第503話 開放
「お元気になられたようで何よりですわ」
「ご心配をおかけしました……」
「とんでもない。ソラ様は神より与えられし祝福なのですから、全ての民が気にかけておりますよ」
そんな大袈裟な、と前なら思っていたのかもしれない。
「しかし結婚式でのケイリー様、とても素敵でしたね……」
「リリエラさんも憧れますか?ウェディングドレスは」
「ええ、一生に一度の思い出ですもの。それに大聖女様に祝福していただけるなんて、私なら一生忘れない自信がありますよ」
「リリエラさんにならいくらでもしますが……」
「ソラ様」
その言葉に、リリエラさんは少しむっとした顔をする。
「ごめんなさい。いくらでもというのはおかしかったですね……」
さっき「一生に一度」って言っていたリリエラさんに対してなに言ってるんだ僕は。
これじゃあ「何度離婚しても結婚式をしてあげる」って意味に捉えられかねないじゃないか。
「そうですわ、ソラ様!そう言っていただけるのは光栄ですが、ただの侯爵家の小娘ごときを相手に、そんな軽薄なことを仰るなどお止めください。ソラ様」
いや、侯爵家の令嬢が「ごとき」なわけないでしょ、何言ってんのリリエラさん。
少し齟齬があったが、そう言われた僕としても納得しないことがあってむっとしてしまった。
「ソラ様……?」
「私、軽薄になんて言ったつもりはないです!これでもリリエラさんにはとっても、とーっても!感謝しているんです!だから、リリエラさんになら喜んでやるって言ったつもりだったんです!」
むむむむむと頬を膨らませていると、リリエラさんは何故か頬を染めて口元を手で押さえていた。
「ソラ様……私が勘違いしておりました。大変申し訳ございませんでした。しかし、その……。も、申し訳ありませんが怒るお姿がとても可憐すぎるので、その怒り方はお止めになられた方がよろしいかと……。いつか必ず悪しきものにお持ち帰りされてしまいますよ?」
いや、何言ってんの本当に。
それから僕はリリエラさんに連れられ政務室で打ち合わせをしていた。
内容としては、主に僕の親衛隊のスケジュールの確認と五国会議についてだ。
魔物の脅威が押さえられてきたこのご時世で、流通が活発になってきた。
特にインキュバスが闇市を開いていたことがなくなったので、各国がより安全に交易が行えると踏んでいるようだ。
更にシルヴィアさんから聞いた「人の魂を糧に分裂するリッチが人ではなく魔物の魂を刈っている」ことから、リッチを刈ることでより安全になっていき、各地の強力な魔物もその数を徐々に減らしてきているらしく。
どうやら国と国とを繋ぐ公道での魔物の被害が着実に減ってきているそうな。
なのでその辺りの規制緩和が今回の中心となる議題だ。
ただ一点気になっていることはあるので、そこは事前に政務官の皆さんに共有しておきたかった。
「やはり私達にはソラ様のお知恵が必要ですわ。懸念点を仰っていただき、更には改善策の提案までしていただけるなんて……」
「大袈裟ですよ。リリエラさんは煽てるのがお上手なんですから……」
そういうと、さっきの僕みたく頬を膨らませてきた。
それ、ハマったの……?
こっちの方が僕より可愛くてお持ち帰りされそうだよ。
「ソラ様、謙遜は美徳ですが正しく受け取ってくださらないのは悲しいですわ。本当にそう思いましたのに」
「ご、ごめんなさい……」
本気だったらしい。
でもそんな大したことしてないんだけどな……。
「おっふろ~♪おっふろ~♪るんるんる~ん♪」
自室に帰ってくるとエルーちゃんが今なら誰もいらっしゃらないですからと教えてくれて、僕は大浴場に行き、ゆっくりと浴槽に浸かる。
「ふぃーっ……気持ちいい……」
裸族な趣味はないけれど、この誰もいない空間で周りを何も気にせず開放できるというのは気が楽でとてもいい。
僕は常に性別がバレるか否かの極限環境にいたからか、余計にそう思うのだろうか。
聖女院は大きな山と一体化しているような位置にあるため、とくにここから窓越しに聖国を一望できるのがこの大浴場の素晴らしいところだ。
「おや?珍しいな。ソラ様が入っているなんて……」
景色に夢中になっていたせいか、人が入ってきたことも僕は気付いていなかった。
「ああ、涼花さ……んんんんんっ!?」




