たちは歓迎しますよ。 あんなに恋する乙女の顔をされちゃあねぇ……。 家族を障害にさせたくはないわ」
「あ、ありがとうございます。 私も説得を頑張ります……」
あわあわしながらもルークさんとお義父さんに接客するリリエラさんを眺めながら、お義母さんはそう言ってくれた。
やっぱりシュライヒ家は、僕の自慢の家族だ。
「今度改めて、ルークさんをご紹介しますね」
「ま、まだ心の準備ができていないわ……!」
そう言うリリエラさんは、終始真っ赤になった顔を隠していて、普段とは違うギャップを見せてくれていた。




